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パソコンが異世界と繋がったから両世界で商売してみる  作者: フェフオウフコポォ
命の価値 編

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127話 現状確認


 『新世界の風』は、ちょっとした流れから俺が教祖としてサリーさんと一緒に取り仕切っている新興宗教団体だ。


 俺が教祖となったのは最近の事で、元は堂下というロリコンが教祖として表に立ち、裏で神崎という人間が支配していた団体。

 そしてその内情は団体の上層部に位置する一部の人間が甘い汁を吸う為に存在するという宗教でよくあるものだった。


 こういった宗教団体は、従来は細々と信者を洗脳し増やしていくが、俺がニアワールドから持ち込んだ『回復の巻物』を鶴来という人間を介して手に入れ、ソレを布教に使い『傷を治すことができる』という神秘性を利用して爆発的に信者数を増やし巨大な宗教団体へと変貌。


 その利権は大きかったが甘い汁を求める人間の欲望は限りなく、その甘味を知れば知るほど、より強い甘露を求め、そして手にしようと欲し行動する。


 ただ……その欲が深すぎ『手を出すべきではないところ』に手を伸ばしたが故に、旧教祖たちは再起不能になるという結果に繋がった。


 再起不能となった仕掛人と実行犯は俺なのだが、俺自身もうあんな非道な事は2度としたくない。


 誰かの精神を壊すようなマネをするのは……本当にキツイ。


 精神を壊す仕掛けを考え段取りをするまではいい。そこまではただの作業だ。想像だ。

 実際に壊してしまう為に行動してしまうと違う。


 特に壊れてしまった人間を見ると、自分の手が汚れてしまったような、自分の中の良心か何かを殺してしまったような、大事な物がなくなったような感覚があった。


 それはとても気持ち悪く、そして壊れた物は絶対に治らないような、そんな感覚。


 だから、もうヒドイ事はしたくない。


 ……ともあれ、悪徳な旧教祖たちの存在を無くしたけれど、宗教団体は信者の心の拠り所となっていたことから無くしてしまうのは難しく、折角なので俺好みにどんどん改造を施すことにして、そして『俺がニアワールドで使う金の集金所』へと作り変えた。


 こうなる以前は持ち株会社を利用して、ニアワールドに持ち込む資材を集めたりしていたのだが、折角乗っ取れた金のなる木。その役割を『新世界の風』に集約し利用している。


 もちろん宗教法人なので信者への教育や施しもちゃんと行っており、施しの内容は医療が絡む為、大っぴらには言えないが、回復魔法での古傷の治療や手術跡の除去。

 その他オークレバーによる精力減退治療などがあり、これらが稼ぎの柱となると同時に、信仰を集める役割も果たす一石二鳥の取り組みになっている。


 また身体的な問題だけでなく心理的な要因で思い悩む人も多いようで、最近は話を聞いてほしい人間の為のカウンセリングルームを増設し、信者の中から聞き上手な人間をスカウト。

 心理的な物は、誰かに話を聞いてもらえることによって精神安定を図れる事も多く、その為の場所も提供しているので、結果として宗教施設というよりは病院&お困りごと相談所のような施設になってきている。


 この団体の運営は、旧教祖たちから団体を奪った時にそのままついて来てくれた事務員の男1人と女4人が、そのまま残ってくれて行ってくれている。


 その中でも伊藤結香子は再起不能になった幹部連中の処理、乗っ取りの為の事務手続きに俺の世話と、非常に献身的に尽くしてくれて、それに……きな臭い事をお願いしても驚きの速さで対応してくれたりするので、団体の中では俺が一番信頼している人間だ。


 サリーさんからも『俺に関係しない事』に限っては全幅の信頼を寄せていいと太鼓判。

 ……俺が絡むと、妄信的な部分が大きく平気で嘘をつきかねないので、サリーさんとしては全面的には信頼はできないそうだ。

 逆に俺から見ればサリーさんにも嘘をついてくれるほど信頼していい人物。


 だからこそニアワールドでの砦跡の改修工事に関わる諸々の費用捻出の為に、若返る事が出来る『長命』のカードを伊藤結香子にこっそり渡し、現金化してもらった。


 売り先の選定ややり取りの全て任せて、俺が手にした金額は5億円。

 5年と10年の2枚の『長命』カードを、伊藤結香子はたった3週間で5億円に変えたのだ。


 そして、現金化から、もう半年もの月日が流れていた。



--*--*--



 俺がニアワールドから日本へ戻り、新世界の風で注文しておいてもらえるように内容を伝えようと事務所に行くと、そこに珍しくサリーさんが居た。

 そして事務局唯一の男である柳本 栄司と、真剣な顔で話しこんでいる。


 その雰囲気から不穏な空気を感じ他事務員達を見てみると一様に焦燥したような表情。

 なにより、いつもであれば俺が宗教施設に入れば、すぐにぴったり側に控えてくる伊藤さんがいない。


 サリーさんが俺に気づき、厳しい表情で手招きし俺はそれに従うい近づくと俺の肩に手を置いた。


「落ち着いて聞きなよ。

 確証はまだないけど……おそらく伊藤結香子は誘拐された。」

「……はっ?」


「まずは現状把握から始めるよ。」

「ちょ、悪い冗談はやめてよ。」


 雰囲気がおかしい事は感じていたが、冗談だろうと思いたい気持ちで茶化す。


 伊藤さんが『長命』を売り払った時に、俺がサリーさんから鉄拳制裁を食らいながら超叱られた事があった。その時


「これは誘拐や殺人だって起こり得るもんだから、もっと慎重に考えて動け! 考えられないなら、まずはアタシに相談しろっ!」


 と、口を酸っぱくして言われた。


 俺もその可能性は考えられると思っていたが、この平和な日本において『誘拐』や『殺人』っという言葉はどこか遠い物に感じていたのだ。

 そういう事もあるかもしれない。と、対岸の火事のように。


 だが、違ったのか?

 この日本で?


 誰が俺を諌めるでもなく、かわらない周りの雰囲気から現実である事を悟る。

 真実であると感じ始めた俺の様子を見てサリーさんが続ける。


「一応今の段階で、容疑者は5年と10年の長命のカードを売った相手が怪しいと睨んでいる。

 その相手は、政治家『宝生(ほうしょう) 富一(とみかず)』」


 名前は聞いたことがある。

 政治資金や献金問題でニュースになったことがあり、その全てを秘書のせいにして雲隠れした政治家だ。


 確か騒ぎが収まった後も比例代表で選挙を通り、こそこそと未だ政治家を続けていて年はもう70を超えている。

 ネットなんかの情報では別の国の為に動いていて、そっち方面の活躍で金を稼いでいるなんてことも、まことしやかに囁かれている。


 つまり一般の認識においては『強欲、老害な政治家』というイメージの人間だ。


「この政治家は任期も長いし、表にも裏にも何かしらのつながりがあるだろう。」

「……確証は?」

「ない。 ……が、こんなことができて、そうする理由がある怪しい人間っていったら、長命を売った先の人間が一番あやしいだろう?」


「ちなみに伊藤さんは……いつから?」

「昨日無断欠勤で、夜に仲の良い事務員が様子を見に行って分かった。

 部屋がちょっと汚く見える程度に丁寧に家探しをした形跡があったらしいから何かを探したんだろう。 後『荒らされた風に見えない』から、警察に通報しても大事になり難いような意図が感じられたってさ。

 ……実際、スマホや財布なんかも無いから、どこかにふらっと失踪したように見えるし、警察も動き難いだろう。だが『教祖様命』を体現してるあの子がアンタに一言も無しに失踪すると思うかい?」


 それは無い。


 『寝屋を共に』と毎回違うアプローチをしてくるような娘だが、彼女には『引く』というアプローチは存在してない。

 そんな娘だ。だから距離を置くとかを考える事すらあり得ない。


「スマホのGPSとか。」

「反応がない。」


 だが誘拐が事実だとして、どう探せっていうんだ?


「一応、探偵とか金で動きそうなヤツラには情報収集をさせてる。

 アタシはとりあえず、ここでできる限りの対策をとる。

 アンタはアンタでできる事をしな。」

「あ、う。」


 突然の非日常に戸惑っていると、サリーさんが俺の様子を見て近づき、両手で俺の頬を挟みこむように叩いた。


「しっかりしなっ! これが単純に伊藤ちゃんが気まぐれにどっか行っただけでアタシの勘違いだったってんなら後で土下座でもなんでもしてやる。

 ただ状況を考えればアタシはそうは思えない。遅かれ早かれ、こんな事態が起きるかもしれないと思ってたのに対応しきれなかったアタシが悪い! だから、なんとかするよ! しっかり働きなっ!」


 サリーさんの平手打ちは雑念を吹き飛ばすには十分すぎる威力がある。


 なんせ俺のようにスキルカードを割っているせいでドワーフ並みの怪力を持っているし、その他いくつか能力も持っている。

 オーファン達の能力還元に必要の無いスキルカードは、アデリーの命令でまんまサリーさんに渡っているし、その用途は知らされていない。


 頬が超痛いけれど、落ち着きを取り戻すには十分だ。


 俺は腕を組み顎に手を当てて考える。


 伊藤さんが誘拐されたとサリーさんが言うのであれば、おおよそ間違いなく本当にそうなのだろう。

 そして確証が無いといっても、その首謀者を言える状況という事は8割程度そいつがクロと確信してもいいだろう。政治家という職業柄、実行犯ではないだろうが手駒の人間が動いているはず。


 そもそもの話としてサリーさんは、サリーさんに責任があるように言っているが、サリーさんはまったく悪くない。すべての責任は俺にあるのに庇ってくれている。


 伊藤さんが誘拐されたのも事実として俺のせいだ。

 ならば、俺がケリをつけるのが道理。


 サリーさんは傍観して関わらない選択肢もあっただろうに……俺が不在だったという事もあるんだろうが陣頭指揮まで執ってくれている。

 とても痛い平手はもらったけど、そんな事どうでもいいくらいに有難い限りだ。


 そんなサリーさんが俺に出来る事をしろっていうのは『俺にしかできないような事』を期待してるんだろう。


 俺にしかできないこと。それはニアワールドの世界を知っていること。

 そしてそこから物を持ってこれること。


 さぁ、どうやって伊藤結香子を探す。

 ニアワールドで、俺は何ができるようになった?

 何を手に入れた?


 ……


 俺はある事を閃き、ニアワールドに荷物を取りに行くことを告げ、中村君に車を用意させる事を頼んだ。


 取りに行く荷物は、万が一の為の俺の魔法銃付きガントレット。

 そして、ムトゥの依頼でラッサンを探した時に使った人探しの魔道具だ。


 あの道具なら、すぐに結香子を見つけだせる。

 そしてもし誘拐されているのなら、絶対に助け出す。


 行動を開始し、激しい怒りが沸々と沸いているのを感じずにはいられない。


 自分自身への怒りもあるが、8割以上は、この事件を起こした実行犯に怒りの矛先は向いている。

 もし伊藤結香子の身に危害が加えられていたりしたら……


 とてもじゃないが、その実行犯たちを許すことはできなさそうだ。

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