41話 ピンチからのチャンス!
本日7話目
「不要になったから捨てるのですか? それは感心しませんね。
そのような精巧なペンを作る為にどれだけの人が関わり、そして苦労や思いが込められているかを、お考えになった事がありますか? そんな品を捨てるだなんて……軽蔑に値します。」
あ、俺。
言葉を間違えた感スゴイ。
アンジェナが、ものっそいイラっとした顔をしている。どうしよう。
俺的には
『え~。いらないなら私にくださいよ~。』
『はぁ? 捨てるけど、お前にやらねェよぷぷぷぷー。』
『え~ひっど~い!』
『そうだなぁ、どうしても欲しいんなら……俺のお願いを聞いてくれるんなら考えんでもないなぁ』
『ど、どんなお願いなの(プルプル)』
『ウェヘヘヘ』
って、流れを想像してたのに。
あっれー? 思いっきり虎の尾を踏んだ感があるよ。
これは早めに印象を回復させておいた方がいいような気がする。
「スミマセン。冗談が過ぎました。
アンジェナさんを驚かせようと思って心にも無い事を言いました。すみません。」
半目のアンジェナがじっと俺を見ている。
なにこれ緊張する。
「冗談と言うのは……笑えてこその冗談だと思います。」
「はい、すみません。仰る通りです。」
「そのペンはちゃんと使うのですか?」
「はい。使います。使わせて頂きます。」
「そうですか……お手紙の中で便利な道具を多々お持ちとの事でしたので、本当に破棄されるのかと思ってしまいました。」
ふぅ。と一息吐き、表情を変えるアンジェナ。
「それではお手紙は受領しました。
内容に関しまして当ギルドにて精査をさせて頂きます。 勇者様に届くかどうかの回答はできかねますので、ご了承ください。」
いつも通りの対応に戻って、ほっとする。
「あの。アンジェナさん……」
「はい。なんでしょうか。」
「ぶっちゃけた話、俺の手紙って目通り叶いそうですかね?」
「そういった内容は回答できません。」
スッパリ言い切ったアンジェナにちょっとガックリ来ていると、こっそりと小声で話を続けた。
「……あくまでも私見としては、可能性としては有り得なくはないかと。
私はイチさんの道具を見ていますから、珍しい道具をお持ちな事は理解しております。
ただし上の者が確認した時に『白い紙』に『変わった封筒』を見て便利な道具を持っているのは確かだと理解しても、どの程度の珍しい道具を持っているのかまで想像できるかというのは、なかなか難しいとも言えますので……確信は持てません。」
「あ、たしかに。じゃあ、このペンを一緒に入れておけば通る確率って高くなります?」
「それは……高くなるかと思います…が、宜しいのですか? かなり高額なペンでしょうに。」
「いえ。このペン程度なら山ほどありますので。」
「……そうなんですか?」
おっと訝しげな視線だねぇ。アンジェナさんよ。
……ただ、なんとなく商売に繋がりそうな気がするじゃないの。
「ええ。売るほどありますよ。
なんでしたら今度持ってきましょうか?」
「……そうです……ね。ただ高額な品ですと、いかにギルドといえ購入は難しいので、まずはお値段を教えて頂けるとありがたいのですが……。」
確かに便利でも値段が分からない物は買えないよな。
えっと、ボールペンは……100均で2本セットとかもあったよな。一本50円見ておけば大丈夫だろう。
「ペン一本あたり、そうですね……鉄銭5…いや、4枚とかでどうでしょう? ……高いですかね?」
アンジェナがカウンターから身を乗り出し俺の手を両手で握った。
「イチさん! すぐにでも商談しましょう。」
「え。あ、はい。」
アンジェナにぐいぐい手を引かれ別室へと連行されてゆく。
イスに座らされたと思ったら、すぐにアンジェナが出て行ってポツンと一人残される。
どうしたらいいか悩みはじめるとアンジェナが男の手を引いてやってきた。
男はアンジェナに急に呼び出されたのか、戸惑っているが、どうやらエルフの男にみえるので、とりあえず盗撮する。
「クラムさん。こちらイチさんです。」
「あ、どうも。イチと申します。」
「イチさん。こちら、当ギルドの総務統括のクラムです。」
「えっと、クラムです。宜しくお願いします。」
「ではどうぞ。」
……
「……え?」
「ね、ねぇ……アンジェナ?
何時になくテンション高いのは分かったけど、もう少し説明をしてくれると嬉しいな。」
クラムさんが頭を掻きながらアンジェナに話している。
俺としても、もう少し頭出ししてもらった方が喋りやすい。
クラムさんと顔を見合わせ、お互い苦笑いをする。
「あっ。すみませんでした。
ええとですね……こちらのイチさんが非常に便利なペンを販売されておられるとの事で、一度クラムさんにも見て頂きたかったんです。」
「そっか。そういう事なら分かり易い。えっと……イチ…さんでしたよね。
早速ですが品物を拝見する事はできますか?」
「えぇ。もちろんです。
もし販売する場合は細かな点が変更されますが機能としては変わりません――」
アンジェナにしたように、ボールペンについてクラムに説明をしていく。
「ふむ。確かに便利ですね。
私なんかもインク壺を倒してしまったり、インクが垂れてしまったりと泣きを見たことが何度となくありますからね。このペンだとそんな心配が要らないしなにより携帯にも優れている。使い切りとは言え、ここまで高機能となれば、さぞ――」
『お高いんでしょう?』ってか? させねぇよ!
「鉄銭5枚でいかがでしょう?」
「…………このペンが一本でですか?」
「はい。」
クラムは真剣な表情で俺を見ている。
アンジェナもつられて俺を見ている。
美男美女に真剣に見られると……なんだろう。背景にイケてますオーラが見えるみたいな気がする。ははっ、心が折れそうだぜ。
「……何本用意できますか?」
「2~3日頂ければ1000本でも2000本でも。」
クラムが鼻を鳴らした。
アンジェナも『こんな時にまたひどい冗談を』といわんばかりの顔をしている。
「ふふっ。いや失礼。
イチさん。流石にソレは言い過ぎですよ。」
「私は商談で嘘はつきませんよ。」
ネット注文しとけば明日届くっつーの。
「ふむ……まぁ信じられませんが、もしそんなに早くできるのであれば準備できた本数全てを買い取らせて頂きましょう。」
クラムが半分だけ真剣に返答しているのが分かる。
これは本当に買ってくれるだろう。
「じゃあ5000本でもいいですか!?」
「いえ……それは流石に多いです。1000本で行きましょう。」
あぁ、しまった。
強気に出過ぎたせいで『本当に用意できるかも』と、クラムを弱気にさせてしまった。もったいない!
だが、いいぞ。
鉄銭5枚×1,000本だ。鉄銭が5,000枚だぞ! 金貨5枚って事だろ?
ペンなんて10本セットで売ってるやつなんて、せいぜい500円もいかねぇ。ソレを100セット。原価5万だ。それが50万の価値に変わるんだぞ!?
テンション上がっても仕方ないだろ!!
「じゃ準備出来次第ギルドに納品に来たらいいんですよね。
あ、そうだ。契約書とか何かないですか!?」
「ふむ。しかし、この程度で契約の話しをするのは少し――」
このニアワールドでは約束を違えると奴隷化する的な契約の儀式がある。
俺だって、そんな物騒な物じゃなくて普通の『契約書』が欲しいんだよ!
アンジェナが口を開く。
「でしたら依頼としたらいかがですか?
『ギルド発注の依頼としてペンを1000本納品する。報酬は金貨5枚』と。」
「「 それだっ! 」」
アンジェナ賢い。
あんた天才だよ。




