13話 初めてのお金の絡む取引
「いえね。私はただオーナーさんの性格を理解した上で、こういった事態を予見できたであろうに、なぜそんな所にしまっておいたのかと。
その選択をしたアイーシャさんにも過失があると思うんです。」
「うう? ……いや、私には……うう……」
「いや、どう考えても俺が悪いだろう。
本当にすまなかった。責任は全て俺にある。」
「ぐぬぬ」
くそう。くそう。
このオーナー責任取る気満々だ、このクソ理想の上司め。
もっと従業員に押し付けてバッくれたりしろよ。
折角助け船出してやったのにテメェで沈めやがった。
これじゃあアイーシャたんペロペロできないじゃないか。
……いや、ペロペロする気ないけどさ。
仕方がない……普通に話をしよう。
「はぁ。仕方ありません。
まぁ? 実はまだ控えが3個程予備があるので1つくらい壊れても、実はどうという事はありません。
ただ買い取りして頂けると有り難いですけれどもね。」
余計な火の粉が飛んでこない事にホっとするアイーシャ。
「あぁ、本当にすまねぇ。
きっちり買い取らせてもらうよ。」
壊れたLEDランプを手に取ってみる。
ハンドル周りは平気だ。どこが壊れたんだ?
あぁ。ストラップをつける部分が折れたのか。
逆に聞きたいくらい器用に変なところを折ったな。
使用には問題ないし、大したことでもない。
「これ問題なく使えますね。
よかったよかった。」
「おぉ。そうか! いや~使いもんにならなくなるんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ! なによりだ!」
「……というか、軽く触って壊れると売り物にはなりませんよね?」
おおおう。
まさかのアイーシャクレーム。
身内が壊したにも拘らず強気だねぇ。この子。
………ごもっともすぎる。
「そうですね。ちょっと改良が必要ですね。
で、アイーシャさん。
使っていただいた雰囲気と、今回の耐久性を考慮してこのランプは幾らくらいが売値として適当と思われます?
もう一度いいますが、修理は出来ない。壊れたら終わりです。」
アイーシャとオーナー。
二人がじっくりと各々で考えている。
「私なら銀貨3枚と銅貨7枚で売るわね。」
「俺は銀貨4枚だな。」
ふむん。
「では、私は一つ当たり銀貨2枚であなた方に売ると言ったら納得できる線ですか?」
アイーシャもオーナーも驚いたような顔をする。
「いや、ちょっとアンタそれで食っていけるのか?」
「それで大丈夫なの?」
さすが善人の多い世界。
逆に心配されちったよ。
「ええ十分ですよ。
今壊れた物含め4つありますが、これを全て計銀貨8枚で買って頂く事は可能ですか?」
「おうっ! 買った!」
「オーナー! 私もひとつ買う! 分解するっ!」
アイーシャが可愛らしく『フンスっ』と張り切っているのを見ると、ついオマケしたくなる。
「あ~……なんといいますか、私これをまた手に入れる事も出来るので……今回は3つを購入いただく形に変更して、壊れてしまった物はアイーシャさんにプレゼントしてもいいですか?」
「ふぇっ!?」
「いや、もちろん下心があります。
私はこの街を全く知りませんし、物も知りません。
ですが、こういった売り物をいくつか持っています。
それをまた見て頂いて、そして今みたいに値付けを手伝ってほしいのです。」
「お、俺は!?」
変な声を出したオーナーをちらっと見る。
うん。ただ見ただけ。
アイーシャに視線を戻す。
「いかがでしょうか? アイーシャさん。
なんとも裏のあるプレゼントですが、お受け取り頂けますか?」
「ちっ! 女は得でいーよな! 俺も欲しいっつーの。」
オーナーの悪態がありつつもアイーシャは楽しそうに笑う。
「ふふふ! そういった事なら喜んで受け取らせてもらうわよ!
他にも不思議なものが見れる機会があるなんて最高じゃない!
よろしくねイチっ!」
下の方から手が伸びてくる。
幼女サイズ可愛いです。ハァハァ。
アイーシャの右手を握り握手する。
ちっちゃな手も可愛いです。ハァハァ。
「有難うございます。
これからお世話をおかけしますが、よろしくお願いします。」
「なぁ、俺の方が詳しいぜ? なぁ~。」
オッサンがうるさいので、とりあえず金色包みのナッツチョコを2人に渡す事にした。
このチョコは外がパリッとしてて、中はクリーミーなチョコになっている。
ナッツの歯ごたえもあって、一口で3度楽しめる高級品だ。
差し出した物を疑う素振りもなくオーナーが一口で全部食う。
そして目が飛び出すんじゃないかと思うくらい目を見開いた。
「おおおおおおおお!!!
なんじゃこりゃあ!すっげぇ甘さだ!
おおおおお!! うめぇーーーっ!」
「チョコレートです。
アイーシャさんも良かったら食べてみてください。
おすすめの菓子なんです。」
包みを開き、恐る恐る一口齧るアイーシャ。
まるで背景にパァッ! と満開の花が満ちているかのようなキラキラした顔になる。
「んんーーー!!」
はい。頂きました「んー!」の声。
女性は多いよね。「んー!」
感動を口の中の物を飲み込むよりも早く伝えたいのね。はいはい。
…………くっそ可愛いな。
リスのように、チョコを齧ってはコッチ見て、またチョコを齧ってはこっちを見て。なにこの子カワイイ。
一家に一台ドワーフが欲しいね。うん。
「喜んで頂けたようで何よりです。
さてオーナーさん。銀貨6枚って今日もらえそうですか?
それとも日を改めた方がよいでしょうか?」
「ははははっ! 6枚程度すぐ持ってくるさ。ちょっと待ってな!」
チョコを食べ終えたアイーシャが、キラキラした顔のまま俺を見ている。
…………
これ……もしかして餌付けできるんじゃねぇかな?
「アイーシャさん。オーナーさんがいない内にあなただけに、もう一つプレゼントさせて頂きます。いつまでも持ってると体温で溶けてしまいますからお早目にお召し上がりくださいね。」
金の包みのチョコを渡す。
ペカー! とか音が聞こえるんじゃないかと思うくらいキラキラしてる顔でニコニコしてる。
コレもしかして、結構ちょろいんじゃね?
普通にペロペロできる可能性もあったりするんじゃない?
……きっと俺の顔はギラギラしてるんだろうな。うんうん。
「おーう。お待たせ! ほい! 銀貨6枚!」
オーナーから待ちに待った銀貨を受け取る。
手に取り、じっくり眺める。
真四角に幾何学模様が描かれた貨幣。
ようやく異世界で使えるお金を手に入れた!
「早速一つ教えて頂きたいんですが、美味しいお昼御飯を食べられるような所はありませんか?」
「お? 俺は今から飯に行くが、なんなら一緒に行くかい?」
「oh……」
いい笑顔で善意を振る舞ってくれるオッサンを断る術なんて……俺は持っていなかった。




