プロローグ(2)
大陸の西に位置するアスカンディナ地方には有名な古代湖が存在する。
バルデルト湖という名の湖で、俗説にはアスカンディナ地方全域にまで水が地下で繋がっていると言われている。そういった俗説が、人間の間で広まる程の広大さを誇ることで有名だが、それ以上に水質の良さから評判が高い。ろ過を必要としない水であるため、周囲に住む人々はバルデルト湖から直接飲み水として取り入れている。
水が良質なのは、より良い自然に恵まれ、尚且つ陸上の生物によって荒らされなかったこと。そして――
「ん~♪」
水辺に足を投げ出し、陸地に腰を下ろす生物が鼻歌を鳴らしながら夜空を眺めている。
全身が薄水色の人の形をした、人間とは全く別の種族――水精霊だ。
水精霊の生息する場所には良い水があるとされている。それは水精霊が、清らかな水のある場所でしか生きていけないことや、水精霊そのものの存在が水場に大きく影響を与えるからだ。
水精霊の身体は名前の通り、水で出来ている。身体を構成する水は当然、清らかなものだ。
しかし、清らかであるからといっても、ずっと同じ水では身体に大きな影響を及ぼす。そのため、水精霊は定期的に体内の水を抜き、外の水を取り入れることで交換を行う。それ故に、水精霊は綺麗な水場でないと生きていけない。取り込んだ水の質が悪ければ、水精霊の身体に与える影響も悪いものになる。人間で例えるならば、空腹だからと言って毒キノコを態々口にする行為と同等だ。
そして、水精霊から排水された水は、自然や人間にとって良質のものだ。つまり、水精霊の存在が、ろ過装置の役割を果たしているということになる。
「わぁー、きれいですー」
水精霊は空に見える流星に心奪われる。
水精霊は基本的に水中で生活するが、この水精霊は空を眺めることが大好きなため、こうして陸上に時々上がってくる。夜空に流れる星を見て、いつもよりも得した気分になる。
「っ!?」
そこで異変に気付く。そちらにばかり意識が行っていたせいで、気付くのが少し遅れた。
水精霊は慌てて水から足を引き上げる。それから、おそるおそる水面に顔を覗かせた。
「こんなことって・・・・・・」
中の状況を知り、水精霊は怯えながら、その場に佇んだ。




