発売記念SS ラスボスの重い愛
「おおっと、シルヴァン。落ち着けよ?」
大広間に入るなり、退出しようとしていたアロイスに忠告された。
いきなりなんだっていうんだ。
意図を探ろうとして、ヤツの肩越しに見える光景に目をみはった。
ロクサーヌが見知らぬ男といる。
距離が近い。
ロクサーヌは俺に背を向けているから表情はわからない。
だが男はにこやかで、明らかに彼女を狙っている。
「ああ、ロクサーヌ。君の髪はなんて美しいのだろう。まるで秋の野を彩るリコリスのようだ。凛とたたずむ姿もかの花を思わせる」
男はそう言ってロクサーヌの髪をすくい、口づけようとした。
「ダメだ、シルヴァン! 彼は――」
アロイスが制止したように聞こえたが、知るものか。
素早く攻撃呪文を唱える。男の手に向けて。だが――
「おやめください」
俺の詠唱が終わる直前にロクサーヌが素早く男の手を払った。攻撃はなにもない空間を切り裂き、その先の誰かに当たった。
「殿下。私は婚約していると申しました。国際問題に発展しますわ」
ロクサーヌは毅然と拒絶し振り返ると、俺と視線を合わせて嬉しそうに微笑んだ。
ああ、可愛い。
だが今はその顔はやめろ。他の男がやまといる。
「あちらにいるのが私の婚約者、我が国筆頭魔術師のドパルデュー公爵です」
「おやおや。こちらの王族は、見境なく隣国の王子に攻撃をするのかい?」
男がおもしろそうに笑う。
「先に手出しをしたのはそちらでしょう」
俺は答えると大股でロクサーヌのもとまで行き、彼女の腰に手を回し抱き寄せた。
今の言葉で、男が誰か確定した。が、そんなのはどうだっていい。俺のロクサーヌに近づく男は全員敵だ。
◇
「もう、シルヴァンったら怒りすぎよ」
ロクサーヌが可愛らしく苦笑する。
大広間のバルコニー。室内では、隣国の王子一団を歓迎する会が開かれている。
だがとうに歓迎する気持ちは失せている。
ロクサーヌの艶やかな髪を手ですくい、口づけた。
「婚約者がいると知ってあのふるまいをする男なぞ、害虫と同じではないか」
「それは否定しないけれど」
彼女を抱き寄せ、白くなめらかな額にキスをする。
――自分でも抑えが効かない自覚はある。あの日ロクサーヌを好きだと認めたときから、俺の世界は一変した。
ロクサーヌがとなりにいてくれれば、それでいい。ほかのことなんて些事にすぎない。
だが彼女が喜ぶのなら筆頭魔術師として美麗な制服に身を包み続けるし、彼女を守るためならどれほど手を汚そうとも構わない。
「シルヴァンに無駄に敵を作ってもらいたくないの。もう私の知っている未来とは違うもの。あなたに危機が迫っても、わからないわ」
困ったように眉を寄せるロクサーヌは、本気で俺を心配しているようだ。愛おしくてたまらない。
彼女を抱き寄せ、腕の中に閉じ込める。
「未来はロクサーヌと俺が幸せに過ごすものしかないから、案ずるな。それ以外は俺がすべて焼き尽くす」
「そうね」
ロクサーヌが伸びあがり、俺の頬に口づけた。
「大好きよ」
「俺もだ、ロクサーヌ」
頬にキスをし返す。
だが当然それで満ち足りるはずはなく。
ロクサーヌの兄が「まだ婚前だぞ!」と怒鳴りこんでくるまで、キスを続けたのだった。




