22話 イケメンを激写するしかあるまい。
昨日のお昼を食べた中央広場の一本裏の飯屋に入ってみる。
今日は一人の入店なので店員のお姉さんを盗撮しながらカウンターで注文をする事にした。
「えっと、オススメってなんでしょうか?」
「今日も銅貨1枚でオークの煮込みだよ。黒髪のおにーさん。」
あぁ。肉とジャガイモセットか
ん? 『今日も』……なんか引っかかるぞ?
「おにーさん、昨日ブライアンさんと来てたでしょ?
黒髪の人なんて珍しいからね。覚えちゃったよ。」
あぁ。納得。
「そうだったんですね。
俺は『イチ』って言います。
昨日食べて美味しかったので、また来てしまいました。
いやぁ綺麗な人に覚えてもらえて嬉しいです。ではまたオススメをお願いします。」
「はは~。私にお世辞言ってもお肉は増えないよ?
私は、ただただ皿を運ぶだけなのだー。」
綺麗な店員超盗撮しよう。
いやぁ、可愛いわ。うん。
綺麗だけじゃなく愛嬌まであるって、もうそれ最強だよね。うん。
……ただもう少しスカート短いと、もっと良いんだけどなぁ。
膝から下の『あんよ』しか見えしまへんがな。
っと、イケナイ。
あの子きっと15~17才くらいだろ?
俺は犯罪者になるつもりはないぞ。
店員観察及び盗撮を止め、周りのテーブルを見渡す。
まぁ~そこそこに混んでいる。
木製の皿に、木と鉄を合わせて作ったフォークばかりが目についた。
もしかすると皿とかも売れるのかもしれない。
「はーい。イチさん、おまたせ~。
煮込みとじゃがいもだよー。」
まるで、語尾に『♪』や『☆』が付いてきそうな陽気な口調だ。
明るくてかわいい子。うん。天使ちゃんだな。この娘は。
「じゃがいも、おっきいやつでお願いしといたよ」
コッソリ囁きとウィンクをして、またパタパタと仕事に戻っていく天使。
「アレは天使ちゃう。女神や。」
--*--*--
食事を終え女神に銅貨1枚を支払い、中央広場へと向かい屋台をグルグルまわりイケメン屋台を探すと、間もなく奥様に超スマイルを振りまいているイケメン発見。
嫌だけど盗撮する。
遠巻きに盗撮を繰り返し、ある程度枚数が貯まったので屋台へと向かう。
取り扱っているのは果物だった。
至近距離でとりあえず盗撮を継続しながら声をかける。
「おにいさん。
簡単に食べられる果物って、なんかある?」
「あぁ、あるよ。」
いい笑顔だ。
クッソ羨ましいな。イケメン。
イケメンに生まれれば世の中はバラ色なんだろうなぁ……
「そうだなぁ。オレンジなんかはちょっと皮は固いが剥いちまえば果汁がたっぷり詰まってて喉を潤すにはいいな。
もっと簡単なのが良ければ、リンゴもそのまま齧ってもいいし、葡萄なんかもそのまま食ってもいい。
どれがお好みだい?」
「その中で一番高いのは?」
「葡萄だな。これは品種が違っててな、めちゃくちゃ美味いから銅貨1枚する。
俺も自分で食うにはとてもじゃねぇが手がでないねぇ。
オレンジとリンゴは鉄銭2枚でお得だぜ。」
「そっか。ちなみにいつも売れ残っちゃうのはどれ?」
「まぁ葡萄だわな。流石に良い値段だからな。」
「おっけー。じゃあ葡萄を銀貨1枚分くれ。」
「銀貨1枚!? ……っと、兄さんいいのかい?
俺が言うのもなんだけど、さすがに多すぎねぇか?」
「いや、いいんだ。ほい銀貨。
……ただ、ちょっとこの辺でうろちょろするけど気にしないでほしい。」
「ん? よくわからねェけど……商売の邪魔にならなけりゃあ、かまわねぇよ。」
とりあえず色んな角度からイケメンを激写する。
俺の奇行のせいか変な顔をしたり、微妙に笑ったりと色んな表情が撮れる。
「いやー。しかしお兄さんはスゴイ筋肉してるよね。」
「おう。そりゃあ毎日こんだけ運んで売ってしてりゃあ、否が応でも筋肉はつくってもんよ」
力こぶを作っているイケメン頂きましたー。
「やっぱ腹筋とかもスゲー事になってんの?」
「あたりめーじゃねぇか」
上着をめくって腹筋見せてるイケメン頂きましたー。
「うっわ! めっちゃすげぇな! 戦士も真っ青な筋肉じゃん。」
「はははっ! まぁな。俺も中々えらいことになってると思うぜ。背中とかもすげぇぞ?」
「まじか? ちょっと見せてくれよ。」
上半身裸のイケメン頂きましたー。
………………
…………
……もういいだろ。
なんで微妙にテンション上げて撮影してんだ俺。
妙に凹むわ。
「あ~。お兄さんありがとうよ。もうそろそろ行くわ。」
「お。そうかい。
じゃあ葡萄はどうする? 1人で持っていくには大変な量だろう?」
「あ~……確かに。」
「なんならオーファンに手伝い頼んじゃどうだい?
運ぶくらいなら鉄銭1枚で足りるだろ。」
「あ。オーファンに手伝い頼んでもいいの?」
「もちろんさ。
逆に仕事をやってくれりゃあ俺達も嬉しいよ。
……あいつらツレェ目にあってきてんだからな。」
「あのさ、どうやってお願いしたらいいかわからないんだけど。」
「あぁ。そんなら任しときな。
オーイ! オーファーン!」
掛け声を聞きつけたのかどこからともなく、ちびっ子が3人集まってくる。
「この兄さんの荷物運んでやってくれるかい?」
ちびっ子がコクコクと頷く。
「量的には兄さんが持つと1人の手伝い、荷物を持たないってんなら2人って感じだけど……どうする?」
「じゃあ、2人で。
お金はいつ渡せばいい?」
「まぁ最初の方が俺達としては安心だな。」
いつの間にか女の子と男の子の2人になっていたので、鉄銭を1枚ずつ渡す。
イケメンから葡萄を受け取り俺を見てくる。
ん~~どうしよう。
とりあえずアデリーの店に向かうか。
子供たちのペースに合わせてゆっくりアデリーの店へと歩みを進める。
ちらっと振り返ってみると一生懸命葡萄をつぶさないようにしながら歩いてきている。
もちろん可愛いので盗撮は忘れない。
盗撮しながらだとあっという間にアデリーの店に着いてしまう。
店は無人だった。
「アデリー。ちょっとカウンターに物を置かせてほしいんだけど~。」
店の奥に声をかける。
「イチね。お帰り~。別にい~わよ~。」
「ありがとー。」
女の子のオーファンから葡萄を4房受け取る。
男の子が6房持っている。
「え~っとね。実はお兄さんはね、葡萄は4房しかいらなかったんだけど買いすぎちゃったんだ。で、残りは君達にあげるから持ってお行き。」
女の子と男の子は顔を見合わせてから、俺を見て首を横に振る。
「葡萄は嫌いかい?」
首を横に振る。
「葡萄は好きかい?」
首を縦に振る。
好きなのに『あげる』と言われて持っていかない。何故だ?
腕を組み右手を顎に当てて熟考する。
……
あぁ。もしかして『盗んだ』と勘違いされない為の予防策なのか。
「えっと、君たちは孤児院に住んでいるんだよね?」
首を縦に振る。
「じゃあ、そこまでお兄さんが一緒に行って、葡萄を置いていくと貰ってくれるのかい?」
目を輝かせながら首を縦に振る。
「アデリー。ちょっと出かけてくる~。
葡萄置いておくから、好きにしてー。」
「え? なんで葡萄?」
奥から返ってくる声を背に受ける。
女の子に先導してもらいながら、男の子と半分ずつ葡萄を持って孤児院へと向かう事にした。




