114話 白いひげもじゃの捜索
本日2話目
ラッサン・ブライ……ラッサン。
ラッサン……オっさん。
……どっかで聞いたことがある気がするんだよな?
勇者の街に向けて歩きながら考えるけれど、どこで聞いたかが、どうにも思い出せない。
悶々としながらの一泊二日の帰路を進む。二日目の夜に街へと辿りつきアンジェナやゴルと解散することになった。
ちなみに往路と復路の違いに関しては、アリアがアメリカンドッグと……大きな声で言いにくいのだが夜の営みをとても好きという事が分かり、好物を大盤振る舞いしたという事くらいだ。
内心、俺が調子に乗って『お痛』している事にアデリーがキレてお仕置きされるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのだけれど、それは杞憂に終わった。ひゃっほい!
ただ時々、最中にも関わらずアデリーが上の空のようになる事があって、それが少し気にかかった。
それ以外はとても順調な帰路だったのだが……回復魔法を使えるとはいえ現代人の俺にとって、4日間の移動はとても疲れるものだったらしく、ゴールを目前にしてすでに足が棒のように感じられた。
……棒のように感じらえる理由は他にもある。
なんせゴードンが善意でつけてくれた犬っ娘と関係を持ってしまったのだ。
あの獣系亜人大好きゴードン。
ケモナーゴードンの護衛の犬娘メイドのアリア。
エイミーに続いてアリアまでお手付きにしてしまったのだ……
『いや、アデリーが!』と、アデリーのせいにもできるけれど、どちらにしろゴードンに謝りに行くべきだろう……そう思うととても気と足が重い。
--*--*--
「あ、あんまりやでぇ……イチはん……」
「すぃません。」
ソファーに座り、テーブルに額をくっつけて謝っているので『すみません』がうまく言えない。
「エイミーだけやなくアリアまでモノにしてまうとか……あんまりやでぇ~……」
「しぃませんでした。」
頭を下げた後に、こっそり目をやりゴードンの顔を覗き見ると、ゴードンは目を閉じて上を向き、おでこを右手で押さえながら、顔を大きく横に振っている。
ゴードンの醸し出す雰囲気が全体的に大袈裟なわざとらしい悲しみ方な感じがしないでもない……が、大事なゴードンの護衛に手を付けてしまったので、そんなことを思ったとしても口が裂けても言えない。
ゴードンは一通り悲しむような姿を見せた後、アリアに向きなおって声をかける。
「……アリア……お前はどうしたいんや?」
「ん~……ゴードンのお守りは、あんまり意味無いような気がしてたからな~。
イチとアデリーと一緒にいる方が楽しいかもしれないな~。なんせアメリカンドッグ美味いしっ!」
「さよか……」
ションボリとした感じで悲しそうなゴードン。
流石に心が痛む。
「イチはん……」
「……はい。」
「ワイはな……イチはんを大事な友達や思とるさかい……許すで……」
「……っ! ゴードンさっ……」
ゴードンが過剰に勿体つけ、まるで友情映画の中の一芝居のように喋っているような感じがしたので、俺も空気を読んで大げさに『ゴードンさん』と言うところを、感激で『ん』の音が詰まって出てこないような感じで答え、ゴードンの寛大な許しに対して感極まった感で感謝を伝える。
「アリアの事……宜しくたのんますわ……」
「……はいっ!」
ゴードンが嘘っぽく目元をぬぐう。
俺も下唇を噛んで感激している空気を出す。
その時疑問が生まれたので普通に問うてみる。
「でも、ゴードンさんの護衛は本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ。そこは心配してくれんでもリンジーが戦闘職やからな。今のところそんな困る事はない思いますわ。それに一応兎族の戦闘職のアテもありますしな。」
「そっか、じゃあ安心だな~。 …………ん?」
…………もしかして。
いやいやいや……無いとは思うけど。
元々犬っ娘を放流して、その兎族の人を雇いたかったから、間違いが起きるのを願って俺にアリアをあてがったとか……ないよね?
ゴードンがネコミミ護衛のリンジーと羊メイドのイザベラに向きなおり話しかけている。
「今のアリアを見ての通り、ワイはお前達二人の事も大事に思っとるさかい、やりたいことがあったらなんでも言うてくれ! ちゃんと力になるし、一緒に良いように考えるさかい!
……ただな……ワイはお前ら二人にはこれからも支えてもらいたいと思っとるし……これからも力を貸してくれると嬉しいんやで。」
芝居がかった言動で感情をたっぷり込めて二人に語り掛け、懐の広さをアピールするゴードン。
リンジーとイザベラの二人のゴードンに対する好感度は鰻登りのように感じられた。
ん?
ん~~……
…………まぁいいか! アリア可愛いし!
この日はアリアも一緒にアデリーの店に向かいアイーシャに出迎えられ一波乱あった。
そのせいもあって長旅で疲れていたはずなのだが深夜まで眠りにつくことはできなかった。
アラクネにケンタウロス、ドワーフにコボルト……4種族一緒に揃って色々できそうな機会って……そんなになさそうだし……なんでも出来る時にやっておくほうがいいと思って!
一つ分かった事は、やっぱりドワーフとかコボルトとかの人間っぽい下半身は、とても扇情的だと思いました。
……思った瞬間アデリーの顔が怖くなった気がしたから、そんな考えは意識から外したけれども。
うん。アデリーさんが一番みりょくてきれす。はい。
--*--*--
翌日から休んでいた業務やラッサン探しなどを始める事にした。
ゴードンにも情報収集を依頼し、アンジェナを通してギルドにも依頼し探してもらう事にしたのだが、その他に俺の方でも出来る事が無いか考えながら街をウロウロしているとアニと会ったので相談してみた。
「人探し……ねぇ。
もしかしたらだけどホールデンがそういう魔道具作れるかもしれないわね……」
「流石困った時のホールデン先生っ!」
「ふふふ。これから会う予定もあるから聞いておくわね。
で、作れそうだったら依頼したらいい?」
「うん。お願いしていいかな?」
「わかったわ。
…………そうだ。お代はこっちで持ってあげるから、今度、私のお願いを聞いてくれないかしら?」
「えっ? お願いって?
……なんか怖い響きがあるから代金はちゃんと払うよ。」
「ふふ、そんな変なお願いはしないから安心してよ。
というよりもイチには色々お世話になってるんだから日ごろの感謝をしたいって気持ちの方が大きいんだから。ねっ?」
『ねっ?』という言葉と共に、無駄に前かがみになり谷間を強調するアニ。
……アニの谷間の威力は素晴らしい。
今日はエイミーが隣に居るので見ないようにする。それでもどうしても谷間を見てしまうのは、きっとアニの谷間には引力の魔法が込められているからだと思う。
そう。谷間というのは魔道具なのだ。
きっとそうなのだ。じゃないと俺の目が引き寄せられる理由は無いはず。
これは魔法の力。ああ。それならもう仕方ないじゃないか。
そんなことを思いながら谷間を注視していたせいでアニの支払いの件については曖昧な返事を返していたらしく、気が付いたらアニと別れていて、エイミーに「結局どうなったんだっけ」と話の流れを確認することになった。
谷間の魔法に当てられたのだから仕方のない事だと思う。
――2日が過ぎ、夜。
ゴードンやギルドから寄せられた手がかりをまとめていると、ラッサンという人物は、最近まで約一か月に一度のペースで大量の物資を購入するような姿が目撃されており、そして王都に向かう冒険者と一緒に砦跡に移動するような姿があったことが確認された。
ただそれ以外の情報は見つからず、どうしたものか悩んでいると、アニの小間使いからホールデンが作ったという『人探し』の魔道具が届けられたので小間使いからコンパスのような魔道具の説明を受ける。
どうやら『探す対象の持ち物』をセットすることで探す対象の位置へ針が向くという作りらしく、また持ち物も『思い入れが強い物』の方が反応が良くなるらしい。
『探す対象の持ち物』が必要になるという事は、また砦跡にそういう物がないか確認しに行く必要があるのかと、ため息をつきながらアデリーに相談をしていると、
「あら? じゃあちょっと待っててね。」
と、ヒョイヒョイと外に飛び出してどこかへと向かっていき、あっけに取られているうちにグルグル巻きにされ「ん~~! ん~~!」と、唸っているアトを連れて戻ってきた。
「……え? まさか……この短時間で砦跡行ったわけじゃないよね?」
「イチったら冗談がうまいんだから。
この子はあそこを出た時からずっとつけてきて、イチの様子を観察してたのよ?」
「うぇっ!? まったく気づかなかったけど!?」
「そうね。私も何をする気か最初は気にしてたけど敵意は無いみたいだったからほっといたのよ。
まぁ……この子は追放者じゃないんだろうから街に入っても問題ないんだろうし。」
「って……ちょっと待って? 街に入れる人間がいるんなら情報はムトゥさんが自分で仕入れられるって事なんじゃない?」
「そうね。きっとムトゥは自分である程度の情報を仕入れていると思うわ。
多分だけど……ラッサンって人を探すのは別の意図もあるんだと思う。だから、この子にそれも聞いて確かめてみましょうか。」
「ん~~! ん~~!」
と、糸で猿ぐつわをされているアトを持ち上げるアデリー。
アトが暴れない程度に解放して、十分に落ち着いてもらってから話して情報を聞き出してみると、どうやらアデリーの読みは正しく、ラッサンという人物はムトゥ達に食料や必要物資を運んでくれていた人で、砦跡の住人たちにとっては恩人のような存在らしい。
だが、最近になって砦跡に来ることがなくなり心配になり探しているとの事。
そしてアトは必要以上に口を開かなかったが、話の内容やアトの様子から、この人探しが『俺が信頼できる人間かどうか』を試験しているような意味合いも兼ねていると思えた。
アトに『探す対象の持ち物』を持っていないかを確認すると符丁の意味合いでくれた簡素な腕輪があるとの事。
これは砦跡に万が一の事があり避難することになった場合に追放者以外は街に入れるので、街に逃げ込むことになる。その時に砦跡の住人の関係者である事をラッサンが理解できるようにする為の物らしい。
早速腕輪を借りて魔道具にセットすると、コンパスはグルグルと回った後、一定方向を指示した。
どうやらその方向にラッサンが居るらしい。
この日は夜だったこともあり、アトに豪華な食事と宿を手配し、明日一緒にラッサンのいる場所に向かう事にした。
ラッサン……どんな人だろう。




