117話 ムトゥを仲間に引き込もう
本日3話目
「一つお伺いしたいのですが……スキルカードがあれば、声を失ったオーファン達を治せるんでしょうか? なにか治療に関する具体的な方法の目ぼしはついているんでしょうか?」
ムトゥは顔をあげ強い視線を向けてきた。
「はい。理論上ですができる可能性はあります。ただ……その検証をする為にもスキルカードが必要になります。」
「ふむん……
もう一点気になる点ですが……その…処分された子と、オーファン達で程度の差があるように思えるのですが、同じように才能を奪ったにも関わらず差があるのはなぜでしょう?」
「それは『根幹の才能』と『派生の才能』の差だと推測しています。」
「ん?」
首を捻るとムトゥは具体的にせつめいしてくれた。
スキルは沢山の種類の実を結ぶ『木』のような物であること。
例えば俺が身につけたスキルの『隠密』や『回復魔法』なんかは、枝葉の先端になる『実』。
回復魔法の実から枝に戻り辿って行くと、その先には『支援魔法の才能』という太い枝があり、最終的には『魔術の才能』という太い幹に辿り着く。
隠密なんかも『特効魔法の才能』という太い枝を通る点は違うが、最終的に同じ『魔術の才能』という太い幹に辿り着く。
一番初めの実験のスキルの剥奪は、0か100かの選択肢しかなかった状態だった為、実の選択はできず、幹を移動させる方法しかなかった。
その後に『どの枝を切り取って接ぎ木するか』という観点が生まれ、行った実験で幹を切られた子は狂い、太い枝を切られた子は重度、比較的幹から遠い枝を切られた子は軽度と、その度合いに応じて重度の違う障害が見らえるようになった。そして魔術系のスキルは共通して声を失っているのだと。
荒っぽい実験だった為、皆、才能の全てを奪い去っており、なんとかスキルカードを手に入れても、割らせてスキルを戻そうとしても割る事ができないのだ。
では、俺がスキルカードを提供したとして、一体どうやってスキルを取り込ませるつもりなのか、その方法を聞くと『頭と体が拒否をする』という事が分かっているので『双方を騙して割らせればいい』という至極シンプルな回答だった。
諸々を聞いて考え、俺自身オーファン達の言葉を取り戻すという事について、そうしてあげたい気持ちが強かったのでムトゥに条件を出すことにした。
・スキルカードを得る為にも、砦跡の大幅な『改造』にムトゥ達が手を貸す事。
・カジノの運営など、その他の俺の行う事業にも協力する事。
・きちんと子供達がスキルを取り戻せるようにムトゥがスキルに関わる研究を引き続き進める事。
最後の項目については、綺麗ごとを謳っているように聞こえるかもしれないが、もちろん悪用まではいかなくても俺もうまくスキルを得たいという奸計がある事は内緒だ。
ムトゥは『願いをかなえてくれるならば死ぬまで忠誠を誓ってもいい』と言っていただけあって、全面的に協力を承諾。俺がオーファン達の為に動くのであれば、ムトゥ自身も協力を惜しまないし、もし全てのオーファン達を解放出来る筋道が立ったら残りの生涯をかけて忠誠を誓う事を約束するとまで言ってのけた。
俺はムトゥが信用と信頼に値する人物であり、尚且つその有能さ、頼りがいのある人柄を肌で感じたのでアデリーに耳打ちして相談を持ちかける。
『俺とアデリーが主で、ムトゥを家宰のような感じにして、砦跡拠点の『商会組織』を作るのはどうだろう?』
と。
するとアデリーはニッコリ微笑み、アリアをラッサンと遊んできなさいと追い出してムトゥと話を始めた。
この時ニアワールドに『八百万商会』が生まれたのだった。
--*--*--
アデリーとムトゥと話をつけ、ある程度の方針がまとまる。
とりあえずの目標は砦跡の大幅改造、そしてスキルカード集めだ。
その日からすぐに行動を開始した。
『商会を立ち上げようかな?』という俺の思い付きは、目途が立つまでは黙っておく。
これは
「私以外の誰にも言わない方がいい。 いい? 『私以外の誰にも』よ。」
と、珍しくアデリーに執拗に強めの念を押されたので、ちゃんと言いつけを守っているのだ。
なんせウチの蜘蛛さん頼りになるから。
実際のところ、俺はゴードンには相談した方がいいかな? と思っていたのだが、アデリーの怖い顔が思い浮かんだので内緒にしている。
さて、砦跡の改造についてだが、アデリーと相談した上で砦跡をカジノとホテルだけではなく、ショッピングモールも併設する形に決めた。
改造についてはギルドの他、ゴードンやアニにも相談し、街に来た当初に追い返された防具屋ドワーフのような職人が集まる連中に相談を持ちかける事になった。
ドワーフ達には手伝ってくれた者達には、日本製の最高級の大工道具を進呈する事を伝え、伊藤さんの用意してくれた大工道具一式を、添えられている説明を読みながら紹介すると、どうやらドワーフ達はお気に召したようで超乗り気になり、工事協力者を多数手に入れる事が出来た。
工事関係者には車での移動はもちろん、日本製の工事用品や工事道具、鉄筋にコンクリート、発電機など様々な物を提供し、砦跡をこれまで見たことも無いほど立派な施設にするように依頼。
ドワーフ達も見たこともない工具や材料がとても刺激的だったらしく超テンションでそれに応えてくれた。
また砦跡に関しては、アデリーの糸を巡らせた防衛網こと『ジャイアントホイホイ』の作成、それと同時に、日本から食料供給はもちろん。野菜の種や苗、肥料や栽培方法に農薬までを持込んでアト達に説明しニアワールドで新種となる野菜を作らせる事業も始めた。
もちろんムトゥを始め砦跡の先住民であるオーファン達については、約束通り働いてくれた分は俺が給料をだしている。支払は全て銀貨だ。銅貨なんてケチな事は言わない。
そうこうしていると日本に戻った時に伊藤さんから苦言が上がってきた。
「もうお金が足りなくなりそうです。」
「マジでっ!?」
慌てた俺は
「伊藤さんの事は全面的に信頼しているから長命のスキルカード使って儲けちゃってもいいよ」
と渡してみたら超感激してくれて、なぜか感謝された。
どうやら頑張ってくれるらしい。
……尚、3週間で長命のカードを5億円に替えた伊藤さんは化け物だと思った。何なのこの人。
そしてもちろんサリーさんに長命を渡した事がバレた。
「アンタはアホかーっ!!!」
鉄拳制裁をもらう。
割と真剣に死を意識するレベルの鉄拳で怖かったです。
でも、サリーさんもアデリーから俺が砦跡を色々改修している事とかは聞いていて、お金が要る事は知っていたのと、それが人助けの事もわかってたから「ぐぎぎ……」ってなってた。
助かったと思った……けれど、サリーさんからオーファンの使わないスキルカードを日本に……というかサリーさんに渡すよう要請されました。
俺もスキルカードを手に入れたら、割りたいので理由を聞いたら「アンタがアホな真似するから!」って怒られました。
だからサリーさんが預かって管理するってさ。
尚、サリーさんはアデリーの了承を取った模様。
……何、この俺の金で買った物を、どうする事もできない不条理。なんなのー。
こうして慌ただしい日々が過ぎて行き、スペシャルギフトのオークションも開催された。
金に物を言わせてスキルカードをほぼ根こそぎ手に入れ、早速砦跡でムトゥと声を取り戻す実験に取り組む事になった。
が……失敗した。
オーファン達からどの才能を抜き取ったのかは、きちんと記録をムトゥがまとめていたので、誰がどのスキルカードを割れないかは分かっている状態だった。
手に入れたスキルカードを『頭と体が拒否』しないよう、頭は酒酔いで麻痺、体はムトゥが補佐する形で割らせてみたのだ。
要はぐでんぐでんオーファンのムトゥ介助割りだ。
だが、割れたと思った瞬間に、オーファンを通り越してムトゥにスキルが吸収されてしまった。
次にアデリーの糸で、操り人形状態に工夫をして割らせてみても、糸を伝ってアデリーがスキルを吸収してしまう。
『補佐が付いて割らせる事は不可』という結論に達した。
ここで俺、閃く。
踏んで割ってもいいらしいから、オーファンにスキルカード自体を見えないようにして万力とかに半さんで、そのハンドルをぐるぐる回させて割らせればいいんじゃない? とドヤ顔で提案するも、ムトゥから実験済みとやんわりと言われ失敗。
ムキになって用意してやらせてみるも、なぜかカードが割れないのだ。
数日の試行錯誤の結果。
アデリーが救いの女神になった。
ほんとこの蜘蛛すごい。
アデリーが媚薬の応用で毒を使い一時的に催眠&盲信状態なような感じにして『炎の魔法の才能』を奪われた女の子に対して『炎の魔法が使える』と信じ込ませた結果『炎の魔法のスキルカード』を割らせることが出来たのだ。
当然女の子は気を失い寝込んだ。丸2日間も眠り続けた。
だが、その子は目覚めてから1週間後に声を発する事が出来るようになっていたのだ。
ムトゥは女の子の声を何度も聞き、涙を流して喜び、俺とアデリーはムトゥの信頼と忠誠を得る事ができた。
――こうして忙しく改修と改造、オーファン達の治療を進めていると、瞬く間に1ヶ月半もの時間が過ぎ去り、今日も俺が日本から砦跡に物資を送り届ける準備をしていると、久しぶりにアニが俺の前に姿を現した。
「……ねぇ。イチ? お願いがあるの。」
と、谷間を強調させて。




