31話 オーファンについての疑問
本日4話目
アデリーが仕事部屋に移動したのを見届けて、まずは一度アプリを起動して自宅に戻りシャワーに歯磨き、トイレ。そして服を着替える。
買った中古一眼レフは首から下げる事にした。
写真については、オーファンの男の子の写真が加藤さんの好みのようだったし『チョコください』があったら必ず撮る事にしよう。
チョコ食って笑顔になってるところが撮れたらきっと百点満点だろう。
一眼レフは詳しい事は分からないので、オート設定にしておく。
ストックしていたチョコを鞄に全部詰め、鞄の空き的には時計を入れても問題なさそうだったので時計も持っていく。
荷物を指で指し確認し準備には問題がない。いつでも出発OKだ。
手に入れた銀貨類も少なくなってきているし、そろそろ日銭も稼いでおきたい。
いざという時に誰かにお願い事をする心づけなんかの為にも現金は必須。
通り道だし、まずはアイーシャの所でLEDの売れ行きも確認しよう。
時刻を確認すると、午前8時40分。
さ、出発だ。
アプリを起動しモニターをくぐる。
アデリーは作業部屋に居る。
「じゃ、行ってきます。」
「は~い。気を付けてね。今日は葡萄とか買ったり気を使わなくていいんだからね~。」
部屋から返ってくるアデリーの声。
……これは『買ってこい』という事だろうか?
ううむ……女の人のこういった言葉は本当にややこしい。
本心で『買ってこなくていい』と言っているのか『否定での催促なのか』わからない。
なので、聞く。
「わかった。何か他の果物は要る?」
「ううん要らないわ。大丈夫よ。ありがと。」
前者だったようだ。
お土産不要に安心して外出し、一番近いアイーシャの店に向かう。
近所なのですぐ到着。
扉は換気なのか全開に開かれていた。
「おはようございます。」
首を店に入れ声をかける。
「おーう。イチじゃねーか。おはようさん。」
ちっ!
「おはようございます。ブライアンさん。今日もいい朝ですね。」
「おう。そうそうイチよ。
あのなんだっけ、『えるーいーなんとか』とかいうヤツ。」
「手回しLEDランプですか? 実は俺も気になってたんで今日はそれを伺いに来たんですよ。どうでした?」
「おう。そうだったんか。ちょうどいい。
珍しいトーチだし、昨日、知り合いの所に直接持って行ってみたんだよ。
そしたらすぐに完売した。アレもっと手に入るか?」
「おー! いいニュースですねっ!
分かりました。何個くらい要ります?」
「そうだな。
とりあえずはまた3個で様子見させてもらうわ。
次はちょっと衛兵向けに持ってってみようと思ってな。」
ブライアン……できる営業だったんだな。
確かに衛兵は夜も見回りするし明かりも必要。
なにより人数が多い分、数が動く。
「うわぁ! さすがですねブライアンさん!
もし10個とか買ってくれるんなら値引きしますよ」
「え? たくさん用立ててもらうと高くなるんじゃねぇのか? 準備の手間もかかるしよ。」
「いえいえ、俺の故郷では『まとめ買い』は値引きすることが多いんですよ。」
「へ~。ちなみに何個くらいまで対応できそうだい?」
「1000でも2000でも。」
「はっはっは! そんなにはありえねぇだろ。
まぁ、10~20くらいなら余裕あるって事は分かったよ。
俺んとこの利もでっけぇから、ちぃと頑張るわ。」
頑張れー。
超がんばれー。俺の為に。
「えぇ。何か自分でお役に立てそうな事があったら、声かけてくださいね。
あ、そうそう。アイーシャにコレ渡してもらっていいですか。」
アナログなネジ式の時計をブライアンへ渡す。
「お? これまたなんか変わったもん持ってきたな。
……俺にはねぇのか?」
「ん~~。残念ながら男に贈り物をする趣味はないですね。」
「はっ! 言いやがるなぁ。さすがに珍しいもんばっかり贈られるアイーシャが羨ましいぜ。 女ってのは得だな。
わかった。アイーシャに渡しといてやる。」
「すみません。お手数おかけします。
……それ、壊れやすいですからね。お気をつけて。」
「わーってるって。心配すんなよ。」
なんだろう。
やっぱり自分で渡した方がよかったかな? と、少し思う。
ブライアンが壊して隠しちゃいそうな絵が思い浮かんだ。
微妙に後ろ髪引かれるけれど店を後にする。
「では、またLEDランプ持ってきますね。3個。」
「おう。よろしく頼むわ。」
店を出て歩くと、足が軽い。
幸先良いじゃないか。
これで銀貨6枚はもらえる。
今日は折を見てまたアッチでLEDランプを買わなくちゃだな。
少し浮かれ気分で中央広場へと向かうと、朝も早いが屋台はとっくの昔に営業をはじめているような雰囲気。
じっくり見てみるとオーファンが細々《こまごま》と行ったり来たりして手伝いをしているのが見えた。
せっかくなので、働く子供達を盗撮しまくる。
その中でチョコをあげた女の子もいたので、手を振ると笑顔で手を振り返してきた。
100点満点の笑顔だな。可愛い。
満足したので、とりあえず女の子に近づき、チョコを一個あげる。
慌ててワタワタしてたので、とりあえずウィンクしてみたら、なぜか納得したように、いい笑顔を見せてから、また手伝いに戻っていった。
しかし……なぜオーファン達は誰も喋らないんだろうか?。
失語症になるほど辛い目にあったんだろうか?
それにしても全員が全員っていうのはおかしすぎるだろう。
少しの疑問を感じながらも果物屋台のイケメンもいたので挨拶しながら盗撮する。
「や。葡萄の兄さん。おはようさん
またなんか変わったもん持ってるね。なんだいそりゃ。」
やっぱりここまでデカいカメラだと気になるよな。
「あぁ、やっぱり気になるよな。
俺ってあんまり物覚えいい方じゃなくてな。コレを通して見ていると忘れにくくなるって道具なのさ。
変なもん持ってて悪い。」
「へー。おもしれぇな。
俺も持ってたら兄さんくらい気前よくドーンと使えるくらい稼げるのかな? あははは。」
「はは。前のはお兄さん気づいてなかったけど、実は……キレイな女の人がこっちを見ててね。それでつい見栄張ってみただけなんだよ。だから今日は手持ちがなくて買えないのさ悪いね。」
イケメンは愛想で笑う。
ちなみに盗撮はずっとしている。
そのスマイルが俺の金にかわるのだ。ふはははは。
「あぁそうだ……もし知ってたら教えて欲しいんだけど、オーファンって喋らないのかい?」
「あー……なんだか喋れないみたいだな。
俺も楽しそうにしてるのは見ても話してる声も笑い声も聞いた事無い。
いつか思い切り笑わせてやりてぇんだけどな……」
「そっか……なんか邪魔して悪かったな。
また美人が見てたら見栄張るからそん時はよろしくな。」
「はははっ! まかしといてくれ。」
屋台を後にしギルドに向かう。
向かいながら考える。
オーファンは笑い声すらでない。
楽しそうにしてても声が出ていない。
……なんかおかしくないか?
勝手なイメージだけど『失語症』って、楽しいって感情すら持てないような状態のイメージがある。
自宅に戻ったら失語症について調べてみよう。
ギルドに入ると、ウサミミビッチと目があった。
偶然にも接客していないのはウサミミビッチだけ。
ちっ! ビーッッツゥィと話するしかないのかよぉ!




