49話 中央広場で交渉と実験
本日2話目
妙にドキドキする言い回しをされた為、アニの時間を借りてその時間の中で魔法を使っているのを見たい事を説明すると「なーんだそっちか。」と、アニは肩をすくめてみせた。
「モンスターに対して魔法攻撃するわけじゃなくて、標的は何でもいいから魔法を撃てって事?」
「ええ。何か手頃な目標に対して、なんとなく見た目が派手な魔法を使ってほしいんです。
俺って魔法を話でしか聞いたことないので実際に使っているのを見てみたいんです!」
「珍しいわねぇ……でも、そんなレベルの話だとギルドに依頼を出すまでもない……か。う~ん……出来るだけ派手な魔法……派手な魔法……」
「単純に素人が見て『スゲェー!』って思うような魔法で、威力は無くても見ごたえがあれば十分です。」
「ほんと変わってるわね……でも幾つか思いつくわ。」
「じゃあ、その思いついた魔法をを全部見せてもらうって感じで依頼料はいかほどでしょう?」
「う~ん……場所は街の外か演習場か……まぁ、どこでもいいんだろうし……2~3時間あれば十分かな?」
値段を悩んでいるんだろうかアニは髪をいじりながら考えている。ふと俺を見て意地の悪そうな表情をした。
「まぁ私の魔法を見るのがメインのデートみたいなものよね。銀貨5枚でどう? 私とデートできるなら安いでしょう?」
「有難うございます。それでお願いしますっ!」
吹き出すアニ。
「ちょっと即決とか本気なの? 高いとか色々突っ込むところでしょうに。」
「あ。え? そうなんですか? アニさんだったらそれくらいは当然なのかと思ったんですけど……」
アニは呆れたように笑った。
「まったくもう。ちょっと町から出て魔法を撃って帰ってくるだけよ? どう考えても高いでしょうに。」
いや、そうじゃないんだ……美人が魔法を撃つのが重要なんだ!
「いや! これはアニさんだからお願いしたいんです! アニさんにしかできないですっ! 美しい人が魔法を使っている所が見たいんです!」
真剣に話す俺に少したじろぐアニ。
ただ、なんとなくやる気になってきている雰囲気を感じた。……そして、やっぱり隣の屋台のにーちゃんは俺を睨んでいる。
「なら、分かったわ。私も気合を入れて魔法を見せてあげるわ。
銀貨5枚が惜しくないレベルのね。何時にするの?」
「有難うございますっ! えっと、ちょっと段取りしてみます!
明日はギルドと取引があるので、また明日中に一度顔を出しますんで、その時に日取りを決めさせてください!」
「そう。わかったわ……えっとアナタ名前は?」
「イチです。改めて宜しくお願いしますね。アニさん。」
「さんは要らないは、アニって呼んで。私もイチって呼ぶから。」
優しく微笑んでいるアニ。その姿を見ていると動画になっていれば間違いなく再生したくなると感じずにはいられなかった。
「じゃあ今日はとりあえずクリーンの魔法をお願いしたいと思うんですけど、もしかすると俺だけじゃなくて、もう一人もお願いするかもしれないんで、そいつを探してきます!」
「はーい。いってらっしゃい。イチ。」
笑顔で手を振るアニと隣の不機嫌そうなにーちゃんに見送られながら中央広場を歩くと衛兵が目に付いたので声をかける。
「すみません。ギャビィさんって言う貴族街区の前に立たれていた衛兵の方にお世話になったんで、お礼を伝えたくて探してるんですけど今も同じ所にいらっしゃいますかね?」
「ん? あぁ、まだ配置が変わってないからな。今日そいつが休みじゃなけりゃ居ると思うよ。」
「有難うございました。」
正直、この辺に居て欲しかった。スイッチバック式の坂道は結構急だから行くの面倒なんだよな。
歩く労力がかかるのは仕方ないと諦めて貴族街区に向かう。
--*--*--
「すみません。今日ギャビィさんっていらっしゃいますか?」
貴族街区の衛兵に話しかけるとチラリと俺の髪を見ている。
「ギャビィのヤツなら、壁の上で見回りをしていると思うぞ。アイツの事だから適当に歩いてるだろうな……会いに行くなら門の脇から入って上に行きな。」
「有難うございました。」
壁の上か……また歩くのね。
小さくため息をついて諦めて門脇の階段を上る。 坂道とか階段とかぶっちゃけしんどい。
階段を上り壁の上をしばらく歩くと、それなりに衛兵っぽい感じで歩いているギャビィが目に入った。
向こうも俺に気が付いたようで軽く手を挙げて振っている。
「よう! 勇者様と同郷の人っ!」
「あの、その呼び方やめてくれません? 俺イチって名前がありますんで。」
「あはははは。そりゃあ悪かった。しかし……一人みたいだが、こんな所に一人でなんの用だ?」
「俺ギャビィさんに用があったんですよ。前に黒い髪にできるなら銅貨払ってもいいって言ってたじゃないですか? 生えている髪を黒く染めれるかもしれない道具を持ってきたんです。」
「マジかーー!!! やっべ! やっべぇなっ! 俺も黒髪になれんの!? やばくねっ!?」
「えっと『かもしれない』なので、確実じゃないですよ? で、そのきちんと黒色になるか実験台になって欲しくて。」
「おう! 喜んでなるなる! 超なるぜ! どうする!? 今すぐここでできんのか!? 俺もう準備OKだぞっ!」
「いや、お仕事中でしょう? 場所もクリーンの魔法を使える人が居た方がいいので、中央広場でって考えてたんですけど、何時お時間頂けるか確認したかったんですよ。」
「かーっ、んなもん構うかよー! 仕事なんて適当に見回っている事にすりゃあいいんだよ! あ、そうだ! イチがなんか不審なもん見つけたって事にすりゃあいい!」
あはは。アホの子だ。
だが都合がいい。俺も実験は早いに越したことがない。
「あはは。じゃあ、俺ちょっと中央広場で変な薬品見つけたんで、ついてきてくれませんか? 衛兵さん。」
「おう! 俺に任せろっ!」
また、ギャビィが仲間になった。
階段を下りると、さっき話した門番に対してギャビィがきちんと姿勢を整えて向き直る。
「報告! 我が友より中央広場にて不審な物を確認したとの報告がありました!
我が友は見知った者でなければソレを確認させられぬとの事で、このギャビィが確認に行ってまいりますっ!」
……そんなんでいいんか?
あまりの適当さに、思わず笑いそうになったので頬を噛んで堪える。
上官らしき門番は、どこか呆れた感じの顔をしながら俺をチラリと見て首をクイっと動かし『さっさとこのバカ連れて行け』とジェスチャーをしてくれた。
俺は上官っぽい人に礼を返しギャビィと中央広場へと移動を始める。
ギャビィが道中黒髪の良さを俺に一方的に話し生返事をしていると、あっという間にアニの屋台の前に着いた。早速鞄から髪染めを取り出し説明書を読む。
なにやら髪の汚れが無い方がいいらしいので、兜を取ってもらってギャビィの髪を見ると、それはそれはアブラギッシュだった。なので、とりあえずギャビィの頭にクリーンの魔法をかけてもらう。
クリーンの魔法を唱える様子を見ていると、アニがなにやらムニャムニャと唱え、ほいっと指を動かすとギャビィの頭周辺だけ髪が無重力になったようにふわふわと踊りだした。
不思議な光景に口を開けつつ見ていると、やがて無重力状態が終わりどんどん重力に負けて落ち始める。普通の状態に戻ると、ギラギラのアブラギッシュだった髪が綺麗になってサラサラヘアーになっていた。汚れもないので髪染めの薬液を塗れる状態だ。
髪染めは独特のニオイがするので中央広場の端に移動しギャビィを座らせ、どこかツンとしたニオイを感じながら髪染めをペタペタと塗る。
薬液を塗った髪は一定時間放置する必要があったので、塗り終わった俺はギャビィとアニ(の谷間)について駄弁る。すると、頭を変な感じにしている衛兵と黒髪の男のコンビはどうにも珍しいようで自然と注目を集めてしまい時々中央広場の衛兵が確認をしにきた。が、ギャビィが
「ただいま、不審物を身体を張って調査中であります!」
と堂々と回答するので問いかけてきた衛兵は呆れ半分で諦めて離れていった。
髪染めの時間は携帯で計っていたので説明書の時間が過ぎると同時にアニの所へ戻り薬液のついたギャビィの頭にクリーンの魔法ををかけてもらう。
最悪薬液とともに染めた色も落ちるかもしれないと思っていたのだけれど、ギャビィの頭についていた薬液だけがきちんと汚れとして落ちたようでギャビィの髪は見事に黒く染まっていた。
鏡は無かったが、ギャビィは自分の髪をつまんで視界に入れ、きちんと黒くなっているのを確認する。
「なぁ、俺の髪黒くなってる!?」
自分で見た色が間違いないかをテンション高く俺に確認し、足りなかったのかアニや周りの人にも手当たり次第に問いかけては、返ってくる肯定の声にテンション高く喜び騒ぎまくっていた。
俺は、きちんと薬液がクリーンの魔法で落ちているのか確認した方が良いと思い、ギャビィに真剣な顔で伝える。
「2日くらいは水浴びしても髪を洗わない方が良い。黒色が馴染む為に必要なんだ。ただ、どうしても痒いとかそういうのを感じたらすぐに洗え。」
「ぜってぇ洗わねぇ!」
放置して問題が起きないかの実験ができる俺もニッコリ。ギャビィも嬉しくてニッコリだ。
上機嫌のギャビィと別れた。
これでギャビィの頭に異常が無い事が確認できれば、クリーンの魔法で薬液がきちんと落ちる事が確認できる事になる。うん。そうなればクリーンで商売をしている人に髪染めを売る事が出来るってもんだ。
新しい商材! ゲットだぜ!
様子を見ていたアニがボソッと呟く。
「イチって変な物も持ってるし……変な友達もいるのね。」




