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パソコンが異世界と繋がったから両世界で商売してみる  作者: フェフオウフコポォ
命の価値 編

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133話 荷物から得た情報と決まる肚

 結香子からの報告は、単純明快。

「支部に手を出したら本部が動く。

 お前らの情報は筒抜けだ。ざまあみろ」

 という事だった。


 結香子を誘拐したヤクザの屋敷は、どうやら若頭の拠点であり、ただの『支部』であるらしく本部はまた別にある。

 そして『新世界の風』の事務員や関係者達の情報は既に十分すぎる程に集まっていて、この先には報復が待っている。手加減してやらんでもないからさっさと解放しろ。と。


 ソレを報告された俺は、とんでもない状況になってしまったと嘆く気持ちが芽生え落ち込んだ。


 当然だろう。

 ヤクザに狙われる状態なんて生きた心地がしない。


 ただ……結香子が俺を信頼しきった顔でじっと見つめていた事もあり、一拍だけ落ち込んでから気を取り直し、現状打破の方法を考える。


 答えはすぐに出た。

 行きついた結論は


 『やられる前に やってしまえ』


 俺はさっき支部を燃やした。

 であれば本部は今、情報収集や混乱の真っ最中のはずだ。


 だから、今こそが逆に好機と言えるはず。


 俺の能力はあまり考えたくなかったし言いたくなかったが……『暗殺』に向いている。

 元々無事に逃げのび、平穏無事に生きたいが為に得た能力だったのに、どうしてこうなったんだろう。


 ただ実際に支部に侵入してよく分かった。

 全力で隠密を使い刃物か何かを持っていれば確実に致命傷を与えられる。

 姿を消す指輪を使えば機械的な物に姿が映る事も無い。


 俺は『やられる前に やってしまえ』という意思を固め、ニアワールドに姿を透明化して見えなくする指輪を取りに向かう。

 すると、アデリーが心配そうに待っていてくれたので現状を報告する。


 また危ないことに首を突っ込む事になると報告すると、アデリーはフニョンと抱きしめた後、心配そうな顔で見送ってくれた。


 その際アデリーは、アニから攻撃魔法の巻物や睡眠等の妨害魔法をありったけ集めてくれていたので、それらを受け取り、使用した魔畜タンクの魔力の補充をしてくれた。


 後、なにやらホールデンに魔道具の作成を依頼し、急ピッチで進めてくれているらしい事も教えてくれた。

 作成を進めているのは土の魔道人形、クレイゴーレムの試作らしい。

 ゴーレムの理論はニアワールドである程度確立されており戦闘用で実用可能な状態だが、大抵は動きが緩慢で盾の役割がメインにしかならない。

 ソレをホールデンが魔畜タンクの組み込みと、魔法銃を装備させる事で剣として戦えるように改良を進めているのだとか。


 対象の認識が難しいらしく、俺からのアドバイスとして、対象にマーカーをつける事で狙いを定める方法や、ソナーのようにクレイゴーレムのみが認識できる音を飛ばし、それが反響するのを利用して動く物を察知して攻撃する方法がある事を伝えておいた。


 最悪の事態には、打開の為のゾンビアタックが必要かと思っていたので有難い。

 ゾンビアタックは俺がゾンビに触れて日本に連れてこないといけないので進んでやりたくはないのだ。


 それにゾンビは勇者の街の下水処理に関わっているから、あまり多用して街に混乱を与えるのも宜しくないので、自前の兵隊が出来るのは本当に助かる。


 ニアワールドでの所要を済ませ、結香子救出の際に俺自身が使用した魔力を回復する為に食事をとり、深夜まで仮眠をとる事を伝え、俺が休んでいる間に誘拐した荷物から情報を搾り取るだけ搾り取り、ついでに俺達の出した命令に絶対に服従するように教育しろと結香子に命令をだした。


 結香子はその命令に嬉々として返事をして小走りで部屋を後にする。

 俺の命令だったらどんなことだって平気な顔でやるであろう結香子が、若頭にどんな事をするかは想像に易い……が、もういい。


 先に手を出したヤツらが悪い。


 『やられる前にやってやる。

 敵に何を遠慮する必要がある』


 そう思いながら、襲撃にそなえ仮眠室で体を休めた。



--*--*--



「――イチ様。

 イチ様。お時間です。」


 物凄く顔が近い結香子に起こされ、一瞬あまりの近さに驚きで体が硬くなる。

 なんとなく口に少しの違和感を感じた気もしたけれど、気にしている場合でもないので時間を確認すると0時ピッタリだった。


 魔力も再度侵入するには十分すぎる程度に回復しているように感じられる。

 そもそも先の侵入でそんなに大きく魔力を使っていなかったので問題ないだろう。


 ふと反対側のベッドを見るとサリーさんが眠っていた。


 サリーさんは怪力のスキルなんかを得ていて、俺より強いから自分の身は自分で守れるし、別に新世界の風に居る必要はないが、きっと万が一の時のことを考え事務員たちを守る為に泊まりこんだのだろう。

 ありがたい。


 部屋を後にし結香子が若頭から得た情報を確認しながら、夜に紛れやすいように黒色の服を着て、透明化の指輪を持ち、肩掛け鞄に巻物を詰めれるだけ詰めて魔法銃のガントレットを装備。

 左手にも黒の手袋をつけ俺は新世界の風を後にした。

 

 また中村君に運転してもらい、結香子が聞き出した本部の住所に向かいながら車窓に映る夜景を眺める。


 誰にも迷惑をかけないようにタクシーで移動しようとも思ったが、さすがに帰りに荷物が増えるかもしれない事を考え、中村君に送迎をお願いする事にした。

 今日だけでかなりの心労をかけてしまっていると思うが仕方がない。


 車窓に次から次へと映っては消えていく景色。

 ぼんやりと景色を眺めながら思う。


 今のような気持ちで日本の夜景を眺める事は、もう無いのかもしれない。

 次、同じ景色を見たとしても、俺はきっとこれまでと同じように感じられないかもしれない。


 目を閉じ考える。


 このまま全て捨ててニアワールドに逃げてしまえば、日本にいる人間は誰も俺に手を出せない。

 自分が何もせずに逃げてしまえば、この景色を同じ気持ちで見れる。


 ……そんなわけは無い。


 逃げるという事は、結香子たちを見捨てると同義だ。

 見捨てて逃げても結局、罪悪感で濁り、同じような気持ちで景色を見れるはずが無い。


 ここまできて、未だに逃げるような事を考えてしまう往生際が悪い自分に思わず鼻を鳴らす。


 この後、俺はきっと禁忌を破る。それで心の有りようは大きく変わってしまうだろう。

 心が変われば見える景色も変わる。


 どちらにしろ、もう同じ景色を見る事が叶わないのであれば、せめて結香子達が幸せになる方を選ぼう。


 決意を新たにすると、ちょうど車が止まった。


 目的地が目に入り、俺は車を降りる。

 中村君はそのまま車を走らせていった。


 深夜で人通りも無い。


 俺は目的地を見据え

 指輪を身につける。


 「手を出したことを、せいぜい後悔するといい。」


 姿は闇に消えた。



 初回連載時ここまでのストーリー進行で休載に入りました。

 当時復帰が怪しかったのでラストまでのプロットを記したのですが、なんのこともなく無事に復帰。

 そして再開時に『プロットを書いてしまった話を、そのまま続けても面白くないだろう』と、展開と結末を変えました。


 完結後に、オマケで当初考えていたラストまでのプロットも記しますので、区切りのご報告でした。

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