109話 野宿! 諦めるなよ!お前はもっとできる子だろ!?
本日2話目
いざ野宿をする事になって分かった事。
その1。
ロマンチックさの欠片も無いという事。
日本での野宿のイメージだと、どこかアウトドア的なお泊りで解放的な気分も漂い、もしかすると一夜限りのアバンチュールが……的な妄想をしてしまうのだが、なんというかニアワールドの野宿は殺伐としていた。
モンスターがいるから当然といえば当然なんだが、微妙に緊張感があるというか、やっていい事とやっちゃダメな事とかの暗黙のルールが存在するような感じ。
まぁ俺も日本人ゆえ、その辺の空気は察するさ。察して大人しく過ごすさ。うん。
後、やっぱりジャイアント戦で多少疲れがあるのか護衛組が見張り役を誰がするかの割り振りで空気が悪くなったり、アンジェナはアンジェナで依頼主だからか、それか暗黙の了解なのかその空気ややり取りには一切触れずに淡々と馬車に積んである食糧の振り分けをして食事の準備をしていたりと。
漂う雰囲気はなんともドライ。
そしてまた食事の内容がつまらない。
アンジェナが分けてくれたのだけれど、どうやら今日だけじゃなく、移動中はずっと固そうなパンと干し肉とチーズがメインになるようです。物足りない。
食事に楽しみや飾り気がなさすぎる。
さらに、水は魔法使いのジャコが出してくれるのだけれど、なんというか……マズイ。
俺のイメージが味につながっているのかもしれないが、ジャコから水が絞り出されたような印象があって何となくマズイ。男から生み出された水をゴクゴクしたくない。
アンジェナが出してくれたらきっと超美味しいんだろうに……と、ジャコ水を飲む気がしなかったので、アンジェナに他に飲み物がないか聞いてみると、非常用にエールが積んであるらしい。が、やはり非常用なのだとかで飲めない。
なんという面白みの無さか……
その2。
アデリー先生。超便利。
食事が割り振られてから、俺がまぁどうしても『トイレ』に行きたくなったんだ。
でも野原で開放的に大をぶちかますのは流石に現代人として抵抗がある。
それになんか地中からモンスターとか出てきたらと思うとパーティから一人で離れるのも怖い。
踏ん張っている姿なんて……隠密使ってようがスキだらけもいいところだろう。
なので『日本に戻ろうかな? いや、かな? っていうよりも、むしろ一度日本に戻らせてくださいお願いします!』と思いアデリーに相談したら、あっという間に目隠しになるように、簡易テントを糸や布で作ってくれた。しかもアデリー特性ハンモック付き。
いやはっはっは。デキる蜘蛛でしょう? ウチの蜘蛛。
アリアの荷物を漁ってる時に、なんでただの布が入ってるの? と思ったけど、流石ゴードンだわ。色々想定してくれていたんだろうな。
糸と布の組み合わせで、あっという間にプライベート空間完成。
プライベート空間となったテントで休むのは俺、アデリー、エイミー、おまけでアリア。
アリアに
「これからジャーキーを用意します。ただし、俺が用意しているまでの間にテントに入ってきたら永遠にジャーキーやらんからそのつもりで。
……いや、単純に覗くなって事。うん。大丈夫。ちゃんとあげるから泣きそうな顔しないで? ね?
後、アンジェナや護衛組が戻るまで入らないように守ってくれたら、もっと美味しい物も用意するから。ね? 元気だそ?」
と話をしたら、鼻息荒くテント周りの監視を始めたよ。
おかげで自宅に戻れて開放的に事に及ばなくて済んだ。うん。
トイレを済ませてから、あっちでの食事の物足りなさを補うためにコンビニに行って色々買う。
なんせアデリーの食べる量を考えると、流石にアンジェナが用意してくれただけじゃ足りない。
馬車の備蓄をたくさん消費しても申し訳ないように思えたので、ジャーキーにカップ麺や、パン。出来合いの惣菜類にケーキやコーヒーゼリーにヨーグルト。ドーナツ等の甘味、缶ビールにスナックなんかを買う。
もちろん護衛組の差し入れ分とアンジェナの分も買ってある。
自宅からニアワールドに戻ると、アデリーとエイミーは既にアンジェナに割り当てられた食事を平らげていた。
テントから顔を出すとアリアが干し肉を噛みながら、不思議そうな顔でアリアを見ているアンジェナに目を光らせていたので「もういいよ。ありがとう。」と伝え、そのままアメリカンドッグを渡した。
不思議そうな顔で匂いを嗅ぎ、嗅いだ匂いから食べ物と判断し齧りつくアリア。
「あま……じょっぱいっ!」
「なんか癖になる味だろ? 他にも色々あるよ。」
「甘いのにしょっぱい! うまい!」
しっぽを振りながら食べるアリアをテントに誘導して、馬車から興味深そうにこっちの様子を伺っているアンジェナの所へと向かう。
「アンジェナさん。
一つ聞きたいんですけど、いい匂い……美味しそうな匂いとかさせても大丈夫ですか?」
「いい匂いですか? ……料理でもされるという事でしょうか?
ゴルさん。料理って大丈夫ですか?」
護衛の為に馬車に背を預けるようにして休んでいるゴルに声をかけるアンジェナ。
「あ~……ジャイアントは夜は基本的には大人しいヤツも多いし、まぁいいんじゃないか? それにもし来てもアラクネさんが対処してくれるだろうしさ。」
「だ、そうです。」
「分かりました。」
カップ麺って、作るといい匂いが漂っちゃうじゃない? だから、一応確認しないとね。
「イチー。ジャイアントなら大丈夫よ。
さっきの間に私この周辺に罠はっておいたから。」
テントからひょっこり顔を出したアデリーが俺に声をかけてくる。
ん? この話の通じ具合……また盗聴糸か? いつの間に付けられたんだろうか?
アデリーに罠の詳細を聞くと、どうやら俺達の周囲を、ぐるっと毒付き糸で囲ってくれているらしいので近づいたら辿り着くまでに死んでるとの事。あと、そのついでに盗聴糸もばら撒いてあるから、オカシイ気配がしたらわかるから安心しろとの事。
先生のお墨付きがあるのは有難い。
ちなみに護衛組も、アデリーの話を聞いてあっという間に力とヤル気が抜けたように感じた。うん。その気持ちはわかる。安心感すごい。
アデリー先生。超便利です。
その3
どんなに綺麗な人であっても、一度ウザイと思ってしまうと結構ウザイと感じてしまうという事。
許可も得たし、皆にカップ麺を振る舞いたいと思い一旦テントに戻る。
なんせ俺は湯を沸かす事が出来る。
一緒に持ってきたヤカンにペットボトルの水を入れヤカンを手に持ち熱する。
得たスキルカードでさらに魔力量が加算されているのか、沸かす水の容量が増えてもかなり早く沸かす事が出来るようになっているので、早速アデリー、エイミー、アリア、俺のカップ麺を作る。
尚、俺やアデリー達用にペットボトルの水を持参したのは、だってなんか……ジャコの水とか、三人にあんまり飲ませたくないじゃない。 ……ねぇ?
ちなみにアデリー、エイミー、アリアは俺の持ってきたコンビニ飯を既につまみ始めていて、アリアはホットスナックでかった、濃い味の焼鳥がお気に召したらしく、アデリーに牽制をくらいながらも必死に取ろうとしている。
エイミーはパンケーキとか甘い系の菓子パンにとろけ顔をしている。この馬。時々乙女の顔を見せるのだ。
カップ麺が完成する待ち時間に、アンジェナと護衛組にカップ麺と菓子パンを持って差し入れに向かう。
が…………これがまずかった。
護衛組の男共は、美味い食い物ラッキーくらいの軽いノリで『おめーいいやつだなー。ありがとー』で終わりそうだったのに、
アンジェナが、まー目がキラッキラ。興味津々。
「なんですこれ! どうなってるんです! 乾燥!? 揚げてる!? え? そもそもなんです!?この容器は!? っていうかお湯だけで温かい食事!? え!? 革命的な食事じゃないですか! これはとんでもないですよ! っていうかなんでこのパンこんなに惣菜が!? っていうか。どこに持ってたんです!? これも容器はなんですか!?」
と……矢継ぎ早に話すのです。
流石に俺のカップ麺はもう湯を入れてあるし、麺が伸びるのいやだったからあんまり相手せずに、とりあえずヤカンにジャコの水を入れてもらって湯沸かしして、適当にアンジェナを流しながら「ちょっとだけ待って麺が柔らかくなったら食って」と伝えて、テントに戻ろうとしたんだけど、アンジェナ自分のカップ麺持ったまんま「コレの事もっと教えてくださいっ!」って、ついてくるの。
で、俺もカップ麺食べたいし、テントがハーレム状態になるだけだし「まぁいいか」と思いながら、テントに入ったんですよ。
まぁーテントの中で飲んだり食べたりして、キャッキャウフフ。超楽しい。
みんな美味しい美味しい言ってくれるし、自分が持ってきた物で喜んでもらえる幸せを感じつつ、楽しい夕飯を過ごしていたのよ。
護衛組の男達にもビール差し入れしたりスナック菓子やったりしてさ。
でもアンジェナがその度に「イチさん! コレを是非ギルドでっ!」とか「いや、むしろ製法や容器を!」とか、大変五月蠅いのでございます。
ウザイと感じると、美人でもウザイです。はい。
……でね。
大事件発生。
アデリー先生ご乱心。
というか……酔った。
酒じゃなくて
コーヒーゼリーで。




