58話 大量のチョコの行方
本日4話目
『チョコください』エンカウントを避けるべく早歩きでアニの所に向かった。
が……大量のチョコを持った俺の脚は、そこまで優秀じゃなかったらしい。のたのた歩く俺にはエンカウントを避ける事は出来なかったよ。
ちなみにチョコはアデリーの糸を蝶々結びにして結び直しまとめて持ち運んでいる。
「え~っと。今は手が離せないから後であげるね~。」
と当たり障りなく答えていると俺の後を子供が続くようについてきて、それがいつの間にか一人二人とどんどん増えて連なり、そして短時間でいつのまにか大人数の行列へと進化していた。
なに? この子供列車。
先頭の俺めっちゃ注目浴びて恥ずかしいんですけど。
そのままアニの所に到着してしまい、アニに『プー! クスクス』と盛大に吹かれた。
「ちょっとイチ。アンタ何子供と遊んでんの? 何の遊びなのソレ。ヒマなの?」
「大変不本意ながら……ちょっと前から宣伝のつもりでチョコを子供に配ってたら、こんな様です……子供舐めてました。」
「チョコ配ってたの? 売らずに?」
「えぇ。チョコは全然馴染みが無い食べ物だったみたいですから、売る為にも味を知られてないといけないと思って。」
「へぇ……そっか。なるほど。将を射んと欲するならば、まずは馬からって感じかしら?」
「おかげで大分『チョコ』は浸透しましたけれど、かわりに俺が身動きとり難くなってしまいました。」
思わず苦笑いをする。
「ねぇ……イチ。その大量に持ってるチョコって、もしかして私に卸してくれるの?」
「えぇ。そのつもりで持ってきました。」
アニが子供達をチラリと見る。
「イチはその子達に今日もチョコをあげるつもりなのかしら?」
子供たちを見ると『まだか?まだか?』と言わんばかりの顔をしている。
「……それ以外の選択肢はなさそうです。」
「ふぅん。」
アニが髪をイジりながら何かを考えている。
「イチはさチョコを沢山仕入れられるのよね?」
「えぇ。問題ないです。」
「どれくらいの量を仕入れられるの?」
「1,000でも2,000でもアニのお望みの数を。」
「ふぅん……」
自分の髪に目線を戻し、いじり終える
「ねぇイチ。ものは相談なんだけど……その持ってきてくれたチョコを使ってパーっと宣伝するっていうのはどう?
イチが持ってきてくれたチョコを提供してもらうって事になっちゃうけど、その沢山のチョコを使って中央広場中に宣伝すれば注文も集まりやすくなると思うし、これからを見越すとやる価値はあると思うのよ。」
「ん? え? コレ全部をサンプルにですか? ……そりゃちょっといくらなんでも数的に無茶でしょう。」
「イチは1,000でも2,000でも仕入れができるんでしょう? それなら、これからどんどん沢山売れるようになる仕掛けをした方がいいと思わない?」
「いや、まぁ、それはそうですけど……でも、今持ってきた物だって仕入れで金はかかってますし――」
俺の言葉を遮るように谷間をぐぐっと寄せ前かがみになるアニ。
もちろん俺の言葉はピタリと止まる。
「イチも結果としては得するようになると思うし。私もそうなるように頑張るからぁ……ね?
提供してくれるなら私が今度サービスしてあげてもいいわよ。」
「喜んで提供いたします。」
二つ返事で回答する。
だってたかがチョコだ。せいぜい1万円だ。 それで高嶺の花の美女のサービスだぞ? サービスってなんだっ!? いや何かわからんが、でも響きがいい! 俺はアニに何かサービスしてもらえるんなら1万円払う! 払うぅっ!
てゆーか! 先生っ! 前に言ってたレッスンも何かまだ聞いてませんよ! 謎の単語が増える前にそろそろ説明をお願いしますっ!
俺が脳内会議を開催し始めたのを横目にアニは『言質は取った』と言わんばかりにニッコリと笑い、子供たちに向き直った。
「子供達。チョコが欲しいかい?」
ようやくもらえるのか!? と言わんばかりの子供たちが答える
「「「「 欲しいでーす! 」」」」
「そうかい。チョコは好きかい?」
「「「「 好きでーす! 」」」」
「なんでチョコが好きなんだい?」
「おいしいーからー」
「あまいからー」」
子供たちが口々にチョコの感想を口にする。
「うんうん。美味しいよね! ……でもね。そんなに美味しい物をまだ食べたことが無い人がい~っぱいいるんだ。 ちょっと可哀想じゃない?」
子供たちはアニの言葉につられ小さく「可哀想かも」と呟いたりしはじめる。
「だからこの広場の皆にもチョコを配って、教えてあげて欲しいの。 大変だけど、手伝ってくれる?
もちろんタダでとは言わないよ。手伝ってくれた子には――」
子供たちの数を数えるアニ。
「うん。チョコを5つあげるわ。それだけあれば、お父さんやお母さんにも食べさせてあげれるでしょ?」
チョコの大盤振る舞いに沸く子供。
そして「手伝う」「手伝う」と声が聞こえる。
「手伝い終わったら、皆にあげるから頑張ってね。 じゃ、お姉さんは中央広場のみんなにチョコをあげる事を伝えるわね。」
俺に向き直る。
「じゃあイチ。4袋だけはそのまま残しておいてね。後は全部子供たちに配らせちゃうから」
「あ、はい。」
アニは魔法を使ったのか、ふわりと浮き上がり自分の屋台の上に昇った。
俺はその様子に『えっ? 浮けるの?』と、驚きはしたが慌てる事無くアニの一挙手一投足を見守る。
きちんとアニを見守る。しっかり見守る。
……別にアニがスカートを履いているからじゃない。
もし落ちそうになったら助ける為だ。誤解しないで欲しい。
ふと横を見ると隣の屋台のにーちゃんも俺と同じような動きをしている。
きっとこのにーちゃんも心配しているんだろう。
妙なシンパシーを感じ思わず軽く会釈をすると、にーちゃんも会釈を返してきた。
『予見される危険を防ぐ為に見守るのは大事だよな! 男なら当然だよなっ!』
と目で会話をし二人で静かにサムズアップを交わし、小さな友情を感じつつアニに目線を戻す。
生足……素晴らしいです。
……でも……その奥が見えそうで見えない。くそう。
だが、それがイイっ!
屋台の屋根に上った事で注目を集め始めたアニが声を発する。
「広場のみんな。聞いとくれ! 私が近々取扱い始めるこれまでに無かった甘いお菓子を紹介するよ!
これから子供達が配るから是非食べてみて! ……と言っても、そこの黒髪の兄さんが配ってるのを見て興味を惹かれてた人も多いだろう?
ソレを今度から、このアニークラウディオが取り扱う事になった! 今日はソレを祝しての大盤振る舞いさっ! さぁっ、子供たち! 配って頂戴!」
俺は展開に少し慌てながら、とりあえずチョコの大袋を開封して近くの子供に渡していく。
子供達は俺からチョコの大袋を受け取ると通行人や屋台の人の分け隔てなく配りはじめた。
俺の連日の『チョコください』エンカウントでチョコが浸透していたのか、それともアニの信頼度なのか子供から受け取るとすぐさま食べてみる人が結構いて、その多くが味に驚きを見せている。
アニは屋根の上で、しばらく
「チョコが欲しくなったら、いつでも、このアニークラウディオに注文を!」
と宣伝をし中央広場ではこの日から
『アニーのチョコ』そして『チョコはアニー』
という認識が広がる事になるのだった。
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「とりあえずエイミーにギルドの様子を見に行かせたしな。それでも情報足りんかったらワイが直々に確認したるわ……って、なんや? 広場がうるさいのう。なんの騒ぎや? アリア。ちょっと見てき。」
「あいあい。了解なのだっ!」
犬耳メイドは中央広場へと向かっていく。




