17話 迷子
三歩進んで振り返る。
五歩進んで振り返る。
……
十歩進んで振り返る。
確実についてきてるんですけど男の子三人組のストーカー。
女の子なら微妙に嬉しいけど見るからに頓珍漢だ。
あぁ。「トン」「チン」「カン」ってあだ名つけておく事にしよう。
なんとなく不気味だけど俺が止まるとあっちも止まるし、だるまさん転んだの延長の遊びかもしれないしな。
というか今はそれよりも迷ってる方が痛い。
貴族街区の高い建物目印にしようにも、住宅街で家が密集してて景色が一切わからん。
立ち止まり、腕を組み右手を顎に当てて熟考する。
ん。一方向に歩き続けよう。
最悪でもいつか壁にぶつかるし、農地に出れば分かるし何より人に会えたらそれでわかる。
よし。
とりあえず振り返る。
おおお。トンチンカンが微妙に近づいている。
何してんだこいつら。
まぁいっか。
--*--*--
しばらく歩みを進めると、微妙に下り坂を下っているように感じる。
振り返ればトンチンカンもやっぱりついてきてる。
もうご飯の時間だろ? 家帰れよ。
どんどん進む。
平らな道、階段、平らな道、坂道といった感じで、やはり微妙に下っている。
もうこの際、かまうものかの精神でどんどん進む。
そして思う。
うん。確実に間違ったな。
なんとなくだけど下水の用水路みたいな所が見えてきた。
これは……仕方ないから引き返そ……ん??
下水道らしき所に人影のような物が見えた気がする。
人がいるのならとりあえず道を聞こう。
人影の方に歩みを進めようとした時、腰に衝撃と痛みが走った。
「おおっ!?」
微妙に悶絶しながら痛みの元凶を見ると、カンだ。
頭掻いてた坊主だ。いってぇ。
「なな、何するのかな? キミっ!」
カンは少し離れて、首を横に振っている。
なんというか微妙に必死な感じだ。
トンとチンは少し離れた所で微妙に心配そうな顔をしている。
カンは下水道の方に指を指して首を横に振っている。
「んー……あっちには行かない方が良いって事?」
コクコクと頷くカン。
子供がしている事だが、原地人が「行くな」と言っている方にわざわざ行く必要も無いだろう。
なにしろ、どうせ迷っているだけだし、それに間違った方向臭いし。
「そっか。分かったよ。
何かは分からないけど言う通りにするよ」
カンは、ホっとした様子にかわる。
秘密基地でもあるのかもしれないが、まぁそんな物に興味はない。
一刻も早くアデリーの店に行きたいのだ。
「……なぁ。アデリーの店は知らないかい?」
何とも言えない顔をしているカン。
「マジックトーチを売っている、アイーシャさんや、ブライアンさんを知らないかい?」
微妙に申し訳なさそうなカン。
もしかしたらこの子は喋れないのかもしれない。
チョコをあげて確かめてみよう。
鞄からチョコを取り出し差し出す。
おっかなびっくりしているので、何度か受け取るように促し、もう一つ取り出し俺も食べてみる。
笑顔を作って『美味しいよ』を表現すると、恐る恐るカンはチョコを食べた。
初めてカンチョーをくらった子供のように、ビクンと垂直につま先立ちした後、驚きながら狼狽え、トンとチンを呼んだ。
せっかくなのでトンとチンにもあげると、まぁ~ビクンビクンです。
その後キラキラした顔をしていたので、喜んでもらえたのは間違いない。
だが、やはり喋っている様子はない。
さて、どうしたもんか……もう17時半くらいにはなっているだろう。
約束は守りたいんだけどな……ダメ元で聞き方変えてみるか。
「なぁ、君らは蜘蛛のお姉さんを知らないか?」
トンチンカンが顔を見合わせて、なにか手を動かしている。
この反応は初めてだ。
もしかすると……もしかするか?
「もし、連れていってくれたら、今のお菓子をあげるよ? お? おおおおお。」
トンが俺の左手を引き、チンは俺の腰を押し、カンが俺の右手を引き移動が始まった。
もしかしたら知ってるのかもしれないけど……逆に歩きにくいわ。
とりあえず、トンチンカンには手を離してもらい先導してもらった。
20分ほど歩いた先で、カンが住宅街の戸を叩いている。
残念ながら店舗ではなくただの家。空振りで間違いなさそうだ。
まぁ出てきた人にとりあえず聞いてみたらいいだろう。
「はーい。」という声が聞こえ戸が開いた。
「あれ? アデリーさんだ!? あれ?」
「あら、イチじゃない。もう今日は来ないかと思ったわよ。」
「え? あれ? お店は?」
「ここ裏口。」
あ~。そういう事か。
有難うトンチンカン。
「有難う! トンチンカン。
あ、いや。なんでもない。有難う助かったよ!
コレお礼だけど貰ってくれると嬉しい。」
トンチンカンに5つずつ安いチョコを渡す。
いい笑顔を作って3人は走って路地に消えていった。
「ねぇ、イチ? もうお店は閉めちゃったわよ?
今日はオーファンと遊んでたのかしら?」
「オーファン?」
「さっきの子たちよ。孤児。
まとめてオーファンって呼んでるわ。」
孤児院があるというのは聞いていたが、そこに住んでいる子たちだったのか。
まだまだ知らない事ばかりだな。
さっきの下水道も含めアデリーに色々聞いたらいいかもしれない。
「遅くなりましたが、昨日のお礼をお持ちしました。
結構強いお酒ですけど、きっと楽しんで頂けると思います。」
ウイスキーと、金色のチョコを6個を渡す。
「あらま律儀な男ねイチ。有難う。」
受け取ろうとして伸ばした手を、途中でひっこめ受け取らずに右手を自分の頬に持っていくアデリー。
中空を見て何かを考えている。
「……ねぇイチ。貴方夕食は食べたの?」
「いいえ。ちょっと探検のつもりが迷ってしまったので、これから酒場にでも行ってみようかと思っています。」
「ふぅん。じゃあ決まりね。上がっていきなさいな。」
「え?」
「一人より二人の食事の方が楽しいでしょう?」
「まぁ、それは確かに。でも……」
「じゃ、戸は締めたら鍵かけてね。」
俺の意見は聞いてないらしい。
俺から酒だけ奪い、もうすでに背中――というか蜘蛛が大きく見えている。
うん。グロイ。
とはいえ折角のお誘い。聞きたいことも多いしここはお言葉に甘える事にしよう。
閂のような物を横にスライドさせ、鍵をかけた。
異世界初のディナーはアラクネ製か。
……不安だ。




