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3)

 そして、今日。


 新婚旅行から帰ってきたゆっちゃんを待ち構えていたかのように計画されてた、社内用お祝い会、別名<めざせ!ブーケの花嫁>会(笑)が、社員御用達のレストランを貸しきりにして行われた。



 そして。


 ついに、その時がやってきた。


「さぁ、わが社の独身女性の皆様、お待たせ致しましたぁーっ!本日のメイ~ンイベント!ブーケ・トスを始めまーっす!」

 鬱陶しいほどにテンション高めの司会者(うちの営業さんだけど)の声を合図に、あちこちから拍手とか声援とかあがったりして、その場が一気に盛り上がる。

 それに押される形で、今回参加してる女性陣の中から、独身女性だけが、真ん中の広場へとキャーキャーと騒ぎながら集まっていく。

 もちろん私も、ゆっちゃんが投げやすいように、できるだけ前に陣取った。

 最近じゃあ、わざわざ独身アピールしたくないとかで(気持ちはとてもわかるけど)、結婚式でブーケ・トスをやる人も減ってるらしいけど、ここだけは違う。

 周りを見回せば、にこやかな笑顔の中で、皆、目だけが少しギラついてて…………ちょっと怖い。

 ……きっと、私もだけど。


「では、ブーケの花嫁。準備がよければ、後ろを向いて下さいね~」

 司会者の言葉に、ゆっちゃんが後ろを向く前に、一瞬目が合って、彼女が小さく笑ってくれたから、うなずき返した。

 うん!ゆっちゃん、私、がんばるからね!!

「さぁ、皆さん!覚悟はよろしいですか~?僕のカウントダウンにあわせて、掛け声は『せーの』でお願いします!」

 とうとう来た、この時が。

 ……よぅっし!絶対、ぜ~ったい、とるんだから!!


「では、いきましょう!次の花嫁は~、誰だっ!……3、2、1」

「「「せーのっ」」」


 外野の大きな掛け声とともに、ゆっちゃんが、ブーケを思いっきり投げた。

 彼女が私の好きなピンク色で用意してくれたブーケが、リボンをはためかせて向かってくるのに、周りより小さい体をできるだけ伸ばして、手を広げた。


 こっちに、おいで!ブーケちゃん!!


 あぁ、神様!

 私にあのブーケを下さい!



 そしてそして、ゆっちゃんのコントロールは、ばっちりで。

 ブーケは、まっすぐこっちに向かってきた。






 ……はず、だったんだけど。



「あ!……あぁっ!」

 飛び上がって掴もうとした手は、何も捕らえることはできず、私が受け取るはずだったブーケは、そのまま遥か後方へ勢いよく飛んで行く。


 …………。

 …………ゆ、ゆっちゃ~っん!?力、強すぎだからぁ!!

 高校時代、ソフトボール部だったらしいゆっちゃんの豪腕は、今でも有効だったらしく、勢いづいたブーケは、『きゃっ』とか、『わー』とかいう女性陣の声を次々通り越して行ってしまう。

 …………ちょっ、ブーケってあんなに飛ぶものだったっけ!?


 会場中の視線がブーケの行く先を見守る中、最後に、

「……っと」

 そんな、小さな声が聞こえてきて。

 あ、誰かとったんだなってわかる。


 だけど。

 静まり返った会場で、なぜか皆がポカンと口を開けて一点を凝視してる。


「?」

 え?え?誰?誰が受け取ったの?

 人を避けて、ようやく皆の見てる先を覗いたそこには、私が受け取るはずだったブーケを持って、苦笑いをしてる、私もよく知ってる人が……。


 え。


「……あ~……。幸せになります……で、よかったか?」

 困ったように髪をかきあげた彼は、少し引きつった笑みで、そう言った。


 そう、‘彼’。

 我が上司、営業一課、鳴海課長が。





「「「えぇぇぇっ!?」」」




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