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パソコンが異世界と繋がったから両世界で商売してみる  作者: フェフオウフコポォ
新世界の調査と基盤作り編

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6話 異世界市場調査


 モニターを抜け自分の部屋へと帰り、安心できる自宅で一息つきつつ締めていたカーテンを開くと目に映る景色は夕方。

 どうやらニアワールドと現実世界の時間の進行は同じようだ。

 とりあえずトイレへ行き、そして簡単な食事を作って食べながら考える。



 ここらで少し自分の家の話をしよう――


 モニターの置いてある自分の部屋は2階にある。

 2階には合計3部屋あり物置にしている部屋と空き部屋がある。

 1階には居間と台所、そしてトイレに風呂。使ってない部屋が2部屋。

 庭もあり、庭には簡素な物置も置いてある。


 俺はここに一人で住んでいる。

 元々一人だったわけじゃない。


 父と住んでいた。


 父は仕事が命で小さな商事会社を起こし成功し、そして早くに燃え尽きた。


 母は俺が幼い頃に死んだと聞かされている。もしかすると仕事に命を燃やす父に嫌気がさして出て行ったのかもしれないが、事実を確認する気はない。

 俺はだいたいこの家に一人でいる。


 別に一人で気ままに暮らせるような莫大な資産を継いだとかではないけれど、父の生前から会社の登記上の役員として名を連ねてあり、そのまま父が起こした会社を継いだ事になっている。

 社員数名の会社で名ばかり役員という立場だ。


 会社自体は順調で、ギリギリ黒字を保つような調整もしている。

 役員報酬は毎月問題なく暮らせる程度の額は出ているし、ぶっちゃけ俺が表だって働く必要はない……というよりも、働こうにも全て筆頭社員のオバちゃんがまとめ上げていて俺のやる事は無い。


 このオバちゃんは立ち上げ当初から働いてくれていた人で会社の事は全部わかっているし、ある意味では母親のような目線で俺を見守ってくれているような人でもある。

 とはいっても所詮しょせんは他人だから、お互いに踏み入って良い線というのがあり過干渉はしない。もしかすると親父と良い仲だったのかもしれないとも思う程によくしてくれていて会社も『仕事がしたいなら来たらいいし、来なくても私が会社回してやる』と豪儀な人だ。かっこいい。


 故に俺はお言葉に甘えて引きこもり街道まっしぐら。


 まぁ、別に外が嫌というわけでもなく味気ない現実を無味に過ごしているだけの男だ。

 こういう立場を羨ましいと思う人もいるかもしれないが、オバちゃんが居なくなったら会社を回せる人が居なくなって潰れるだろう。

 もしくは順調に回らなくなったら、その瞬間に『いらない』と首を切られるのは俺一択だ。株式をもっていようが働く人が辞めてしまえば意味がないから必然的に自分から身を引かなくてはならない。

 他にも会社の不祥事があれば責任はその全てが俺に回ってくるし、もし事業資金を借入をしたのなら、その責任も全て俺に回ってくる。


 大したことないと思うかもしれないが、得体のしれないぼんやりとした危機感みたいなものは毎日付き纏うし、不安感にさいなまれるから、日常でもあまり思い切った事は出来ない。


 まぁ、筆頭のオバちゃんだけでなく、社員には俺の年の近いヤツも居たりして会社とは気安い関係は築けているとは思うから、当分の心配はないとは思うけれど。


 俺の素性はこんな感じだ……



 そんなことより異世界。

 あそこは日本とは何もかも違う世界。素晴らしい!

 この素晴らしさをもっと味わいたい!


 では、まず向こうの現金を手に入れる必要があるが、どうしたらいいか。


 奥様方主導の服交換で分かったが『物々交換』もしくは何かを売りつけるのが手っ取り早いだろう。


 現段階で俺が持ち込めるのは


 『俺が持って』

 『モニターの大きさを通る』


 この条件を満たす物だ。

 長いゴルフクラブを持って行けたくらいだから『俺の体が触れていればOK』なのかもしれない。


 じゃあ、一体日本にある何を交換の材料とするべきか。


 使って無くなる物が間違いなく好ましいだろう。

 そして運ぶ上で小容量で軽い物。


 物語の中だと定番の『オセロ』が活躍していたから、きっと遊戯系も行けるだろうし……。


 とりあえず物語で触れられていなかった物にターゲットを絞って考える、紙とペンにしようかと思ったが、そもそも識字率とかがお話にならないレベルだったら、それこそ話にならないだろう。

 会社で使う業務用品通販サイトを見ながら考える事にして早めに食事を切り上げ部屋に戻り、電源を入れる。


 食品、事務用品、衛生用品、作業用品。色々な物が販売されている。その中で目に留まった物があった。『種』と『苗』だ。

 種は持ち運びも楽だし、かなり珍重しそうだ

 取り扱い品種もF1種ばかりだから、これで商売をしようというのであれば、かなり良いかもしれない。


 1代限りしかきちんとした実を結ばない消耗品の種。


 だが栽培地に対しての影響を考えると後々のトラブルになるかもしれないから、固定種の方が良いかもしれない……難しい選択になりそうだけれど、当面の金にはなりそうだ。


 ただ、食料生産は異世界でも生命線。


 後々トラブルを引き起こしそうな物にいきなり取り組むのは避けた方が懸命……趣味で栽培できるプランターくらいにした方がいいかもしれない。


 次々とページを移動し、また目が止まる。


 乾電池式ランプと乾電池。

 これも需要はあるだろう。


 ……電池でゴミ問題も起きるだろうけどな。


 となると手回しLEDランプが良いかな?

 物語だと光は魔法で何とかしたって感じで書かれていたように思うし、そんなに明かりの話は出てこなかった。それにさらに時間が経っているのであれば物語の設定も多少なり変わっているかもしれない。


「……どちらにしろ夜の街を見ればわかるか。」


 丁度いいので、実際の光を見に行く事にした。

 アプリを起動しモニターの向こうを見る。


 路地裏のせいか暗い。

 よくわからないので、着替えて食品の調査も兼ねようと買い置きの安い棒状の駄菓子を数本鞄に入れてモニターをくぐり、中央広場へと向かい、路地裏を抜ける。


「おおお……」 


 明るい。

 夜も始まったばかりだからか、まだ昼間に見た屋台が何軒も残っているが、どうやら屋台はそのままに業態を変えて、ちょっとしたつまみや簡単な杯でアルコールを提供する店として営業しているようだ。


 ガス灯のような明るさで周りを照らす照明器具が円状に並ぶ屋台の2軒間隔で設けられ、屋台全体を照らし飲食を楽しめるようになっている。

 屋台そっちのけで照明器具を見ていると、ほろ酔いのオッサンが声をかけてきた。


「なんだい? マジックトーチが珍しいのかい兄さん。」

「これはマジックトーチですか。『マジック』という事は魔法で光ってるんですか?」

「おう。そうらしいぜ。詳しいことは知らねェけど魔力を込めておくと光るらしい。」


「これって、一般の家にもあったりします?」

「あ~……魔法が使えるヤツがいる家だと結構あるらしいな。

まぁそこそこな値段がするけどな。」


「高いんですか?」

「まぁ、大きさと装飾によりけりだな。」


「銀貨で買えますかねぇ?」

「さぁねぇ。そこまではわからねぇよ。わりぃな。

 ……まぁ気になるんなら昼に雑貨通りに行きゃあ買える店もあるだろうし、そこで聞くといいよ。」


「なんでも聞いてしまってすみません。有難うございました。」

「なに、いいって事よ。」


 親切に教えてくれた礼に、このオッサンに駄菓子を送ろう。

 ……別にモニターゲットだぜとか思ってない。


「ああ、そうだ。お礼に良かったらコレを食べてみてください。」

 包みを破り棒状の菓子を取りやすいように差し出す。味はチーズだ。


「ん? なんだいこりゃあ」

「スナック菓子という物ですね。甘くはないですが菓子です。」

「へぇ。タダでもらっちゃわりぃ気もするけど、頂くとするかね。」


 棒状の菓子を一口小さく食ってから、全部ぼりぼり食うオッサン。


「なんだ。コレ。味も濃くて美味いけど、なんかすぐ無くなるな。

 もっとたくさんあれば、いい酒の肴になりそうだなぁ。珍しいもんをありがとよ。」

「いえいえ、ちょっと教えて欲しいんですが、コレ店で売ってたら買います?」


 男は大袈裟に悩むような素振りを見せる。


「んん~~~?? そうだなぁ。

 すぐ無くなるけど、珍しいし美味いからなぁ……鉄銭2……いや、1枚ってとこかな?」


 ふむ。

 物語の解説では、


 鉄銭:百円

 銅貨:千円

 銀貨:一万円

 金貨:十万円

 白金貨:百万円


 とイメージされていた。


 仕入れ十円なのに百円で売れれば、ぼろ儲け。

 まぁ、ニアワールドでは最低の貨幣だけどな。


 ……小銭を稼ぐだけならいいが、薄利多売は面倒過ぎる。どうせなら一回の取引で金貨一枚くらい利益が出るのが理想だ。


 腕を組み右手を顎にあてて熟考する。


 とりあえず駄菓子とかで小銭と実績をつむのもあり。

 千円くらいの手回しLEDランプで銀貨を目指すのもありだな。

 屋台を見る限り木のコップを返却したり、コップを持ってきてたりするから、使い捨ての紙コップなんかの需要もありそうだし、業者への纏め売りの物も考えよう。


 明日は朝一で現実世界で仕入れする事を決め、路地裏に戻ってからアプリを起動し自分の部屋に戻って眠った。


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