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パソコンが異世界と繋がったから両世界で商売してみる  作者: フェフオウフコポォ
命の価値 編

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135話 土壇場

「な、な……」


 突如浮き上がった銃。

 その光景に戸惑う初老の男。


 様子を見ていると、初老の男はやがて大きく息を吸った。


 誰かを呼ぼうとしている。


 そう感じた俺は、すぐさま男に近づき持ち上げた銃を水平に振り抜き殴りつけた。

 銃から嫌な感触が伝わってきた後、初老の男は倒れ、その頭からは血が流れ始めている。


 初老の男の恐怖を感じている目。

 そして流れる血。


 人を殺せるようになったのに、この怯えを孕んだ目と流れる血の二つは、自分の善意に揺さぶりをかけるには十分すぎるくらいに効いた。

 効いてしまった。


 だが目の前の男は結香子をあんな目に合わせてもなんとも思わない外道。

 結香子だけじゃない、きっとこれまでも多くの人を不幸な目に合わせている。


 そう思う事で、なんとか心のバランスを取り再度銃口を向け、大きく息を吸う。


「よくもウチの人間に手を出してくれたな。

 お礼参りに来た『新世界の風』だ。

 騒ぐなよ。騒げば撃つ。」


「……わ、分かった。」


 初老の男はそれなりに修羅場をくぐっているのか、すぐに目から恐怖の色が消え落ち着きを取り戻し始めたようにみえた。透明人間に襲われているという、ありえない現状を受け入れたのだ。やはり上に立つ人間なのだろう肚は座っている。


 落ち着いた相手を前にし、小さく息を吐き自分の心も落ち着ける。

 もしかするとこいつに宝生富一を止めさせれば、それだけで解決する可能性もあるのかもしれない。


「……政治家の宝生富一の依頼で、新世界の風を狙ったことに間違いはないか?」


 初老の男は一度頭の傷に触れ、自分の血を見た後に忌々しげな顔をし、くらついているの止める為か首をまげてコキリと鳴らしてから、その場であぐらをかいて座り込む。

 そしてひとつ大きくため息をつき、諦めたように答えはじめた。


「あぁ。そうだ……今度の土建絡みの利権に一枚噛ませてくれるってんでな。ちょっと宗教団体脅す程度ワケねぇ。

 だが耄碌もうろくしちまったもんだ……こんな危ない件とは思ってなかったよ。」

「ほう? 後悔するだけの頭はあるのか?」


「あたりめぇだろう。 踏んじゃならねぇ虎の尾は踏まねぇに越したことはねぇ。

 それに気付かず踏み抜いた俺は組自体を危険にさらしてる。目もあてられねぇよ。」


 俺の皮肉に対して少し頭に来たように吐き捨てるように返答してくる。


「宝生の狙いはなんだ。」

「さぁな。『新興宗教団体をいいなりになるように仕上げろ』と言われただけだ。

 票が目的だと思ってたがなんなんだ? 若頭の野郎が欲こいてヘマでもしやがったのか?

 ……いや、それどころじゃねぇんだろうな。こんな騒ぎになるのはよ。」


 透過しているにも関わらず、俺が見えているかのように目線を向けてくる初老の男。


「お前が知る必要はない……今お前が出来る事は『宝生に手を引かせるか』それとも『死ぬか』だ。

 どちらか好きな方を選べ。」


「へっ。生きるチャンスをくれるってのか?

 ありがてぇ話だね。泣けてくらぁ。宝生に電話をかけるが……いいか? 別に抵抗しようってんじゃねェからな。」

「いいだろう」


 初老の男はゆっくりと左手で自分の上着の内ポケットを見えるように広げた後、右手をゆっくりと内ポケットに入れてスマートフォンを取り出し、操作し始めた。


 しばらくの無言の時間が流れる。


「……あぁ、先生かい。

 夜分遅くにすまねぇな。

 こんな時間によく起きてたね。」


 深夜にも関わらず電話が繋がったようだ。

 相手の話声は聞こえない。

 相手が話をしている間に銃を一度懐にしまい、銃自体も透明化できないか試す。


「あの新興宗教団体の件だがね。ウチじゃあどうにもならんわ。

 悪いが手を引かせてもらうしかなさそうだ。」


 初老の男が浮かぶ銃が見当たらなくなったのか目が左右に動き探している。どうやら銃は一旦懐にしまった事で透明化したらしい。


「……あぁ。そう。

 ちょっと前にウチの支部の火事がニュースになってたろ。あれは多分……

 ……なんだ知ってたのかい?

 知っててそんなヤツの相手をしろだなんて…………先生も外道だね。ええ?」


 初老の男は宝生の言葉に気に入らない点が多かったのか、どこか苛立つような口調に変わっている。


「もういい。……悪いことは言わねぇ。先生も手を引きな。

 相手してるやつは人間じゃねぇよ。

 今、俺はその危ねぇヤツに銃を突きつけられて生死の境を歩んでるもんでね。手を引かねェと先生もきっと死ぬぜ?」


 憎々しげな声で忠告を伝える初老の男。


「……はぁ?

 ……おい……先生がアンタにかわれって……って、いるか?」


 少し悩んだ後、初老の男にハンズフリーにするよう声をかけると、初老の男は戸惑いながらもハンズフリーへと変え、電話を声がしたであろう俺の居る方へと向けた。


「……なんだ?」

「もしや教祖様でいらっしゃいますかな?」


「…………そうだ。」

「おぉ。これはこれは、有難い。

 教祖様のおかげで身体に活力が漲るようになりましてな。その節は大変感謝し――」

「そんなことはどうでもいい。

 よくもまぁヌケヌケと……」


 丁寧ながらもどこか他人を小馬鹿にしているように感じる口調に思わずイラっとし、言葉を遮る。


「いやいや、誤解なきように教祖様。

 私は友人にちょっと相談しただけでしてな。どうやら友人が勝手に教祖様に対して無礼を働いたようで。大変申し訳ない。」

「だから――」


「10億」


「……は?」

「10億出しましょう。私を後10年若返らせてくれれば。

 いや、30年若返らせてくれるなら、20億だろうが30億だろうが出したっていい。いかがでしょう教祖様。」


 一瞬金額に目がくらみかけたが、そんな事じゃない。


「ふざけるなっ!」


 気が付けば目が眩んだ衝動を打ち消すように怒鳴っていた。


「おや……お気に召さないようですな……

 金以外がお望みでしょうかな? なら、それもこの宝生の名にかけて叶えてみせましょう。

 例えば『お知り合いの方々の安全』とか……ね」

「なっ!?

 ……安全も何もお前の手駒はもう――」


「私の手駒? はて? そこにいるのはただの友人でしてな。

 手駒……あぁ、別の知り合いはおりますなぁ。性質の悪いのが。」

「どういうことだ……」


 嫌な予感に自分から発する声のトーンが落ちる。


「さて…ね。

 教祖様が友人の宅に居るとなると……もしかすると、戻られた頃には分かるかも知れませんな。ハッハッハッハ。」

「なるほどね……俺たちは元々捨て駒だったってワケかい。ハハっ」


 初老の男が乾いた声で笑う。


「どういうことだっ!?」


 初老の男の額に銃を押し当てる。

 初老の男は頭に当たった感触から銃を押しつけられている事を理解し、どこかヤケになったように答える。


「ハンっ! わかんねーのかい? 教祖様とやらなのによ。

 ……アンタは最初からずっと踊らされてたんだろう。

 ウチの若頭と支部をやったのはアンタだろ? ソレもずっと見られてたんだよ。で『人質を使った手は使える』って自分で宣伝したのさ。わざわざ助けに行くんだもんなぁ!」


 自分の額に冷や汗が浮かんでいるのを感じる。


「きっと、あんたが俺のところに来たのを確認してアンタの本拠地が襲われているんだろうよ。

 だからこのタヌキジジィはこんな時間でも起きてやがったんだろうが!

 ハッ! 踊らされて! ざまぁねぇなっ!」


 初老の男の言葉は衝撃的だった。

 衝撃的すぎて、俺の感情を揺さぶるには十分すぎた。


 気が付くと俺は引き金を引いてしまっていた。


 一つの銃声が響く。

 思いの外大きな銃声。そして初老の男の今際いまわきわの怒鳴り声のせいで部屋の外が騒がしくなっていく。


 地に落ちたスマートフォンから声が聞こえる。


「おや? もしや、友人は眠ってしまいましたかな? 夜も遅いですからなぁ。

 30年分の若返りを手にすることができなければ……教祖様の知り合いも眠ってしまうかもしれませんなぁ。ハッハッハッハ。」


 部屋のすぐ側から沢山の人間の気配がする。


 だが、俺の中には宝生と初老の男の言葉が響き渡り、沸きあがる怒りと焦りで自分の中の血液がとんでもない速さで巡るのを感じ、それらの気配はただの障害物としか考えられなくなっていく。


 アデリーに渡されていた巻物を一気に掴み広げる。


「あぁああっ!」


 叫び声と共に巻物が発動し爆発が起きる。

 爆発は障害物もろとも壁をいくつも吹き飛ばし、部屋から屋外まで道が開いた。


 開いた道を、全力で新世界の風本部にむけて駆け出した。


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