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パソコンが異世界と繋がったから両世界で商売してみる  作者: フェフオウフコポォ
最終章 成金無双王編

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155話 修行

本日3話目



「どうか宜しくお願いしますっ!」


 俺はマドカに頭を下げている。

 それも全力の土下座だ。

 これは俺の心の表れであり、真剣さを示す為の行動。


「そんな事しなくても別にいーよ?」

「ひゃぁあん。」


 未だお気に入りらしいカミーノの、どこがとは言わんがを右手でさわさわして嬌声を上げさせながら適当な声で了承を伝えてくる色魔。


「ナディア~! ちょっと来て~。」


 色魔の声に、ダイヤボブの髪型をした美青年がやってくる。


「なに?」

「ちょっと手伝って~。」


 色魔が何かしらナディアと呼ばれた美青年にチョイチョイチョイと触れると、美青年はあっという間に美女に、そしてその半身は蜘蛛化して行き、複眼が出来て目から白目が消えた。


「あら? 久しぶりね。この姿。」

「うん。そっちも相変わらず素敵だよ。」


 久しぶりに見るアラクネ。

 アデリーとはまた違うアラクネ。


 ただアデリーと同じように、蜘蛛部分はそれほど大きくないし、危険色カラーの配色は一緒だ。

 人型部分の肌の色は色白で、美女。そして胸は小さい。


 うん……アデリーの勝ちだなっ!


「……なんか不快な視線を感じたんだけれど。」

「ちょっと~イチさん? ウチのナディアを変な目で見ないでよ。」


 色魔が『ぷんすか』と擬音が聞こえそうな風に怒ってくる。


「すいませんでしたーっ!」


 とりあえず本気で謝っておく。

 THE土下座だ。


「で? 何? アラクネでも見たくなったの?」

「イチさんがアデリーさんに勝てるようになりたいんだって。

 で、ある程度力をつけたみたいでナディアに模擬戦をお願いしたいってさ。」


 ナディアと呼ばれたアラクネ。


 勇者のハーレムメンバーである『アラクネの女王』が俺を興味深そうに見て、そしてどこか真剣に問い掛けてくる。


「アデリーに勝つって、どういう条件が貴方の勝ちなの?」

「はいっ!

 アデリーが『俺には敵わない』と思わせたら俺の勝ち!

 アデリーの事は大好きだし傷つける気はサラサラ無いですっ!」


 俺の言葉にナディアの表情が柔らかい物に変わる。


「あら。なら面白そう……だけど、結構ハードル高いんじゃないかしら?

 アデリーはとても強いわよ? 女王候補だったし。」

「……えっ?」


「ギリギリ私が勝ったから私が女王になったの、でもいい勝負だったわ。

 アデリーも義理固いから私の側近として仕えてくれて、私がマドカについていくって決めた時も一緒に移り住んでくれたのよ。」

「……そうだったのか。」


 まさかの女王蜘蛛候補。


 ……まぁ、強さを考えれば納得できないこともない。


「って、事は他の勇者の街に居るアラクネも……」

「女王候補はアデリーだけよ。

 他の子は私の側近や慕ってくれた子ね。

 私がマドカにべったりだったから、みんな諦めてそれぞれ自立したみたいだけど。

 アデリーは逆に私に当てられて人との恋愛に憧れを持っちゃったみたい。」


 アデリーの事を考える。


 女王に敵わず、従順に仕え、女王と勇者の恋愛を見守った。

 そして人との恋愛に憧れを抱き、人に近い所に住み続ける。


 始めから俺を気に入ったのも、黒髪の『勇者みたいな男』ってのに、マドカとナディアを重ねたのかもしれない。


 …………


 アデリーは……きっと『愛されたい』んだな。


 だから束縛する。

 そして病む。


 考えを巡らせ黙っている俺を見て、ナディアがクスリと笑う。


「いいわ。

 模擬戦に付き合ってあげる。私が襲えばいいのよね?」


 俺は考えを中断させる。


「あっ……はいっ!

 ソレを俺が躱し続け、時々反撃して動きを封じようと思います。」

「じゃあ、上級、中級、初級で、本気度を変えるから、まずは初級で行きましょうか。」

「宜しくお願いします。」


 ナディアの開始の合図とともに、ものの数秒で糸に拘束される俺と、呆れ気味のナディア。

 パンツ丸見えで笑い転げる色魔とヒクンヒクンと痙攣するカミーノの姿があるのだった。


 ナディアは呆れながら口を開く。


「いい? まず貴方は『戦い』という物に不慣れ過ぎるの。

 動きが素人そのものよ。私との模擬戦の前に、もっと戦いという環境に身を置いた方がいいわね。」


 ナディアの言葉と、日々スキルカードを割って力をつけたにも関わらず、あっさりと敗北したことに俺は、アドバイスの通り『戦いに挑む』事を心に誓う。


 だが、既にニアワールドに強力なモンスターの影はない。

 どうやって戦いに身をおくかを考えた俺は、モンスターはいないが力を持て余した冒険者達はいる事に目をつけた。


 モンスターは居なくとも、戦える超人達は多いのだ。


 こうして、夢と欲望の園の地下に、新しく『闘技場』が建設される事になるのだった。



--*--*--



 地下闘技場はもちろん賭けの対象にもなっているが、一定のルールを設け、回復役も控えているクリーンなスポーツとした。

 会場から受ける印象は地下闘技場そのものだけど。


 賭けはトーナメント形式の1,2着の単勝や連勝で予想する物や、その対戦毎の勝敗。

 バトルロワイヤルの中で誰が生き残るかという物が用意された。


 勝率や勝利数によって参加選手のランキングが設けられており、それによって駆けの倍率も変動する。


 モンスターが居なくなり、ニアワールド内で力を持て余している者達は多く、冒険者が力を奮う場を求め集まるようになり、やがて地下闘技場は、ドリームとグリードの頭文字を取り、独自通貨と同じ冠を背負った『DG(ドグ)ファイト』としてブランドを高めていく。


 投資と宣伝を終えた俺は、覆面をし『マスク・ド・ワン』として『DGファイト』への挑戦を始めるのだった。


 もちろん戦闘訓練をしていない俺はコテンパンにのされ、ランキングは下の下の位置に落ち着く事になる。


 観客からは『なぜ参加するのかわからないイマイチな挑戦者』、『噛ませ犬』として知られるようになり、常に闘技場では大穴となるようになっていた。


 俺は戦いの中で課題を決めていた。

 それをできるようにする事を目標に戦い、勝って賞金を得る事が目標ではないのだ。


 俺の目標はズバリ『痛い思いをしない』

 つまり、絶対的な回避能力を求め続けた。


 DGファイトはアデリーも見に来ることがあるから、俺は出来るだけスキルカードを割り続けた事で手にした能力を悟られないように、自然な感じでギリギリに躱せるように回避力を磨く必要があった。


 だが『ギリギリの回避』は達人の技であり、それを素人が出来るはずがない。


 何度も攻撃を食らう。

 何度も倒れ、

 そしてノックアウトされる。


 マスク・ド・ワンが倒れると、アデリーが相手に対してキレて、ムトゥに「スポーツですから!」と説得されまでがお約束となってしまうのだった。


 ――今日も倒れ、アデリーの膝の上で目を覚ます。


「最近イチは『DGファイト』にご執心よね……私心配よ。」


 アデリーがボヤく。


「俺だって男だからね……『強い』って認められたいって願望があるんだよ。

 ……でも、まだまだだから……とにかく特訓だ。」

 そう言いつつ回復魔法を自分にかけるのだった。


 ――このDGファイトは、存外役に立った。


 モンスターが出てこなくなって長く時が過ぎている。

 このモンスターが出ない期間はこれまでよりもずっと長いもので、人を平和ボケさせるには十分だった。


 DGファイトで集まった強者の中には、あぶく銭を得てカジノの楽しさに溺れ、遊ぶ金欲しさに強力なスキルを売り払う者、ランキングの存在によりDGファイトで望んでいた結果を出せず、戦うことから引退を決めて退職金代わりにスキルを売り払う人間が出始めていた。


 そして俺はそのスキルを気を失わない程度の弱いスキルカードに分割させて、それらを吸収し続けている。

 その数たるや、もうこれまでの人生で食べたパンの数ほどに分からない数になっている。


 ある日のDGファイトの一戦。

 『マスク・ド・ワン』は、初勝利を飾った。


 これは『回避力はもう十分身についた』という自信の表れだった。


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