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パソコンが異世界と繋がったから両世界で商売してみる  作者: フェフオウフコポォ
ニアワールドの勇者編

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147話 ニアワールドの真実

 着信 神様


 携帯にその表示が見えた瞬間『とうとう来た』という感情と、今の生活を失うかもしれないという恐怖が同時に沸き起こり、それを鎮める為に大きく息を吸い、吐く。

 あまり待たせて心象を悪くしたくないので着信を受ける。


「おおおっ! 我らが父。矮小わいしょうな私ごときに連絡を頂けて嬉しい限りでございます。」


 開口一番に声が芯から震えてしまっているのが自分でも分かった。

 だが、逆に感動している感じに伝わって悪くない風に取られる事を祈る。


『…………』


 返事がない。

 その事に焦る。


 俺があまりに連絡しなかったから怒っているんだろうか。それに俺はヤクザとはいえ人を殺してしまっている。

 それを神様が知らないはずもないだろうし、そんな俺が、これまでのやりとりから悪ふざけとも取られかねないような事を言いだしたのだから気分を害さないはずがない。


 神様の沈黙に対して、思考が高速で動き『失敗した』という思いが駆け巡り、冷や汗が溢れだす。


 今ニアワールドに行けなくなるような事になったら俺は絶望する。

 それは死にたくなるくらいの絶望だ。


 アデリーに会えなくなる。エイミーに会えなくなる。

 アイーシャに、アリアに、アニーに会えなくなる。

 メイドのみんな、ムトゥにアト、サト、オーファン達。

 若干ウザいホールデンだって……


 みんな俺の中でとても大きな存在になっている。

 そんな皆ともう会えなくなるのは嫌だ。


『………………き』

「……き?」


 やっと返ってきた神様の言葉が単語で、思わず復唱する。


『きっもちわるさに……磨きがかかっておる…ワシの全身サブイボだらけじゃぁ……あぁああ。』


 心底嫌そうな声が聞こえるが、その嫌悪が俺にむけられているのは間違いない。

 だが、俺が危惧したような俺の行動に対する嫌悪ではなく言動に対する些細な嫌悪で少しだけホっとする。


「これは大変申し訳ございません。あぁ、何という事でしょう。

 父たる神にそんな感情を抱かせてしまったのであれば、どのように償いをしたら良いものか……あぁあ。」

『よしっ! まずはその喋りをやめいっ!』

「よろしいのですか? なにか罰はございませんか?」


 内心ひどく焦りながら答える。


『無いわいっ! とりあえず気色悪いからやめぇっ!』


 罰が無いことにとりあえず胸をなで下ろす。


「かしこまりました……父たる神に対して甚だ不敬ではありますが、話し方を改めさせて頂きます。」

『いいから。もういいから!』


 ふっ! と気合を入れて息を吐く。


 切り替えだ。切り替え。

 この神様は気の良いおっちゃんだ。そう思え。


「……で?

 急に連絡とかしてきて、どうしたん? なんかあった?」

『……おぬしのその変わり身には、まっこと不信感しか抱けんな。ほんと。はぁ……』


 飽きれたような声が耳元で響く。


「いやいやぁ、実際に神様にはめっちゃ感謝してますし尊敬もしてますよ。

 ニアワールドに行けたおかげで俺の人生に色がついたみたいに華やかになりましたし。」

『ほっ。 それはなんとなく本音な気がするの。ほっほっほっ。』


「えぇ。本気で感謝してますよ。」

『うむうむ。ならよかったの。』


「で、急に連絡とかどうかしましたか?」

『あ~……うん。その……なんじゃ?

 そろそろ……どっちに住むか決まったかの?』


 『来た』


 動悸が激しくなるが気持を抑え込む。


「いやぁ。すみません。

 実はまだ色々と土台作りに手間取ってまして、まだ決めかねてます…………だ、大丈夫ですかね?」

『ん。そか。そなら仕方ないの。』


 …………


 ……


 神様の余りの軽さに拍子が抜け、思わずほうける。

 俺が黙ってしまっているが神様も黙っていて、しばし無言の時が流れ、ハっと我に返る。


「ちょ、そんな軽くていいんスかっ!?」

『な、なんじゃ! 急に怒りくさってっ!』


「いや! 怒ってないスけど、なんていうか! なんていうかーっ!!」

『なんじゃ! なんなんじゃ~っ!!』


 俺と同じようなテンションで返してくる神様に、俺の中で張りつめていた何かが切れた。

 右手から左手に携帯を持ちかえ、右手で頭を押さえる。


「……はぁ

 いや……俺正直なところめっちゃ怖かったんスよ。こうやって話すの。今の俺の立場って神様のさじ加減ひとつじゃないっスか?」

『はっは~ん。なるほどなるほど~。』


 神様の声が少しいやらしい口調に変わったように聞こえる。


『そうじゃな~。そうじゃろうとも。今のお主の立場は、ワシの匙加減次第とも言えるのう~。』

「ちょ、なんすか!? 急にどっかの怪しい人みたいな口調になってますけど!?」


『いやぁ、そんなことはなかろうて~。

 あ~~。そうじゃった~。ワシ困った事あったんじゃった~。

 あ~~~~困ったなぁ。困った困った。』


 嫌な予感しかしない。


「それ……聞かなきゃいけない系ッスよね?」

『はて? ワシは知らんぞ? あ~~困ったなぁ~~』


 自分から付け入る隙を見せてしまった事に溜息をつく。

 が、相手は神様だ。

 そもそもやる気になれば俺の心なんて見ぬいてしまうんだから、こうなっても仕方ないと諦める。


「一体何をお困りで?」

『いや~なんか悪いのう。催促したみたいで。

 えっとな。ニアワールドに転生させたマドカじゃが……もう会った頃じゃろ?』

「ええ。ついさっき会ったばかりですよ。」


 多分だが神様見てたな。

 あまりに絶妙過ぎるタイミングだ。


『そのマドカな~……ちょっと張り切って能力を与えすぎたせいもあって……その……なんじゃ。

 色々やりすぎなんじゃよ。』

「やりすぎ?」


『うむ。今ニアワールドではモンスターが消えたじゃろ?』

「あ。はい。獣だけになって平和その物です。」


『それな。

 簡単にいえば原因はマドカなんじゃ。』

「旅で『境界のなんちゃら』を倒したって事が原因ですか?」


『そっ。ゲームで例えるところのラスボスを倒した後の世界じゃな。』

「それが都合が悪いので?」


『いや平和はいいんじゃよ。ニアワールドに暮らす者達が幸せに過ごせるんじゃから。

 ……問題はその後じゃ。どうなると思う? ちぃと考えてみぃ。』


 神様の言葉に右手を顎に移して考える。


 平和になった事は良い。その後が問題?

 マドカが問題という事は、これまでのマドカがしてきた事を考えればいいんだろうが、そもそもマドカは単純な事しかしていない。

 倒したら、新しい敵が出てきて、また倒して。それを繰り返している。


 ……ん?


『気づいたかの?』

「……また新しい敵が出てくる?」


『うんむ。それだけじゃないぞう。

 出現するモンスターがさらに強く凶悪になる。』

「うわぁ……」


 ジャイアントからさらに凶悪なモンスターになるのか?


『まぁ放っておいても、マドカがまた工夫してニアワールドの住人達を守るじゃろう。

 それに合わせてニアワールドの住人達も最初は苦労こそすれ慣れていく。

 じゃがの……このまま進んでどんどんモンスターの凶悪化や住民の対抗が進んで行くのはどうかと思うんじゃよ。

 例えばじゃが、ゲームで出てくる村人がラスボスをワンパンチで倒せるような力を持ってたり、可憐な村娘がキック一つで超破壊ができてしまうような世界は嫌じゃあないか?』

「あぁ……確かに。それはちょっと怖い。」


『じゃからのマドカを止めて欲しいんじゃよ。』

「いや、俺にチート勇者を止める術は無いッスよ。敵対したら死んじゃう。すぐに死んじゃう。1秒と持たずに死ねちゃう。」


『うんむ。それはわかっとる。

 じゃからの、なにも『敵対しろ』というんじゃない。

 マドカを『勇者』から引退させてほしいんじゃよ』

「『勇者』から……引退?」


 神様の言葉の意味が解らず、眉間に皺が寄る。


『お主ならわかるじゃろうが……

 ニアワールドは物語から生まれた世界。だが、既に『存在する異世界』。

 そしてその世界の主人公は『マドカ』じゃ。つまり、マドカを中心にニアワールドの世界はまわっておる。』


 神様の言葉が、俺にとってもものすごく意味を持つ事を言っているように思え真剣に耳を傾ける。


『今のマドカの物語のジャンルは『冒険ファンタジー』

 このままじゃと強くなるマドカに合わせて永遠に戦いの日々が続き、世界もマドカに合わせて変わり続ける。

 じゃから、あやつが別の物語の『ジャンル』に興味を持ち、その方向へ導けば世界もまたそれに合わせて形を変えていく。』


 神様の言葉を噛みしめるように考えると疑問が浮かんだ。


「……マドカを中心に世界が回っているのであれば、もしもの話ですが……マドカが死んだら、ニアワールドはどうなるんです?」

『主人公が死んでも、生まれた世界は死なんよ。そのまま世界として成り立ち生き続ける。

 ……もしかすると次の主人公を生み出すかもしれんがな。

 だが冒険の世界で主人公が死ぬと…………どうなると思う?』


「バッドエンド……その時の敵が侵略してきて全滅?」

『うむ。まぁそれに近い様な事は起こるじゃろうな。』


 俺の知っているニアワールドの住人達が、敵に蹂躙され苦しむ姿が脳裏に浮かぶ。


「だめだよ……それはダメだ。」

『じゃろう?』


 沈黙が流れた。


「じゃからワシは、お主をニアワールドに引き入れたんじゃよ。」


 気が付くと、にこやかな微笑を浮かべる爺さんが横に座っていた。


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