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パソコンが異世界と繋がったから両世界で商売してみる  作者: フェフオウフコポォ
新世界の調査と基盤作り編

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34話 知っているヤツキター!

本日7話目



 無能系衛兵ギャビィの案内で栄育院へと足を踏み入れる。建物は3階建ての四角い構造のように見受けられた。 


 入った瞬間、日本の学校を彷彿とさせるような作りが目につく。下駄箱に食堂のような広い部屋があり中庭もある。建物の中央が中庭になっていて、まさに学校。

 衛兵に習って靴だけ脱ぎ中に入り、中庭の様子を探ってみると人の気配。気になり盗み見すると、8~15才くらいの子供達が、火や水を自分の周囲に幾つも浮かべていたり、剣を浮かせて打ち合ったりして特訓をしている。


 魔法を唱えている少年の口は小さく動かしていたから、何か魔法の言葉をを呟いているように思えた。

 ……同じ孤児でもオーファンと違って喋れるんだな。


「子供たちが気になりますか?」


 声の方を見ると、髪をオールバックにした渋い中年の男が立っている。

 俺はこの人を知っていた。


 なんせ挿絵で見た事があったのだ。

 

 物語の序盤で主人公と美少女ヒロインが困っていた時に話しかけたのをキッカケに世話焼き役のような形で行動を共にするようになった剣士『ラザル』。


 性格は無愛想だけど優しく困っている人には手を差し伸べる上に芯が熱血という、物語の序盤の主人公の指導役のお約束キャラ。物語の後半ではハーレム要員に活躍の場を奪われて、後方支援に回っていたはずだった。


 ……とうとう主人公の近くのキャラクターが出てきてしまった。

 読んで性格がわかっている分やりやすい。


 この人は『不愛想に見えるけれど頼られると頑張る』性格の人だ。


 ……書かれていた物語が終わってから8年経っているのが懸念として考えられるけれど、性格なんていうものはそうそう変わっていないはず。


「突然お邪魔してしまい申し訳ございません。私はイチと申します。

 勇者様が孤児を育てていると伺い感動いたしまして、少しでもお役に立ちたいと思い細やかですがお菓子の差し入れをお持ちしました。……が、生憎とこの街の事情に疎く、どのようにしたら良いか困っておりまして衛兵のギャビィさんにお願いし案内して頂いておりました。」


 ニコニコとしながらも、ラザルは俺の髪の色が気になるように視線が動く。


「そうですか。それはそれは有難うございます。

 子供達は食べ盛りの子も多いですからね。菓子であれば喜ぶ事でしょう。

 ただ、頂き物はすぐに配るという事は出来ませんので、一度私がお預かりさせて頂く事になりますが宜しいですか?」


 おや? ラザルはこんなに丁寧に喋るキャラじゃなかったはずだ。

 まぁ……栄育院で何かしらの役職についているとしたら役職に合わせて話し方を変えているのかもしれないな。


「ええ。もちろんです。」


 チョコを取り出そうとして、ふと止まる。

 ここはひとつ秘密を打ち明けてみてもいいかもしれない。

 少し悩んだが勇者と絡みのありそうなキャラクターには印象を強く持ってもらう為に話してみることにした。


「どうかされましたか?」

「あぁ、いえ。すみません。

 ……あまり大きな声では言えない事なのですが今回お持ちしたのは勇者様の故郷の菓子なのです。」


 俺の言葉に大して反応しないラザル。

 逆に盗み聞きしたギャビィはカッと目を見開いている。


「ほう。それは珍しいですね。

 なにせ勇者の故郷は誰もたどり着けない程遠いとしか聞いておりませんからな。」


 スっと俺の全身を見るラザル。

 

「もしや勇者と同郷だったりするのですかな?」

「えぇ……と言っても生まれが違いますので私には勇者様のように戦う力はございません。」

「……ほう。そうですか。それは残念ですな。」


 ラザルは終盤でも裏方とはいえ戦っていたキャラで、それはそれは強い。あぁ強い。怖い。

 なにより勇者のチートを目の当たりにしているから、俺が同郷と言うだけで強者扱いされる可能性があった為、先手を打って弱いことを伝え『俺と戦おうとしないでね』と、暗に表現しておく。


 なぜなら、ラザルは『強いヤツが居ると内心腕試しをしたくなっているヤツ』なので『腕試し』とか言われて殴られるのはまっぴらごめんなのだ。


「故郷の菓子かどうかは勇者様にご確認頂けばすぐにご理解いただけるかと存じますので、ぜひ勇者様がお戻りになられた際はこの菓子を一つお渡し頂けましたら幸いです。

 なにせ故郷の話をしたいと思っても、立場が違い過ぎてお話をすることもできず、一人寂しい思いをしておりますので。申し訳ない限りですが、お願いできませんでしょうか。」


「ふむ。わかりました。

 勇者の同郷であれば勇者も喜ぶことでしょう。一つ渡しておけば良いのですな。」

「有難うございます。故郷の思い出話もしたいですし、お手数をおかけいたしますが、よろしくお願い致します。ギルドには可能な限り顔を出しておりますから、『イチ』宛てに受付のアンジェナさんにでもご伝言を頂けましたら、飛んでまいりますので……

 あぁ。そうだ。少し話は変わりますが、私は勇者様の故郷のお菓子を、まだまだ持っております……それこそ『売るほど持っております』ので、もしご所望の際は、こちらもイチ宛てに、ご伝言を頂けましたら準備をさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願いいたします。」


 その後ラザルにチョコを20個程入っている一袋だけ残し、残りの2袋半を全部渡しておいた。

 もう包装のゴミも気にしない事にした。


 これまでは余計なゴミを持ち込むのはちょっとと思って、大きな包装は外してからニアワールドに持ち込んでいたが、プラスチックの包装が勇者の目につけば興味を引くと考えたからだ。


 紳士なラザルと別れ栄育院を後にする。

 ギャビィが「勇者様と同郷~~」と煩いので生返事を返し続けている。


 栄育院でのラザルとの出会いは思いの外の大きな収穫だ。

 ラザルであれば勇者と直接コンタクトを取れても不思議じゃない。

 ちなみにラザルの盗撮はちょっと怖かったので、できなかった。だって怖いものは怖い。あの人素手でモンスター殺してるレベルなんだもん。


 今日やるべき情報収集としては十分すぎると思えるほどこなせたので、今日のこれからは日銭の為の行動にシフトしよう。


 煩いギャビィを放置し、腕を組み右手を顎に当てて熟考する。


 中央広場を通って、チョコくださいと言われたら渡す。

 中央広場の屋台をぐるりと回って『チョコ卸して』の声が無いか確認する。


 その後アデリーの家に戻って、日本へ帰り、LEDランプ3個……いや、5個と、卵を4パック、ハブラシ20本、黒色の髪染とシャンプーとコンディショナー。そして大事な手紙用の封筒と手紙作成だな。


 ラザルに伝言をお願いできたとはいえ、連絡が付くまでは出来る限りの手は打つべきだからギルドからも手紙を出すのも忘れてはいけない。


 そして時間があれば失語症について調べてみる。ってとこか。うん。

 気が付けば貴族街区の門をくぐっていたので、ギャビィに礼を言って別れた。


 携帯をみると11時を回っていた。


 今日も結構やる事いっぱいいっぱいだな。

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