表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ネトコン13受賞!2/6書籍発売】私は悪役令嬢らしいので、ラスボスを愛でる係になることにしました  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/57

9・2 雑用係、役に立つ

 シンボルツリーは、一目見てそれとわかった。中に数人入れそうに太い幹、四方八方に伸びた枝。


 森の王、といった貫禄がある。

 だけれど、その葉の多くと枯れた枝が地面に落ち、表皮は乾いてささくれ立っている。


「一応、検査をするか」

 シルヴァン様はそう言うと、私に葉や枝を集めさせた。それを持参したいくつかの試薬につけて、呪文を唱える。

 ――なにも起こらなかった。


「病気ではないな」とシルヴァン様。

「というと」私は木を見上げた。「寿命ですか?」

「そう。種の標準樹齢の何倍も生きているからな」と、シルヴァン様。「ほら、雑用係。よかったな。出番だぞ」

「私がですか?」


 不思議に思って、シルヴァン様を見る。


「生命力を上げれば、寿命は伸びる。術自体はそれほど難しくない。治癒魔法と根本は同じだ」

「それのどこに私の出番が?」


「問題は」と、シルヴァン様。「これほど巨大なものになると、必要な魔力も膨大になる。精神力も体力も」

「だからアロイス様の代わりができるのが、シルヴァン様だけなのですね」

「他にもいるが、俺とあいつ以外では、それなりにしんどい」


「さすが、シルヴァン様。ほかの平凡魔術師とは違って、余裕なのですね。アロイスも、というのが面白くないですけど」


 シルヴァン様が心なしか、得意げな表情になる。

 だけどそれは一瞬のことで、すぐに真顔に戻ってしまった。


「さて、ここで問題が起きる。俺は黒魔術を習得している――」

 シルヴァン様によると、黒魔術は基本的に負の要素で構成されたものだそう。それを使い続けると、使い手の魔力にも負の要素が入ってしまう。


 通常ならば問題ないけれど、大量の魔力を使って治癒系統の術を行うときにはまずい。負の要素が術を邪魔してしまう可能性があるのだとか。


「つまり」と、シルヴァン様はシンボルツリーの幹に触れた。「逆に即刻生命を終了させてしまう恐れがある」

「そこで私の出番という訳ですね」

 うなずくシルヴァン様。


「魔力をお前に通す。ろ過装置だな」

「わかりました。でも、そうなってくるとアロイスが本当に体調不良なのか、怪しくなってきますね。シルヴァン様を試したのかも」

「かもしれないな」


 やっぱりアロイスは要注意人物ね。


「それならちゃちゃっとやって、さくっと帰りましょう!」

 シルヴァン様が眉を寄せる。


「お前に入った負の要素がどうなるか、と気にならないのか?」

「だってシルヴァン様、まだ私を死なせはしませんよね? 大事な情報を聞き出せていないのですから」

 なぜかため息をつくシルヴァン様。


「そうだな。お前に今死なれるのは困る。――にやけるな、意味がわからない」

 あら。私、そんな顔になっていたかしら。


「だって、どんな理由だとしても、嬉しい言葉なんですもの」

「……魔力流しも、負担が大きい。死にそうだと感じたら、教えろ」

「教えたら、どうなります?」

「中断するしかないだろうが」


 それは、失敗するということよね?


「ほら、やるぞ」

 シルヴァン様に命じられて、地面から顔を出している根に腰かけ、幹に両手を触れる。その私の背を、ラスボスが両手で触れる。

 じんわりと温かい。緊張して、鼓動が速まってきた。


 シルヴァン様が呪文を唱え始める。すると彼の手が置かれたところから、なにかが入り込んでくるのを感じた。私の中を通って、両手から樹木に流れていく。不思議な感覚。


 あ。でも、これ。

 けっこう、大変かもしれない。


 脈がさらに速くなり、体中がほてる。

 そのせいなのか、息も苦しい。


 だけど、大丈夫。

 死にそうなほどではないわ。

 シルヴァン様に失敗なんてしてもらいたくないし。

 アロイスの奸計にはめられるのは、嫌だし。


 がんばらなくては。


◇◇


「終わったぞ。もう手を離していい」

 背後から、シルヴァン様の声がする。

 ずいぶんと長い時間が経った気がする。一時間なのか、二時間なのか。


 さすがにちょっと……つらい。


「おい。大丈夫か?」

「成功しましたか?」

 笑顔で振り返りながら尋ねる。

「当然。――というか」


 ぐいっと腕をシルヴァン様に引っ張られた。


「なんだ、その汗! 顔も真っ赤じゃないか!」

「……ほんの少し、疲れました」

「どこがだ!」


 体がぐらりと傾く。

 だめ、ふんばらないと。



 そう思ったけれど、体に力が入らなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ