71話 オークション前に情報収集
オークション当日。朝いつも通りに業務をこなし、そこから生まれる利益をエイミーに計算してもらう。すると、使える予算は白金貨9枚と、金貨1枚まで増えた。
オークションは昼食後を目途に開催されるらしいので、ゴードンを捕まえてスペシャルギフトのオークションに対して情報収集をしてみると、やはり『戦闘力の強化を目的とした能力の競り』という意味合いがメインで知られているらしく、そういった戦闘行為に役に立ちそうな能力が多く競りにかけられるらしい。
ゴードン自身は護衛を雇う方がメリットが多い為、参加した事が無いらしくそれ以上聞く事は出来なかった。詳しい情報収集は諦め次は現役の冒険者であるアニの所へ向かう。
アニ自身、今は事情により一線を退いているとはいえ戦いに身を置く者だから、スペシャルギフトのオークションについて色々知っているかもしれない。後、アニは俺の納品する時間帯に仕入れに商館に来ている事が多いから気軽に聞けそうというのが大きかった。
ちなみにアニは、すでに屋台で売り子はしていない。
というのも回復魔法の売り先が俺に定量売り捌けるようになっているから、実はもう売り子として働かなくても大丈夫な程度の収入があるようになっているからだ。
だが、アニにしてみれば俺との取引が無くなれば収入が無くなる危機感があるから、まったく違う新しい事業を始めている。
その事業はゴードン商会の取扱いリストにある『スイーツ関連』用品の取り扱いだ。
アニは『チョコのアニー』として広まった名前をフルに活用し、スイーツ関連商材をゴードンと協力しながら屋台や店舗等にレシピをつけて売りまくっている。
アニの屋台も、申し訳程度の魔法の巻物を飾りながら、新作スイーツ販売の屋台へと変貌したのだ。
ちなみにレシピの考案は、なんとホールデンがやっているらしい。
このホールデン。研究できる物はなんでも研究してしまう性質の人間で、ニアワールドの食材と俺の持ち込んだ食材を組み合わせては利益率の高い新しいスイーツを作っているのだ。
ちなみに今、力を入れている商品はなにかというと、どら焼きサイズのチョコパンケーキを作って販売している。なにやらホールデンが魔力を通す事で発熱する板の魔道具と、30~40度くらいの温度を保ちながら撹拌し続ける魔道具を作って……まぁ、簡単に言えばホットプレートと、チョコを液状に保てる保温器だが、これが利益率やランニングコストでの収入がとても良いらしい。
ちなみに屋台でチョコパンケーキを作っているのは、アニとジャイアンと討伐をした時に屋台の留守番をしていた中年の女性だ。年の甲だろうかとても手際が良く、焼きあがったパンケーキをテンポよく半分だけチョコに浸しては、どんどん陳列していくのだが。次々と綺麗に出来ていくので、見ていても結構楽しく屋台の前でつい足を止めてしまう。
出来上がったチョコパンケーキは出来立てでも冷めてもガツンと甘くて俺が食べてもとても美味しい出来。この屋台では単品のチョコも販売していたりと、珍しさもあり、かなりの人気を集めるようになった。
アニ独自の販路開拓の行動については、結果として俺の利益につながる行動なので可能な限りの応援をさせてもらっている。
例えば屋台で使う道具などの提供だ。
パンケーキの種を適量ずつホットプレートに垂らす為の道具『種落し』などの『有れば便利な道具』を日本で購入してプレゼントした。
なんとアニはそれすら商材として儲けようとし始め、ニアワールドの商魂の逞しさを感じずにはいられない。
商館の玄関付近を歩いていると、そんなアニと出会う。
最近アニは俺に対して頻繁にボディータッチをして来てくれる事が多く、つい『レッスンタイムですか!?』と勘違いしそうになってしまうのだが、エイミーがそういった空気になると、すっと体を入れてきたりしてよく邪魔をしてくれる。まったくよく躾けられた馬メイドだ。ちくしょうめっ!
内心悔しがりながらも、笑顔でスペシャルギフトについて話を聞くと、ゴードンよりも詳細を知っていた。
アニの話では、スペシャルギフトは譲渡する者と譲渡される者のお互いの合意があって初めて受け渡しが可能になるらしい。また、受け渡す元々能力を持っている人間がどの程度渡すか。という事もその能力に応じて決める事が出来るのだとか。
例えば、炎の魔法を最大10連発で撃てる能力の人が、自分でも3連発で撃てるくらいの能力は残したいと思うと、それをきちんと残す事ができ、そして受け渡された人は最大7連発で撃てるようになる。
例外として犯罪者はその罪に応じて『強制』的に仲介者によって合意させられるらしい。
もっともひどい犯罪の場合は能力を全て『剥奪』される。
だが、昔と比べ今はひどい犯罪はそうそう起こっていない為、『剥奪』については、あまり目にする事もない扱いらしい。
つまりオークションでは『能力』や、その内容が『交渉』『強制』『剥奪』のいずれになるかで競りの金額も変わるのだろう。
ここについてはギルドでよく確認をした方が良い。
その他の情報としてオークションの参加者については、参加した知り合いの話ではあるが、冒険者がメインかと思いきや同じくらいの数の貴族が参加するのが常らしい。
この街の貴族は勇者の庇護下に有る為、良い貴族が多いらしく貴族と平民の摩擦などの問題は無いだろうけれど念のため気を付けるようにと忠言を貰って別れた。
「なんとなくの情報はつかめたし後はギルドで聞く事にしよう。じゃあ行こうか、エイミー。」
「はい。……なんでしたら移動は私に乗りますか? そして鞭を打ちますか? ハァハァ」
「遠慮しておきます。」
「……ちっ」
もうエイミーの舌打ちにも慣れました。
馬メイド曰く、ケンタウロスはご主人様を乗せたくなるんだそうだ。
ただ、アデリーは乗せられないから代わりに俺を乗せたいらしい。
だが『雌のケンタウロスに男が乗る』『雄のケンタウロスに女が乗る』というのは性的な意味もあるらしく、以前のエイミーは頑なに貞操を重んじてゴードンを乗せていなかったらしいのだが、アデリーのせいで性的に開眼してしまった今、隙あらば俺を乗せようとしてくるのだ。この馬メイド。なんて良い馬なんでしょうか。まったくけしからん。
ちなみにアデリーはエイミーが俺を乗せようとしている事は知っている『らしい。』
俺はゴードンから性的な意味を持つという事を聞いたが、アデリーに対してはエイミーが「説明した」と言っているのしか聞いていない。
なんとなくだが……微妙に肝心な部分は隠して説明したんじゃないかとも思うが、便利なエイミーをポリポリされては困るので無粋に突っ込むような真似はしない。
そんな常時淫乱馬メイドと共にギルドへと向かう。




