62話 くっころ……か~ら~の~
本日2話目
俺が日本に戻ってビデオとチョコ、ウイスキーに手回しLEDランプを買いこみ、ニアワールドでアニから買った回復魔法の巻物をオバちゃんに渡し、ついでに清算しようとして大量のレシートを提出した。
……そしたら案の定、金額にキレられたので逃げ、夜ごはんの時間も近かったから寄り道して牛丼を2つ買って帰ってきた。
この行動の約3時間の間に何があったのかをアデリーに詳しく聞くことにした。
「なんかイチを探してウロウロしてたっぽかったから、ちょっと罠張って捕まえただけよ?」
「あぁ。そうっスか。」
ニコニコしながら答えるアデリー
「じゃあイチも帰ってきたし、お話でも聞きましょうか。」
アデリーが馬メイドに向きなおる。
「ねぇ、アナタ。何が目的なの?」
「っ! 私は何も答えんぞ! っ殺せ!」
「あらヤダ物騒な子ね……じゃあお名前は?」
「答えんと言っておるだろう! 殺せっ!」
アデリーがヤレヤレといった表情で向きなおる。
「なんか話にもならないんだけど。ねぇ……イチは何かしたの? 心当たりはある?」
「いや、特に。俺のした事なんてチョコ売ったり酒売ったりペン売ったりしただけだし。」
「ふぅん……それでメイドが…ねぇ。う~~ん……じゃあ、ちょっとだけ強引に聞きだそうかしらね。」
「えっ!? 『強引に』って……まさか拷問とか?」
日本生まれとしては、ちょっとどころじゃなく引く。
「やぁねぇ。そんなヒドイ事なんてしないわよ。
地獄じゃなくて、どっちかといえば天国を見せるんだから。ふふふふふふふ。」
「え? ……天国って?」
「ふふ。乙女のたしなみよ……イチは見ちゃダメだから外に出てて。」
「いやいやいやいやいや、気になって仕方がないですが? なにする気なの!?」
「イチのその顔だと聞くまで納得しなさそうね。
う~ん……ちょっとだけ教えてあげると私って毒とかも使えるじゃない? 毒ってちょっと用法変えると……『興奮剤』になっちゃったりするのよ。だから……ね。」
「O.K. よくわかった。
一つ相談なんですが、ここで見ててもいいですかっ!」
「許可すると思う?」
「ちっ!! じゃ、じゃあ、アレだ! ちょっとだけ待って! 俺、買ったばかりの新しい道具の確認だけしたかったから、それだけ確認させて。いやぁ、あれって早めに確認しとかないと使えなくなっちゃうから。」
「?? ……なんか釈然としないけど、イチが困るんなら……」
アプリを起動し三脚とビデオカメラを部屋に持ち込む。
「ふんふん、ふうん、ほうほう」と一人わざとらしく声を出しながらセッティングし、馬メイドに照準を合わせ録画ボタンを押す。
「ふぅ! よしっ! 確認終了! 問題なく使えるよ! 有難うアデリー!
じゃあ早く話聞いた方が良いだろうし、これは後で片づけるから、ちょっとここに置いておいて! 俺、ちゃんとアデリーの言いつけ通り外に出てるから! じゃあね!」
あからさまに訝し気な視線を俺に送るアデリー。何も言わせない内にドアの外に出る。
…………
ドアに耳を当てて聞き耳を立てていると、しばらくの沈黙の後、馬メイドの嬌声が響き始めた。
目を見開き必死に聞いていると15分くらい経っても馬メイドの喘ぎ声が強くなり続けるもんだから心配になって……そう! 心配になって、ちょっと中を覗こうとした。ら、ドアがガッチリしまっててビクともしなかった。
しかも
「覗こうとするなんてダメねーイチ。」
と、ドア越しにアデリーが声をかけてきて覗こうとしたのがりバレていて肝が冷えた。
「い、いや、そろそろ晩御飯でしょ? どうするか聞こうと思って。ごめんねー。」
「あ~……それもそうね。でもようやくノってきたトコだから……後で食べるわ~。」
「そ、そっか。じゃ、じゃあ俺メシでも食ってくるかな。」
「いってらっしゃーい。」
ビデオカメラよ……後は任せたぞ。 ……本当に任せたからなっ!
俺が1階に降りると、ちょうどアデリーの晩御飯を持ってきたトーリさんと鉢合わせになり挨拶を交わす。
するとタイミングを見計らったように一際大きい馬メイドの喘ぎ声が2階から聞こえ、トーリさんが目を点にしつつ不思議そうな顔をした。
俺もバツが悪く、
「ち、ちょっと取り込み中でして。」
「あ、え、そそ、そうなのね」
と、互いに遠慮がちなやり取りをするだけだった。
せっかくなので、微妙な空気の中トーリさんに近場の飯屋が無いか聞くと、雑貨通りにも飯屋があるらしかったので、そこに行ってみる事にした。
着いた店はどちらかというとテイクアウト専門の弁当屋という感じで鉄銭5枚からメニューがあったが、銅貨1枚で豪華なサンドイッチが買えるようだったので、試しにその1個を買った。が……デカい。
アニの店番の交代で来たホールデンが持ってきたサンドイッチを思い出しながら、体が資本の世界だからみんなよく食うんだな。と一人納得しながらサンドイッチをパクつきながらアデリーの店に戻る。
まだ嬌声が聞こえていたので、その声の中、買ったサンドイッチをもぐもぐ食べる。
店に入って聞こえるのはアンアンという悩まし気な声。
アンアン もぐもぐ
アンアン もぐもぐ
アンアヒヒン もぐもぐゴクン
である。
お腹がいっぱいになると不思議な物で、なんとなく聞こえてくる声でも、すごくムラムラっとし始めてしまう。
なんとか発散したかったが覗くのは無理。頑張って覗こうとしてみたけれど、やっぱり無理。
諦めきれずに努力してみるけれど、どうしても無理。泣く泣く諦めて階段でアプリを起動し、部屋に帰って自分を慰める事にした。
何がとはいわんが魔法の箱で夢を見てスッキリした後、とりあえず風呂を沸かし、ゆっくり入ってさっぱりしてからアプリを起動する。
枠から顔を出すと、嬌声が聞こえなくなっていたのでニアワールドに移り部屋をノックする。
「はーい。もう開けていいわよー。」
「お、お邪魔しまーす。」
恐る恐るドアを開けると『いい仕事したなー』と言わんばかりのイイ笑顔で額の汗をぬぐうアデリーと、その奥で乱れたメイド服でヒクヒクとよだれを垂らしている馬メイドが目に入る。
「あ~……天国見せたの?」
「うん! それはもう物凄い天国をね!」
アデリーの笑顔がキラキラしている。
ここまで清々しく、まるで全力でスポーツをした後のようなすっきりした爽やかな笑顔だ。
「で……その、大事な事だけど……お話は聞けそうなの?」
「勿論よ! さぁ、エイミーちゃん。ご挨拶なさい!」
「ふぁ……ふぁぁい。ダメ馬の『えいみー』れすぅ。ご主人様ぁなんでも答えますぅ……あはぁん」
堕ちとるーっ!
超堕ちとるーっ!
くッコロどこ行った!?
アデリーの顔を見ると、とてもいいドヤ顔を返してくる。
俺はそんなアデリーに苦笑いを返しつつ、そっとビデオカメラの停止ボタンを押した。




