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【ネトコン13受賞!書籍化予定】私は悪役令嬢らしいので、ラスボスを愛でる係になることにしました  作者: 新 星緒


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番外編  幼いシルヴァンの肖像画

「ここここ、これはなんですかっ!」


 差し出された額縁をがしりと掴み、引き寄せる。

 どう見ても、どこから見ても、左端に描かれている銀髪の少年はシルヴァンだわ!

 笑みを浮かべているけれど、どこか儚く、消えてしまいそうな危うさがある。

 それが美しい容貌とあいまって、まるで精霊のよう。とても人間の子供とは思えない!


「ええと」と、アロイスが答える。「シルヴァンが七歳くらいのときだったかな。亡き妻のご両親が、僕たち仲良し三人組の肖像画をほしいと言って、画家に描かせたんだ」

「奥様のご両親グッジョブ!!!!」


 あれほど見たいと渇望したシルヴァンの幼少期!

 まさかこの目で見られる日が来ようとは!

「ああ、神様ありがとうございます! ロクサーヌは幸せ者です!」


 麗しい子供のシルヴァンをうっとりと見つめていたら、ぬっと出てきた手に額縁を取り上げられてしまった!

「わ、私の天使が! なにをするのですか!」


 手の主をキッとにらみつけると、そこにいたのは不機嫌マックスの顔をしたシルヴァンだった。「今の俺が目の前にいるんだが?」

「今のシルヴァンも、お子様のシルヴァン様もどちらも好きなんです!」


 シルヴァンが怒ったように口を引き結ぶ。と思ったら、素早く長身を折り曲げて、私にキスをした。

「絵の俺はキスしないぞ?」

「そ、それとこれは違うの!」


 言い返したところで、シルヴァンのとなりに、半眼で私たちをみつめているアロイスがいることに気がついた。

 そうだった!

 ここはアロイスの屋敷の応接室だった!

 キスしているところを見られた!


 急激に羞恥心が湧き上がる。

 というか、アロイスの前でオタク丸だしで、シルヴァンの幼少期に狂喜乱舞してしまったわ。恥ずかしい……


 身の置き所がなくて思わず俯く。

 するとシルヴァンに抱き寄せられた。

「アロイス、ロクサーヌを見るな。減る」

「いやいや、ここはぼくの屋敷だし、彼女を恥じらわせたのは君だよね?」

「余計なものを出すアロイスが悪い。こんなもの、さっさと処分しろ。よし燃やそう」


 っ!?

「ダメっ!」

 慌てて顔を上げて、シルヴァンが持つ肖像画に手を伸ばす。だけど手が届く前に、アロイスがそれを取り上げた。

「やめてくれ。妻の宝物だったんだ」

 そう言うアロイスは、切なそうに微笑んでいた。


 ――忘れていた。

 少年シルヴァンの美しい姿に我を忘れてしまったけど、肖像画はアロイスの愛する奥様の遺品だった。


「大切なものを雑に扱ってしまってごめんなさい」

 私が謝るとアロイスは、「いや、大丈夫」と微笑んだ。

「燃やされのは困るけどね。きっと妻はシルヴァンの意外な姿を見られて喜んでるよ。まさかシルヴァンがこんなに嫉妬深い束縛系男だったとはね」


 アロイスは楽しそうに笑い、シルヴァンは不満そうに顔をしかめた。


 シルヴァンが私をろくに外出させないから、心配したアロイスが『シルヴァンの伴侶になる人にどうしても見せたいものがある』といって、無理やり私を自邸の晩餐に招いたのよね。

 そんな経緯だから、シルヴァンはずっと不機嫌だ。


「ロクサーヌ」と、アロイスが私を見た。「こんな激重な男に惚れられて大変だろうけど、ぼくの大事な親友だ。どうかよろしく頼むよ」

 もちろんです、と答えようとしたら、それよりも早くシルヴァン様がフンッと鼻を鳴らした。

「アロイス、案ずるな。お前が考えている以上に、ロクサーヌは肝の据わった人間だぞ」

「まあ」


 私の最推しにそんな風に評価してもらえているなんて。とても嬉しいわ。

『シルヴァンと一緒にいるためなら、修羅の道でもはだしで行くし、地獄にだって堕ちるわ』

 大好きな人にそう伝えたいけれど、アロイスがいるから心の中だけにとどめておく。


 だけれど私の気持ちが伝わったのか、シルヴァンは嬉しそうに目を細めると、私の額にキスを落とした。

「……ふたりが幸せそうでよかったよ」

 アロイスのその声で、みつめあっていたシルヴァンと私は彼に視線を移した


「さ、肖像画はもう見たし、そろそろ晩餐にしようか」

 そう言いながらアロイスが肖像画を執事に渡そうとする。

「あぁっ、待ってください!!!!」


 思わず大きな声で叫んでしまう。

 アロイスも執事もビクリとしていたけれど、まあいいわ。

 とっても大事なことだもの!


「その肖像画の複製を作らせていただくわけにはいきませんか」

「フクセイ??」

 アロイスが驚いたように目を見開く。

「はい。天使のシルヴァンのお姿を毎日拝みたいのです!」

「お…がむ?」

 戸惑ったような声を出すアロイス。


「はい!」私はシルヴァンを見た。「魔法で複製を作ることはできないかしら。絵でなくてもいいの。鏡に映すのでも、なんでもいいわ」

 シルヴァンは私をじとりと見つめていたけれど、やがて大きなため息をついた。


「仕方ない。複製を作ろう」

「嬉しい! ありがとう!」

 伸びあがって、渋い顔をしている彼の頬にキスをする。

 あ、しまった。アロイスがいるのだった。でもいいわ。とても嬉しいから!


「今の俺がそばにいるのに」と不満そうなシルヴァン。

「供給はあればあるほど幸せなの! あなたの色々な姿を目に焼き付けたいのよ」


 そう伝えると、シルヴァンは表情を緩めた。

「……そういうことなら、まあいいか」

「うふふ」


 やったわ! 天使のような少年シルヴァンの姿柄をゲットしたわ!

 嬉しい気持ちで肖像画に目を向けると、それを持っているアロイスが微妙な表情をして私を見ていた。

「……うん。君たちは最高にお似合いなのかな」

「「当然!」」


 シルヴァンと私の声が重なる。

 再び私たちは見つめあい、それから微笑みあった。


《おわり》

第13回ネット小説大賞 小説部門に入賞した記念の番外編です。

ブシロードワークス様から書籍化予定ですので、続報をお待ちいただけたら嬉しいです!

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