3話 異世界初のモンスター
「……え~っと」
右を向く。登坂。
左を向く。下り坂。
両方を二度見し、大きく息を吸い込む。
「かみさまーーー!!
かみさまーーーーっ!!!」
『なんじゃい騒々しいのう。心で呼びかけるだけで聞こえるぞい?』
突如脳内に声が響いた。その事に安心感を覚えつつ聞こえた言葉の意味を考える。
ん? それは思ったことが伝わるという事か?
下手な事は考えちゃダメだな。
こんなとこでどうすりゃ良いってんだよ! とかも失礼だろうしな。
『まぁ、その辺は目をつむってやるわい。』
流石神様、ケツの穴の小さい俺なんかと違って、器がでかい! しびれるぅー!
……って思っておけば悪くないだろう。 あっ。
…………これ
結構大変だぞ。
「あの、心を読まれると思うとかなりしんどいんで、なんとかなりませんでしょうか?」
『……そうじゃの。
ワシもその方が無駄に傷つくこともなさそうじゃしの。』
ですよねー。
『よし。
お主の携帯にワシを登録しておいた。以降はそれで呼び出すが良い。』
流石は万物の源、いいや世界の父、いいや命の源。
そんな方にこんなにも配慮頂いてしまって、もう私どう感謝したらいいのやら。
有難うございます! 有難うございます!
……って思っときゃ、とりあえず悪くないだろ。 あ。
『もう見んし聞かん!』
神様の音沙汰が無くなったので携帯を取り出し電話帳を見る。
そこには『神様』とこれまでになかった登録があったので早速発信する。
……この発信履歴は友達には見せられない。絶対に異常者だと思わてしまう。
「なんじゃい。意地悪小僧!」
「すみませんでした。
本心から思ったのですが、ちょっとだけ『盛って』しまった分が余計だったようで本当にすみません。」
「ふんっ!」
「怒らないでくださいよ。とりあえず、どうやって帰ったらいいのかもわからないままだとどうしようもないので帰り方だけでも教えてください。」
「アプリ入れといたわい。それを起動すればよい。
アプリを起動した所と部屋が通じて、お主が移動するなりしたら閉じる。
後は好きにせい! ふん!」
「なんて高機能な携帯になったんだ!
さすが神様尊敬せずにはいられません!」
「……………どうせ『って言っとけば良いだろ』じゃろ」
「やだなぁ! そんな無礼な事考えたりしませんって。」
「ふ、ふんっ! もう用事ができるまでかけてくるんじゃないわ!
あぁそうじゃ。一応ヒントじゃがそこの坂道は始まりの坂道じゃぞ。何かが起きるじゃろうて。
せいぜい満喫するがよい。」
「ヒントまで有難うございますっ! 嬉しいです! 助かりましたっ!」
「み、見え見えのおべっかなんか嬉しくないのじゃぞ! さ、さらばじゃ!」
ツー、ツー、ツー、と通話が切れた音がなり携帯の電話を切る。
始まりの坂道。
そういえば、この読んでいた物語の主人公もこの坂道から始まっていたように思う。
……確か主人公は坂道を上ったんだったな。
そして、山賊に襲われている馬車を見つけて、その中にいた美少女とボーイミーツガール発動したと。
腕を組み右手を顎に当てて熟考する。
「下りだな。」
チートも何もない俺が同じ場面に遭遇しても戦えるワケがない。
それに美少女を助けた主人公は美少女の案内で結局下り、その先にあった町へ入った。
であればさっさと町へ行こう。
「あ。町に入る税金とか……まぁ、なんとかなるだろ。
確か物語だと歩いて2時間くらいで着いたってあったから、およそ8kmくらいか……しんどいな。」
文句は出れどもせっかく来た異世界。
是非、異世界らしい村や街、そして人を見てみたい。
2時間いい運動だと思って歩くことにしよう。
やる気満々に一歩を踏み出し、そしてすぐに帰宅アプリを起動した。
アプリを起動すると目の前にPCモニターと同じ大きさの『枠』と暗闇が出現し、とりあえずそこに頭を突っ込んでみると、暗闇の先は自分の部屋だった。
予想通りモニターから顔を出している状態だったので、そのまま潜り込んで部屋へと帰り、タンスから靴下取り出して履き、玄関までスニーカーを取りに行く。
玄関で、ふとニアワールドにはモンスターがいる事を思い出し、武器になりそうな物が無いか探すとゴルフのドライバーが目についたので持っていくことに決める。
予備として刺したら強そうな工具のドライバー、念の為の折り畳みのノコギリもポケットに入れて部屋に戻り、そしてアプリを起動する。
パソコンのモニターが真っ暗な空間に変わったので頭を突っ込むと、これまた予想通りの戻る時にアプリを起動した位置そのままの場所だった。
頭を部屋に戻してスニーカーを履いてからニアワールドへと戻り、改めて歩き始めた。
順調に30分ほど坂道を下り、ふと、この世界の主人公の事が思い浮かぶ。もしかすると、『彼』もいるかもしれない。
物語の主人公だけあって彼の性格はよくわかっている、序盤は結構クズい事を平気で考えていて出会った美少女を狙って行動した結果、賞賛され、もてはやされてモテモテ。
最後は聖人のような清廉さが身についているという、よくあるパターンのヤツだ。
彼が居るとしてこの世界が『どの程度ストーリーが進んだ状態なのか』というのも結構重要かもしれないと思い、顎に手を当てる。
というのも、この物語のメインの『敵』となる存在は『モンスター』。怪物だ。
物語は、基本的に4~5箇所の街を中心にして行ったり来たりしてトラブルを解決しており、あまり多くの都市名は出てこない。
だからこそ、物語の進行に応じて同じ場所であっても出てくるモンスターが変わっていく事になる。
物語の終盤であったなら、序盤の俺がいま居る場所でも『狼男』とかそういった、かなりヤバそうなモンスターも普通に出てくるようになっていたはず。
「おっ? ……ってことは普通に歩いているけど、チート無しで戦った経験もない俺がただ歩いている状況って……実は結構ヤバイ?」
思わず不安を口にした。
その瞬間、後ろから物凄い物音を立てて馬車がやってくる。
馬を操っている人の顔を見ると青ざめて必死なのが遠目からでもよくわかる、すごいスピードを出していて撥ねられてはたまらないので慌てて道を譲りつつ『そんなにスピードでるんだ馬車って』と思いながら眺める。
馬車の操舵主は俺に気が付いているようで何かを叫んでいるのが分かった。
「……や………げろ……ジャ…ントが……」
目の前を通り過ぎる時に叫んでいたが、スピードもありうまく聞き取れない。だがおおよそモンスターが来ているだろうことは分かった。
とりあえず自衛の為にゴルフクラブを握りなおして、これまで来た道を振り返る。
おや?
人が歩いてこっちに向かってきてる?
おかしいな。
遠近法が狂っている気がするよ。
ソレとの距離が200mくらいに近づいたと判断した俺は、ソレが身長が8m以上ありそうな巨人なんだとなんとなく理解した。
きっとさっきの通りすがった人は
「早く逃げろ! ジャイアントがやってくる!」
って言おうとしたんだな。うん。
なっとくした俺はアプリを起動して家に帰った。




