9話 商材を検討。
トイレで腕を組み右手を顎に当てて熟考する。
時々考えるのを寸断されたりもするが、トイレは考えごとをするのに適しているように思える。
さて食品に関しても、小売りではなく卸売が良いだろう。という事は卸し先の店主とは仲良くなる必要がある。
出来るだけ繁盛している屋台や評判のいい人柄の屋台を探して、そこの店主に日本産食品を食わせるのが早いだろうから、別に先の思い付きの奥様方に頼る必要はない……か。
まぁ、運よく奥様方と出会えたらお礼と言って食べさせておくのも良いだろう。反応を確認しておくのは大事だ。良い反応であれば、できるだけ騒がしくなる方に誘導して屋台の店主達に気づいてもらえるように振る舞うのも有効だろう。
後々としては、物語の中では奴隷制度あったから、奴隷を購入して卸売の小間使いとして働かせるのもいい。
……奴隷か。
性奴隷。
なんともいい響き。
いやいやいや……主人公もボーイミーツ奴隷した時に、たしか、若くて美人な奴隷は白金貨10枚とかの超高級な買い物だったよな。
1000万じゃないか!
ん? ……1000万で買えるなら……まぁ…なんだ。うん。
いやいやいや……
うん……うん。
確か悪人達が対モンスターの肉の壁用の奴隷が白金貨2枚とかってあったように思うから……まぁ、200万で誰かの人生買えるなら安いもんだな。
ただ奴隷商館は仲介が要るような話だったし、それに何よりストーリーが進んで奴隷制度自体が残ってたとしても形態が変わっているかもしれない。
これもまた折を見て確認しよう。
後は、昨日の夜屋台を見た時に気が付いたが、夜は中央広場付近の酒場もオープンしていた。
主人公が酒場でエールを飲んでたし、これは是非飲みたい。
あぁ。出来るだけ早く飲めるだけの小金を手に入れたいもんだ。
あ。そういえば服は奥様方の協力があったとは言え、結構簡単に交換してもらえたし、もしかするとそっちの服飾の方向も結構いいのかもしれない。食材の確認が終わったら次は服や靴下とかを考えてみよう。
後……重要な事だけど、日本で仕入れて異世界で販売するという事は、利益は異世界の通貨となる。
という事は現実世界での現金は貯金を切り崩す事になり給料日まで増える事はない。
つまり仕入れに支障が出てくる可能性がある。だから、日本で現金を稼ぐ方法も必要になる。
考えられる方法としては『異世界にある物を仕入れて現実世界で売る』
幸いな事に会社の名ばかりとはいえ取締役だから有望な商材が見つかれば、オバちゃんに頼んで売る事は可能だろう。
仕入れる物はやはり珍しい物……
例えば『魔法の巻物』……いや。ダメだ。
もし火の魔法がこっちで発動して火事になったとか、水の魔法が発動して電化製品が壊れたとかになったらクレームだらけになる。
武器は法的に売れないだろうし、防具なら好事家が買うかもしれない。
ただデカイよな。運ぶのも大変だしそれに単価も高いだろう。
『仕入れたはいいけど売れませんでした』だと大損ぶっこく事になるし、なによりあの面倒くさそうなドワーフのオッサンのところに行かなきゃいけない。
……却下だな。うん。
小さく、現実に無い物。
そして売りやすい物。
…………
……
…
あ。思いついた。
写真素材。
これなら初期費用少ないし、仕入れも0円。
何しろ異世界は美形だらけだ。間違いなく魅力的な写真が撮れる。
それに異世界の人達はこっちに来れないだろうし、著作権だの肖像権だのうるさくないし、まるっと俺が管理できる状態で売れる。
それにジャイアント以外にもモンスターだっているだろうから、そんな写真も面白いに決まってる。
モンスターと戦ってる様子を写真に撮ったりすれば、そりゃあスゲェCGだ! と盛り上がるだろう。
そうだ! 『CGです』と売ればいいのか。
よし! これはいけそうな気がする。
確か素人でも登録して販売できるサイトなんかもあったはずだ。
まず手持ちのデジカメで登録してテストしよう。
大分まとまってきたな。
とりあえずの目標としては
・異世界で使える金を手に入れる。
・異世界で写真を撮って売ってみつつ現実世界で販売可能な商材を探す。
だな。
よしっ!
俺は気合を入れてお尻洗浄ボタンを押した。
--*--*--
トイレから出てすぐに手持ちのコンパクトデジタルカメラをポケットに入れてニアワールドへと向かう。
中央広場へ向かいながら、風景や人を手当り次第に撮っていく。
時々首を捻っている人はいるがカメラらしき物の存在は当然無く『何してるんだコイツ』と不思議そうに見ているだけだ。
人に「ちょっと撮っていいですか」とか声をかける勇気は無いので、ひたすら盗撮する。
大丈夫。ここは異世界だ。
そもそもにして『盗撮』という概念が無い。
だから問題ないっ!
写真を撮りながら、中央広場で屋台や販売している人を観察する。
やはり屋台ごとにやる気の有り無しは顕著に感じられるし、同じ素材を扱っている屋台であっても売れ行きの差もある。
目を引いたのは、まぁ~イケメンが果物を売ってる屋台だ。品物が少なくなって、もう店仕舞いを始めてる。
別の店で同じような果物を売ってるお世辞で言うお姉さんのお店はまだまだ在庫がありそうだし、買っている人もいるから品物の差というのはそんなにないだろう。
美形が多い世界とはいえ、やっぱり「上の上」と「上の下」だと扱いが違うんだろうな。
……俺の事は放っておいてほしい。
美形の世界に来てみろ。ある意味開き直るしかない。
「どうもーゴブリンでーす!」とか言ってやろうか。くそが。
微妙に嫉妬の炎を燃え上がらせていると、昨日の子供が俺を見つけたようで手を振っている。
やった! ツイてる。
「やぁ、こんにちは。ボクたち。昨日はありがとうね。
ちゃんとお礼を言えてなかったから気になってさ。お母さん達はいる?」
「あっちにいるよー!」
子供達に連れられ、奥様集団の下へと向かう。
奥様集団といっても5人の奥様だ。
まぁ~どの奥様も美しい。とても目の保養になる。
だからとりあえずもれなく盗撮も忘れない。
美しい母とかわいい子の写真なんて、そうそう見つからんからな。これは金になるでぇ!
盗撮もほどほどに礼をする。
「昨日は有難うございました。
右も左もわかっていなかったので本当に助かりました。」
「あらあら気にしなくていいのよ。」
「いえいえ助けて頂けたおかげで街を楽しむ事が出来ています。
お世話をおかけしてしまったのに、なんのお礼もできなかったのが心残りになっていたので、また会えて本当に嬉しいですよ。
で、ですね。 私の故郷の菓子が手持ちにありましたので出逢えたら是非お渡ししたいと思っていたのです。」
「そんなぁ。かえって悪いわよ気にしないで。」的な合唱が聞こえ始めるので、とりあえず、チョコと飴を子供達に渡す。
どちらも紙で包まれているタイプの物で、子供は欲望に素直に受け取る。
その後母親達にも「どうぞどうぞ」と手渡すと、とりあえずという風に受け取ったので、また自分が一つ先に食べて毒見の役割をして安心させる事にした。
まずはチョコだ。
一口大の大きさの包装を少し剥がすと『the チョコレート!』と言わんばかりの甘い香りが広がる。
チョコレートの端を歯で押さえ手を捻ると コキン と心地良い音を立てて割れた。
舌の上に移動したチョコはゆっくりと蕩けだし、豊潤な香りと芯があるけれども柔らかい甘さをゆっくりと口内に広げ始める。その甘美な味わいに目を閉じる。
一口目は溶かして味わったので、残りの二口目は噛んで固めの食感を味わった。
美味しい。
これが売れないワケが無い。
俺の様子に一人の奥様が渡されたチョコを少し齧った。




