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パソコンが異世界と繋がったから両世界で商売してみる  作者: フェフオウフコポォ
新世界の調査と基盤作り編

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66話 オバちゃんのゴリ押し販売

「いいかい? これからアタシの名前は『サリー』だ。そう呼ぶんだよ。」


 オバちゃんが真面目な顔で、そう口にする。

 今後『回復魔法の巻物』という存在を販売して行く上で必ず自分を探る者が出てくるという懸念からまずは実名を隠しておこうという思いから考えた策だ。

 今後こういった『怪しい商品』が増える可能性もあり、取り扱う場合は偽名の『サリー』と名乗る事にしたのだ。


 向こう正面に座っている30代半ばのメガネをかけた真面目そうな男は堪えきれずに吹き出す。

 オバちゃんも笑われた理由に察しはつく為、呆れ顔に変えながら言葉を続けた。


「なぁーにが可笑しいんだい? 鶴来さん?」

「いえっ、ふふ。『サリー』って……フフっ、失礼しました。」

「覚え易くてなんぼでしょうが、こういうのはさぁ。」

「え、ええ。わかりました。サリー――さん」


 偽名を呼ぶと同時に笑いをこらえたのか一瞬だけ詰まる鶴来と呼ばれた男。


「なぁんか引っかかる呼び方だねぇ。えぇ?」


 サリーさんが昨日の入浴中に思いついた売り先は、あまり表だって相手にしたくない相手だった為、自分や会社が表に出ないように気を配り、販売するに当たっては中間に人を挟む事にしたのだ。

 そしてその想定する厄介な相手の仲介に適した男が、今、サリーという名前を笑った鶴来という男だった。


 サリーさんの鶴来という男の印象は、一言で表すなれば『うさんくさい』


 この鶴来が取り扱っている商材を見ても『お金が貯まりやすくなる(かもしれない)財布』だの『健康になる(かもしれない)水』だの『ガンが治る(かもしれない)マッサージ機』だの、まっとうな人間なら眉唾物と避けるような物を成金相手に売りつけている。

 だが、それで商売を回せているというのは、それは一つの商才だ。


 日本中を飛び回り、それを買うような成金を探り当てる人脈やネットワークを手に入れる。

 その才能は賞賛に値するとも考えていい。


 それに、そういった商材も自分で作るのではなく仕入れをして極力リスクを減らしている。そしれ仕入れる為に自前の法人も持って活動しているから会社間での取引もできる。怪しい品の売買には丁度良い相手だ。


 サリーさんことオバちゃんの会社は商事会社であり、簡単にいえば『商品を右から左に流す仕事』基本的に要望があればなんでも扱う。

 その為この鶴来という男の依頼で、豪華な手作り一品ものの化粧箱だの何かと変わった物を納品したり、実取引の実績もあった。


 サリーさんは風呂から出てすぐに鶴来に電話で連絡をとると、幸いなことに鶴来も翌日午前に近場のコーヒー屋の個室で商談予定があるとの事だった為、その商談の前に30分程の時間を貰ったのだ。

 

「で、そのサリーさんが電話で仰ってた『とんでもない商材』とはなんなんでしょう? 拝見させて頂けるんですよね?」

「あぁ持ってきてる。間違いなく鶴来さんが欲しがる物さね。

 ……アタシも初めて見た時はあまりに想像以上の品で久しぶりに腰が抜けそうなくらいに驚いたよ。」


「へぇ……す――サリーさんがそこまで驚くなんて、それは楽しみですね。」

「鶴来さん? アンタ今アタシの名前言いかけたろ? ちゃんと慣れとくれよ。

 まぁ実物を見ない内は、アタシがなんでこんな面倒な事を言いだしているか解らないだろうけどさ……見たら、なんでこんな回りくどい事をしているか嫌でも分かるさ。」


「で、それはどんな物なんです?」

「鶴来さんや……アンタ確か古傷があったよね」

「えぇ。昔に包丁でちょっとやってしまった傷がありますね。」

「ちょっと見せてくれるかい?」


 鶴来は若干しぶしぶと言った雰囲気でスーツの上着を脱ぎ、パリっとノリのきいたワイシャツをの腕をまくっていく。

 鶴来の腕を見ると、どう考えても料理中に失敗してつくような傷ではなく、自分が刺されるのを庇った際についたのであろう傷痕があった。


「ねぇ鶴来さんや……その傷がさぁ、一瞬で消えたら『奇跡』だと思わないかい?」

「フフっ。そりゃあそうですね。とんでもない奇跡だと思いますよ。」


 サリーさんは緑の巻物を広げ右手に持つ。

 そして左手を鶴来の傷に当てる。


「……なんなんです?」

「まぁ、いいからちょっとこのまま待ちな。」


 サリーさんは目を閉じ『治れ』と念じてみた。。

 するとサリーさんの手から柔らかな薄い緑色の光が溢れコーヒー屋の個室を明るくなる。

 鶴来は目を見開きその光景に驚愕した。


 やがて光は徐々に弱くなり消え、サリーさんが手を放すと鶴来の腕の傷は綺麗に消えさっている。


「な、あ、な。えっ?」


 自分の腕の傷が無くなっているのを見て戸惑う鶴来。視線だけが腕とサリーさんを、そして巻物をいったりきたりしていると、突然発光した部屋を不思議に思ったのか店員が個室をノックする音が聞こえ扉が開いた。


「どうかなさいましたか? お客様?」

「あぁすまないね。なんでもないよ。ちょっと手持ちのライトが光っちゃってね。」

「はぁ……そうですか? 失礼します。」


 店員はテーブルの上にライトが見当たらない事を不思議に思いながらも、事なかれ主義らしく、あっという間に仕事に戻っていった。


 鶴来は茫然としながら自分の腕の傷のあった場所を撫でている。


「これが売りたいモノさ。傷を治せる一回使い切りの巻物……『奇跡』の巻物さ。」


 鶴来はにわかに信じられない物を見たという様子で、言葉が続かないのか、ただ口をパクパクと小さく動かしている。


「どうだい? これをアンタが知ってる団体とかに売らないかい?」


 サリーさんの言葉でようやく鶴来が正気に戻り、脳内でそろばんをはじく音が聞こえるほどに考えを巡らせ始め、すぐにその目が獣のようにギラつき出す。

 サリーさんは商談の成功を確信し内心ほくそ笑む。


「えぇ……私だけに卸してくれるなら売りましょうとも! サリーさん!」

「アタシがわざわざ名乗りを変えた意味も分かってくれたようだね。」

「もちろんですとも! 取り扱わせてくれるなら、この品の出所は誰にも探らせませんよ。」

「有難うよ。頼もしいねぇ。」

「もちろん、私に取り扱わせてくれるのならば……ですけれども。」


「あぁ、もちろんだよ。私としても鶴来さんが取り扱ってくれると嬉しいね。

 値段は1巻1000万でどうだい? 信じられないような奇跡が起こせるんだから安いもんだろう?」


 一瞬鶴来は息を飲む。

 サリーさんは畳みかけるように続ける。


「デモンストレーション用も含めて2巻セットなら1500万円にまけておくよ。

 まぁ高い買い物だし、ゆっくり考えておいておくれ。使い方も簡単で誰でも使える。詳しい使い方は納品の時に教えるよ。」


 そういい席を立った。

 詳細を聞こうと止めようとする鶴来が止める前にサリーさんは振り返り口を開く。


「あぁそうそう。ゆっくり考えてもらって構わないけど2~3日で回答をもらえなかったら……気が変わって大々的に売り出しちまうかもしれないからさ。

 まぁ、よろしくね。」


 そう言って、ニカっと笑った。

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