148話 サプライズ【挿絵あり】
本日2話目
日当たりの良い屋根の上。
突然現れ隣で微笑む爺さん。
神様と俺。
「……お久しぶりです。」
「うんむ。顔を合わせるのは久しぶりじゃのう。」
俺の顔を見て意外そうな表情に変わり、2度3度と頷く神様。
「ほっほ~。色々あったのじゃなぁ。」
なんとなく、これまで俺が何をしてきたのかを見透かされたような気がする。
「……怒りますか?」
「いいや。怒らんよ。」
携帯をポケットにしまう。
ぽかぽかと温かい日差し。
神様から目線を外し屋根の上から広がる景色を眺める。
「神様……あなたが俺をニアワールドに引き込んだのは、ニアワールドが……あの世界が好きだったからなんですね。」
「そうじゃなぁ……ワシという存在も物語と共に生まれ、そして万能であったが為に、こうして神のような事をしとる。
だが万能とはいえ……やはりワシと共に生まれた世界というのは特別でな。なかなかどうして愛着も沸く。」
まるで人間のように笑う神様。
「ニアワールドを汚してるような事ばっかりしててスミマセン。」
頭を下げる。
「ほっ!? なんじゃ急に。悪いもんでも食ったか?」
俺の謝罪に困惑する神様。
「いや……だって俺、神様の好きな世界に色々持ちこんだり持ち出したり、カジノ作って善人ばかりの人達食い物にしたり、中には金に困って悪人みたいになっちゃった人も居ると思うんです。」
「はっはっ! 意外に繊細な事を気にしよるのぉ!
そんなことを言うたらワシとてお主に謝らねばなるまいよ。
ワシの意図で勝手に連れ込んで、愛着が沸くように仕向けた。結果お主の望まんような振る舞いとてさせてしもうた……すまなんだな。」
神様はそう言って笑った。
不思議と心が温かくなり言葉が続く。
「俺は……このまま思うように動いてもいいんですか?」
「いいとも。お主は生来のニアワールドの世界の住人ではないし色々知っておる。
つまり物語の世界の主人公であるマドカの影響を受けにくい存在。言葉を変えればマドカに多大な影響を与えられる唯一の存在なのじゃよ。」
「俺がチート勇者に影響ねぇ……」
「そう。」
「でも、もしマドカから攻撃食らえば死ぬんでしょう?」
「そらもう木端微塵じゃろな」
「えげつねぇ。」
ふとまったく違う事が頭に浮かぶ。
「神様って……物語から生まれたって言いましたよね。」
「うむ。」
「って、事は日本……この世界の神様としては存在していない?」
「ふふふふ……言うたじゃろ。
物語と共に生まれたが『万能』じゃと。
神とは、一体何を持って『神』と定義されておるのじゃろうな?」
「じゃあ、万能の神様がちょちょいとマドカに操作したりはしないので?」
「それができるならやっとるがの……こんなことを言うと『万能』違うやんか。とか思うのじゃろ?」
「当然思いますね。」
神様の問いに即答する。
呆れたように神様が続ける。
「ほれ見ろ。まぁワシの理由も大概じゃから呆れられても仕方ないんじゃがな。
……ワシはなぜか人間臭い成り立ちをしとってな、そのせいでマドカの事も好きじゃから意地悪というか、あまり直接的な手を出したくないんじゃよ。
じゃから、わざわざ物語を好きなお主を誘ってみたり間接的に手を出しとるというワケじゃ。」
「う~ん? まぁ……マドカの事が好きなら仕方ないのか。な? う~ん?」
ぽかぽかと温かい陽を受け続ける。
「ま。それよりも問題は『マドカにどうやって冒険を止めさせるか』か……」
「ほほっ、一応なんとなくの筋道は作っておいたつもりではあるがの。」
「それって、マドカが女勇者になっている事?」
「うんむ……まさかあそこまで色狂いになるとは予想外じゃったがの。」
遠い目をする神様を横目に、腕を組んで右手を顎に当てて考える。
冒険物語の主人公であるマドカの考えを変えて『冒険ファンタジー』のジャンルをやめさせることが、ニアワールドの為になる事は分かった。
善人が多い世界であり、悪と呼べる存在がほぼほぼモンスターに限られていたのも、マドカという存在か、もしくは物語の世界が『そう望んでいた』からなのだろう。
そして俺はその影響を受けないから、カジノだとか日本の物とかで善人を歪めて犯罪に走るような悪人に落とす事だってできた。
という事は、マドカのハーレムメンバーなんかも俺が落とす事が出来るのかもしれないな。
ただし……命がけになるんだろうけれど。
『神様の作った筋道』で、男主人公から女主人公に変わったということは、女主人公のマドカに俺が何か影響を与える事で『冒険ファンタジー』からジャンルを変えさせる事が出来る可能性が高い。
女と男。
男と女。
『恋愛』ジャンル……って事か。
だが、何を持って恋愛させる? 美男美女を既に手にしているマドカ。
俺が落とせる方法として考えられるのは……『日本の物』か。
……物で釣って心が動くか?
いや、本心が動く事はないだろう。
「お主も恋愛しとるじゃろう? そこを考えてみてはどうか?」
心を読んだであろう神様の言葉に思い浮かぶのは一人の女。
アデリー。
蜘蛛女。
以前の俺の価値観では、美と醜を併せ持つ存在で、そしてとても怖い恐怖の対象。
今はどうだ。
俺はアデリーをどう思っている?
…………
代えがたい。
大切な存在だ。
醜と思っていた蜘蛛の部分だって『アデリーの一部』と思うだけで、なんとなく可愛くも見えてきている。
見かけの美醜は、恋愛において関係ないのか?
という事は美男美女に釣り合う美形じゃなくても恋愛できる?
そもそも俺はアデリーの何に惹かれたんだ?
あの強引で、病的で、怖い蜘蛛女に。
……俺だけを見てくれる一途さ……安心感であったり……大切にされている感じか?
だが、それだと俺に同じ事をするのは無理だ。
俺が一途にマドカを思うには、もう既にアデリーが大きく心を占めている。確実に無理だ。
ふぅっ
糸口が見えなさ過ぎて、俺は思わず頭に手をやり息を吐く。
神様はニコニコしながら言う
「真剣に考えてくれて嬉しいぞ。まぁ何も恋愛ジャンルだけではない。」
神様は俺の肩にポンと手を置いて続ける。
「この世に生を受けた者は皆が『主人公』じゃ。
ニアワールドの住人達も世界やマドカの影響を受けつつも、皆、自分が主人公の物語を歩んでおるはずじゃ。
だから、お主はマドカの『戦いを止める』キッカケを作ってくれればいいんじゃよ。
お主の思うやり方でな。それだけでいいんじゃ。」
神様の言葉に少し気が楽になると携帯が鳴った。
結香子からメッセージが送られてきていて、寿司折りの準備ができた事が記されている。
「お主の心の赴くままにやってみてくれれば、それで良いのじゃよ。」
その言葉を残し神様の姿は屋根から消えていた。
一つ伸びをして、体をほぐす。
「まっ。今の状態で堂々巡りな事を考えても仕方ない。
これまで通り色々考えて相談しながらやってみよう。」
そう心を決めて、屋根から風魔法を使って飛び降りるのだった。
--*--*--
結香子が朱肉と婚姻届を準備して待ち構えていたので必死に避けつつ寿司折り他を受けとり、ニアワールドに戻る。
レストランに向かうと誰もいなかった。
おおよそムトゥが案内してくれているのだろうと思い、近くにいた子供達にムトゥやマドカ達を探してレストランに寿司を用意したことを連絡するように言付けると、しばらくの後、瞬間移動でもしたのかマドカだけがやってきた。
「ありがとう! ありがとう!」
と何度も言って俺の手を握っては
「これはとりあえずのお礼ね。」
と、おっぱいを揉ませてくれた。
そして揉ませながらすぐに寿司をつまみ始めた。
いや、俺。喜んでない。別に喜んでないよ。やあらかい。
マドカっぱいなんて。別に。うん。やあらかいのにハリがあるっぱい。
ちゃんと数回で手も離した。うん。
ただ、そのなんだ。
俺、立ちながら皆を待っているのも、なんか都合が悪いのでイスに座って待つけれど。
足組み直したり、ちょっとポケットに手をつっこんでモゾモゾ動くけど。うん。
遅れながらムトゥ達が帰ってきて、俺は目に入った人影に驚愕し、何もかも忘れてイスから立ち上がっていた。
よく知っているハズなのに、まったく違う姿
だが間違いはない。どこか気恥ずかしそうにしている。
「……アデリーなのか?」




