16話 ウサミミビッチめ。いつか盗撮してやる!
「ふぅ。」
平然とアプリを起動しニアワールドへと向かう。
内心は『あのウサミミビッチ! 今度俺の前に来てみろ盗撮しまくって無料でネットでばら撒いてやるからな』だ。
さて、そんなことはもうどうでもいい。
期せずして子供達との遭遇からのギルドカード作成のコンボで、今日やるべき案件は『アデリーにプレゼントする』を残すだけとなっている。
まだ14時過ぎたくらいでアデリーの仕事も忙しいかもしれないし、酒の土産もあるからもう少し夕飯時の手前頃とかお客さんの来なさそうな時間に行った方がいいだろう。なんせウイスキーを飲ませて反応も見てみたいしな。
というわけで銀貨5枚、銅貨7枚、鉄銭9枚あるから、これから簡単な観光をしようと思う。
一応多めに買っておいたチョコも鞄に補充したし、子供軍団や奥様集団と再遭遇してもそれはそれで良し。
またチョコレートを叫ばせるだけだ。
気になる所としては……貴族街区かな。
まぁどう考えても入っちゃダメな所だし、まず入れないだろう。
物語上では、王都での貴族の居場所は平民は入っちゃダメって話だったから、多分新しくできたここの街でも無理だろう。
が、貴族がいるのなら、そこに向けて商品を流した方が金の動きがデカイし、どんな要望がありそうかくらいは知っておきたい。
今いるのは、中央広場から雑貨通りに向けて少し歩き始めたくらいの位置だ。
貴族街区はギルドのさらに先なので、回れ右で戻る事にした。
子供集団とエンカウントすることなく、ギルドの建物の前に着く。
「チッ」
とりあえずギルドの建物に向けて舌打ちしつつ、ギルドの外観を盗撮。
そしてギルドの先は折り返しのある石の坂道になっているので、とりあえずそこを上っていく。
傾斜が20度くらいありそうな坂道を3分程上ると折り返し地点になっていた。
スイッチバック式の坂道と言ったら分かり易いだろうか?
その先にまた折り返し。
折り返し地点には衛兵が立っているけれど特段声をかけられるような事もない。
上り続けると、門が見えてきた。どうやら貴族街区の入り口のようだ。
ただ、不思議と門は開け放たれている。
入ったら死刑とかだったら嫌なので、とりあえず門の脇の衛兵に聞く事にした。
「あの。
私一昨日この街についた旅人なんですが、この先って入っても大丈夫なんでしょうか?」
衛兵はやはり黒髪が珍しいのか、俺の髪を見ている気がする。
「あぁ。問題ない。
門を入って真っ直ぐ進むと栄育院がある。
後は貴族の方々の屋敷、中央の一際大きい宮殿は勇者様のお住まいだ。
あと、各門の横には入口があり、そこで壁の上へ上ることが出来るぞ。
夕暮れや時は恋人たちで賑わうお勧めスポットだ。」
かなり気易い貴族街区のようで安心した。
壁の外から見えた高い建物は全てここに集約されているようだ。
金持ってそう。
ちょいちょい気になる事があったから聞こう。
「栄育院ってなんですか?」
「うむ。勇者様が作られたモンスター等の被害で親に先立たれた子供の中から、優秀な子供を集めて教育をしている所だ。」
エリート養成孤児院だな。
「ちなみに優秀な子供以外は?」
「雑貨通り付近にある孤児院に居るだろうな。」
ふむん。
孤児院があるのか。
という事は里親制度とかもあるのかな?
「勇者様は今いらっしゃるんですか?」
「今はモンスター討伐に赴いておられて不在だ。」
「有難うございました。
じゃあちょっと散歩がてら歩いてみようと思います。」
「あぁ、キミ。ちょっと待ちたまえ。
念の為にギルドカードを拝見したい。」
作っておいて良かった。ギルドカード。カードを衛兵に渡す。
「……ふむ。『イチ』か。
念の為言っておくが、貴族街区では商売は一切禁止されているからな。」
「あ。そうなんですか?」
「あぁ。もし許可なく商売をしたら投獄される可能性もあると思ってくれ。」
おおおう。こえぇ。
「分かりました。教えて頂いてありがとうございます。
この街でも商売をしたいと思っていたので、知らなかったら危ないところでした。お礼にコレをどうぞ。」
金色の包みの高い方のチョコを渡す。
「なんだ? コレは。」
「ウチの故郷の菓子です。甘いヤツ。では。」
多分返してくるだろうから、とっとと踵を返して中へと進む。
商売が禁止されているのなら、あまり意味は無いけれど貴族の建物でどれくらい金持ちなのかを探るのはありだろう。
--*--*--
迷った。
ぐるぐると貴族街区を観察し、貴族街区は分かり易い作りだったから迷う事は無かったのだが、恋人たちのお勧めスポットと聞いた壁の上から眺められる景色ってのを見ようと思って、入った別の門の脇にあった入り口から壁の中にある螺旋階段を上った。
見える景色は街を見下ろせて見晴らしも良く素敵で、いい気分で貴族街区の周りの門の上を散歩した。
で、一番外の外壁との連絡通路みたいなのを見つけて、そこを渡って一番外の門の上に出た――まではいい。
まぁ~デカイ壁だから、ここまで来てかなり時間が過ぎてたのに気が付いて、早く降りようと思ったのよ。
で、壁の上から中央広場は見えてたし、何となく雑貨通りの近くだろうとあたりをつけた所の螺旋階段を下りて出ようとしたら鍵がかかってて出れなくて、焦って別の出口探したらなんとか出口らしき所を見つけそこから出た。
これが悪かった。
完璧に今いる場所が分からない。
とりあえず何となくの方向に進んでいるけれど、もう17時を回っている。
アデリーに今日行くって言ってあるし、何とか店に行きたいのに。グルグル急ぎ足で歩いてさらに迷う。住宅街であることはかろうじて分かる。
やばい。泣きそう。
もう夕飯時だし、ああああ。
心細くなりながら、とりあえず棒倒しじゃないけれど、なんとなくコッチ! と当たりをつけて歩いてみる。
行き止まり。
おおおおお。
心細い。
とりあえずUターンし戻ると子供が居る気配がした。
もしやチャンス! と思い、その方に向かう。
うわ。知らない子供だ。
ああああ、チョコ渡したことある子供なら案内させようと思ったのに。
でもとりあえず人もいないし、この男の子達3人組に聞こう。
「そこのキミ達。突然ゴメン。
アデリーさんの肌着屋に行きたいんだけど、迷ってしまって。
どっちに行けばいいかわかるかな?」
……
「えっと、もしなんだったら中央広場の方向だけでも教えてくれると嬉しいんだけど。」
アホ丸だしでぼーっとする子。
鼻くそほじってる子。
頭掻いてる子。
お願いだからなんか反応して欲しいんですが。
「あぁ。うん。なんかゴメン。邪魔したね。」
こりゃダメだ。と諦め適当に歩き出す。
しばらく歩いても、やっぱり見たことが無い風景。
夕飯時かつ路地裏のせいか人通りは無い。
悩みながら道を考えて、振り返ると。
3人組が遠巻きに見ている。
…………なんか子供達にストーカーされてる気がする。
アデリー! どこーー!




