153話 成金無双王編 プロローグ
「……ソレは、ホンマでっか? イチはん。」
「うん。情報の入手ルートは明かせないけど、ほぼほぼ確実とだけ。」
真剣な表情で大きく悩み始めるゴードン。
ひとしきり悩み、やがて口を開く。
「まぁ……確かにイチはんの言う事は金のニオイがプンプンします。
やけども……ウチの投資額を考えるとある種の賭けでっせ?」
「そうだよね。でも賭けに勝ったらジャックポットだよ?」
「ん~~……せやかてなぁ……」
渋るゴードンに対してもう一枚のカードを切る。
「じゃあ、もし賭けに負けても、事業の為に八百万商会が卸した商品は買取りなりそれなりに面倒見るならどう?」
「それやったらウチのリスクめっちゃ減るやんか!? そんなんでイチはん……ええの?」
「なんだかんだいってもさ、俺ゴードンさんには感謝してるし。まぁ恩返しの一環みたいなもんだと思ってよ。」
「い、いちはーんっ!」
「ゴードンさ~んっ!」
俺とゴードンは、大袈裟なハグを交わす。
ソレをどこか冷めた目で見ているゴードン護衛ケモミミズと、エイミーとアリア。
「ほんならさっさと詰めまひょ!
……え~っと、モンスターが消えた後の街の壁の外における農耕地の拡大と、農民になった人間に対しての耕作機械の販売や、そのレンタルシステムの構築。さらに収穫作物の買取りシステムの構築に物流システムの構築やな。
しかもそれを勇者の街だけじゃなし農耕の出来そうな街や都市全部に広げていく……改めて考えると、とんでもない話やでコレ。」
「そっ。結構とんでもない。まずは勇者の街で確立させて、後はノウハウを広げるって事になるけどね。流石に手が回り難いだろうし。でも俺、この事業は成功すると確信してるんだ。
……高額の機能のいい製品を売りつけて収穫量を増やさせる。想定以上の大量に収穫できる作物。出来過ぎた作物は消費しきれない物は捨てるしかなくなるから捨てるよりは増しと安価に買い叩ける。
働く人間は高額製品の返済に低収入と悪循環に陥る道しか存在しないけど、運用側にとっては生かさず殺さずの奴隷が出来上がるから、搾取し続け利益を生ませ続ける事ができる。
……まぁその分販路の確立や物流の取り仕切りが大変だけどね。それさえ実現できれば利益を得やすいシステムさ。」
「えげつなぁ…………イチはんの提案は本当に時々怖ぁなるわ。」
「でも、搾取されてもちゃんと生きていけるよ?
食べ物をしっかり作れる分、飢える事はないし。それに物が多く流れる事で物流の行き届く所は幸せになる。」
「物は言いようでんな。」
「物流システムに関しては、王都のアルマン商会も一枚噛むことになるから……というか、向こうがメインな感じになると思うけど、その辺は許してね。」
「まぁ、物流に関しては正直ゴードン商会じゃあ、手が回りきらんからなぁ。
きっと収穫物の集荷と集積所のシステム構築で手一杯になるやろし、当然ですわ。
……しかし、イチはん。
品物だけじゃなくて、物流も牛耳るってコトでっしゃろ?
例えばの話、もしどこぞの街、もしくは国がイチはんに逆らって、それでイチはんが物流を止めてしまえば、そこには物が満足に行きわたらんくなってしまうようにできるってことやろ?
今回の提案は、手の届く街や国を全部イチはんの傀儡にしてまおうって企みに見えるでワイには。」
「……その物流の中で最も重要な『食』部門を握ろうとする人がよく言うよ。
物が無けりゃあ物流を仕切ろうが無意味でしょうが。」
「そりゃそうやな……まぁ、いざとなればイチはんは向こうからナンボでも持ってくるんやろうけど、とりあえずは重要なポストを作ってくれたことに感謝やで。」
俺とゴードンは悪い笑顔で固い握手を交わすのだった。
「……しかし……エイミー……あれやな。」
ピッチリタイトスカートのスーツで、できる女風のスレンダー美女のエイミーをじっくり見て、ゴードンは肩を落とし、ため息をつく。
「なんでガックリしてんの?
俺、今のエイミー超好きなんだけど?」
「イチはん……あんさん、そこに関してはまだまだやな……馬やったからこその魅力があったんやないか……」
どうやらケモナーゴードンには、人型のエイミーはご不満だったらしい。
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「ほう……ギルドを乗っ取る。
それはなんとも物騒な話ですな……」
「えぇ。といってもアルマン商会が飲みこんで、ギルドの有するネットワークを利用できるようにするのが目的ですから乗っ取りというよりは業務提携……まぁ傘下への組み込みというのが正しいですが。」
「……確かにイチさんのおっしゃられる通りに今後モンスターが消えてしまったとすると、モンスター討伐の報酬の中抜きで成り立っているギルドは立ち行かなくなる。
仮にもし『本当にモンスターが消えたら』ですが、その場合は提案内容の履行も不可能ではないでしょう。」
「そうですね。私はそうなると踏んでいます。
今の平和な時間。モンスターのいない弱い獣程度しか目にする事のない時間がこれから永く続くと。」
アルマン商会の会議室で、商会の長であるヴィンセントを中心に、その兄妹を横に座らせ、俺はアデリーとエイミーを横に座らせて話をしている。
ヴィンセントの父は、さらに隆盛を極めるアルマン商会に安心し完全に引退しており、商会を真に代表する存在となったヴィンセントは俺から目を逸らす事なく考え、そしてまた口を開く。
「そのネットワークを使用して、銀行業務を始める……と。」
「えぇ。
勇者の街でエルフの持つ資産を活用させる取り組みとして金貸しをゴードン商会にやってもらった事がありますが、これから土地の開発などで融資の嘆願は増えるでしょうから銀行の価値は上がると見込んでいます。
で、間違いなく王国である以上、王族貴族が利益分配を求めて絡んでこようとするでしょう。
それに対抗できるような術はアルマン商会以外にはないと思うのです。
もちろん、八百万商会としてもその手伝いとして全面的に力をお貸しします。」
「ギルドの取り込み、王国との交渉。これだけでも非常に厄介な提案ですね。
……ですが、銀行業務、道路の建造といった土建、さらに物流システムの構築に、物流方法の提供が見返りにあるとなると、天秤は……イチさんの提案を受ける方に断然傾いてしまいますな。」
「賢明な判断かと。
私もアルマン商会とは別の商会を探すような事になってゼロから信頼関係を構築するのもとても面倒ですからね。」
「ははっ、恐ろしいことを平然と仰られる。
総合的に考えて、ウチがイチさんの申し出を断るという事はなかなか難しいですからね。
しかし取引を始める以前よりもイチさんが怖く見えてしまってますよ。」
「もちろんヴィンセントさんのウチに対する懸念も理解しているつもりです。
ですからウチから梯子を外す事はするつもりはありませんし、アルマン商会が動くのは本当にモンスターが出ないと確信できた時でも構いません。
ですが、時が満ちたら一気に帆を張れるように『種まき』は始めて頂けたらと思っています。」
ヴィンセントは一度目を閉じ背もたれに軽く背中を預ける。
そして一拍の後、目を開いて俺に右手を差し出してきた。
「アルマン商会は、八百万商会に協力を惜しみません。」
「有難うございます。」
ヴィンセントの手を取り固い握手を交わす。
握手の後、ヴィンセントの顔が柔和な物に変化する。
「さて、大事な話もまとまりましたし、アデリーさんとエイミーさんには、イチさんからの提案で王都で提供させて頂いておりますエステを体験して頂けたらと思うのですが、いかがでしょう?
もちろん最高級のサービスを予約してあります。」
「わぁ! 有難うございます。
アデリー。エイミー。サービスを受けた人がどう感じるのか知りたいしお願いしてもいいかな?」
エイミーはパァっと顔を輝かせる。
「有難うございます!
私も商品を流してて、どんなサービスがされているのか興味があったんです!
人の形なら遠慮なく体験できるし嬉しいです!」
嬉しそうなエイミーに対して、アデリーは顔を見る限り片眉をピクリとさせていて、どこか不満顔だ。
だ。が、小さくため息をついてから口を開いた。
「イチの頼みなら仕方ないけど……でも、イチ? 分かってるわよね?」
俺は何の事かわからず頭に疑問符が浮かびながらも、とりあえず『うんっ!』と元気に頷いておく。
アデリーとエイミーがヴィンセントの兄のスタンリー・アルマンの案内で退室すると、なぜかヴィンセントの妹のシェリー・アルマンと、服を着ててもエロい人ことルマナが俺の両隣に座った。
ヴィンセントはニッコリ微笑み。
「それではイチさんも折角ですから、ゲームセンター等のご提案頂いた事がきちんと稼働しているかご確認されませんか?
ただ、誠に残念ですが、私はこれから『種まき』の作業に入ろうと思いますので、シェリーとルマナに案内を任せることになるのですが……宜しいですよね?」
なるほど。アデリーの眉ピクはこういう意味だったのね!
俺は提案を断る事が出来ず、過剰なスキンシップの美女二人に挟まれるようにして王都をめぐる事になったのだった。
――こうして、ニアワールドの『衣食住』のうち、『食』と『住』を完全掌握する為の俺の取り組みは動き出した。
…………しかし……なんで、この服を着ててもエロい人は、こんなにもエロいのだろうか。
つい内股になっちゃう。




