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【ネトコン13受賞!2/6書籍発売】私は悪役令嬢らしいので、ラスボスを愛でる係になることにしました  作者: 新 星緒


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12・幕 強がることしかできない筆頭魔術師

 自席から、主のいない机を見る。

 静かな俺の執務室。

 いつもなら、もう始業前のアップルティーを彼女がいれ終っている時間だ。なのに今日はまだ来ていない。


『シルヴァン様の負担には微塵もなりたくない』と言ったときの彼女を思い出す。

 きっと俺は彼女を傷つけたのだ。


『鬱陶しい』と拒絶したときも。

 いつもなら笑って言い返す彼女が、泣きそうな顔をしていた。


 だが仕方ない。

 俺は彼女に手駒以上のことは望んでいないのだ。

 オラスに、衆目の中で無様に婚約破棄を断行するよう黒魔術をかけたのも、手駒を使いやすくするため。

 それだけだ――


 扉を叩く音がした。


 ようやく来たか。

 そう思ったのに、入ってきたのは彼女の兄だった。若い男を連れている。ふたりきり。彼女はいない。


 一応、立ち上がって出迎える。

 兄はひととおりの挨拶をしたあとに、俺の机に二通の封書を置いた。やけに分厚い一通には『シルヴァン様』と、薄いもう一通には『退職届』と書いてある。


「突然のことで申し訳ありません。理由はあなた宛のほうに書いてあるそうです。ですが心当たりはおありですよね?」

 兄が冷ややかな目で俺を見る。


「散々オラスに傷つけられてきたロクサーヌが、まさかあなたにまでひどい仕打ちを受けるとは思いませんでした」


 返す言葉がない。

 俺は本心を言ったまでだ。だがそれが彼女にどう影響するかは、考えなければならなかった。でも――


 二通の手紙を見る。


 俺の雑用係をずっとやりたかったんじゃないのか?


「急なことであなたもお困りになるでしょう。こちらの」と、兄が後ろに控えている若い男を示す。「彼はベルジュ家の事務員で、魔法の心得もあります。後任が決まるまでは彼を――」

「結構です。もとより彼女を雇ったことが異例なのですから」


 そう。彼女がいたことが、おかしいのだ。俺はいつだってなんだって、ひとりでやってきた。

 辞めるというなら、それでいい。

 代わりの人間なんていらない。


「わかりました。陛下にもすでに伝えておりますので、これで失礼をします」

 兄と男が扉に向かう。

 だけど出ていく前に、兄が振り返った。


「そうそう。ロクサーヌには一刻も早く、新しい婚約者を見つけてやるつもりです。あなたの存在は差し障りになりますから、これで縁切りということでお願いします」

「……わかりました」


 ふたりが出ていき、執務室にひとりとなる。

 分厚い封筒を取り、魔法で封を切り、便箋を取り出す。

 一番上にあったのは、見慣れた綺麗な文字で書かれた短い文。


 俺を好きすぎて、このままだと嫌がることばかりをするストーカーになりそうだから、退職するという内容。


 なんだそれは。自分勝手が過ぎないか。

 俺の破滅回避に尽力してくれるのではなかったか。


 だが、彼女ならきっと――。


 便箋をめくると二枚目以降は、予想どおりに破滅についての詳細がみっちりと書かれていた。

 これがあれば、俺は失敗しない。

 彼女は俺を好きなだけあって、手抜かりはないらしい。


 だが、こんな危険な内容の手紙を他人に託すなんて、不用心すぎるのではないか?


 ひどく苛々する。


 目をあげると、彼女の机が目に入った。

 もう、必要のないものだ。

 彼女は来ない。

 手を翳し、呪文を唱える。


 魔法の矢が放たれ、机を射貫く。

 ドンッと低い音がして、机は吹き飛びながら、さらさらと崩れていった。

 すぐに跡形もなく消え去る。


 これでいい。

 すべて元どおりだ。

 手駒はなくなったが、情報は得た。

 なんの問題もない。


 俺はなにも持たないのだから。

 なにも失ってなどいないのだ――


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