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【ネトコン13受賞!2/6書籍発売】私は悪役令嬢らしいので、ラスボスを愛でる係になることにしました  作者: 新 星緒


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8・2 夜会とシルヴァン様

 軽快な音楽が流れる王広間。予想どおり、私は早々にひとりになった。


 予想外だったのは、きのうの夕方、ヒロイン・ピアに待ち伏せされて声をかけられたこと。

 彼女は私に、

「明日の夜会、ご一緒しませんか」と誘ってきたのよね。


 どうやら婚約者の私を差し置いて王太子とともに参加することに、罪悪感を感じているみたい。

 夜会ではオラスがピアを、名だたる貴族や名士に紹介してくれる約束だとか。それも彼女が力を入れている孤児院支援が目的だという。


 彼女はどうしてもオラスと共にいたい、だけど案外親切な私を差し置くのは心が痛む、とのこと。


 小説では、もちろんこんなエピソードはなかった。廊下でぶつかったときのことが影響しているみたいね。

 あのあと間違った噂が流れてしまったことも、ピアは気にしていたみたい。火消をがんばったそうなのだけど、火に油を注ぐだけだったとか。


 いずれにしろ、私の答えは

「お断りするわ」の一択しかなかったわ。

 そのついでに、私はオラスとの婚約を解消したいと考えていること、だけど陛下が認めてくれないことを伝えておいた。

 これで彼女も心置きなくオラスと一緒にいられるわよね。


 私はいつもどおり、ひとりで会場の隅に向かう。

 陰では、『王太子の婚約者』なのに滑稽だ、と揶揄されているけど、知ったことではないわ。

 以前の私は傷ついていたけれど、今はもう大丈夫。


 だって私には推しがいるから。その姿を眺めているだけで幸せだもの。


 ラスボスは今日も善人の顔をして、自分を囲む貴族たちと談笑している。

 美しい笑顔に誰もが魅了されている。

 私だって大好きな顔よ。


 ……そうね。顔だった、ね。

 今一番好きなのは、私に嫌味をいってやろうというときの意地の悪い表情。

 彼は本当は腹黒い男なのだとよくわかる顔なのよ。

 

「あら、また氷の令嬢はおひとりなのね」

 揶揄を含んだ声が耳に届く。どちらかのご令嬢が、絶妙に私に聞こえるように話しているみたい。

 無視にかぎるわ。


「王太子殿下に嫌われているからって、聖人のようなシルヴァン筆頭魔術師様にまとわりついて。とんだアバズレね」

 そう言いたい気持ちはわかる。

 

 シルヴァン様は女性の陰がまったくないし、どんな女性にも節度を持って接している。

 だからこそ、私が彼の雑用係をしていても、おかしな噂は立たないのよね。


 人々ができるのは、雑用係を任された私の悪口をいうことだけ。

 だから私はなにを言われたって、気にしないの。


「おや、ベルジュ嬢」

 呼びかけられて、ハッと我に返った。いつの間にかシルヴァン様がそばに来ていた。


 今夜もうっとりするほど美しい。

 惚れ薬に使った花々が刺繍された豪華なモスグリーンのジュストコールに、同系統のウエストコートを合わせている。長い銀髪と美しいお顔とあいまって、まるで妖精の王のよう。


 ほう、とため息が出てしまう。

「素敵ですわ……」

「ありがとう。君もきれいだね」と、ラスボスは猫かぶりの微笑みで、心にもないお世辞を口にする。それから、


「また、オラスはあなたのエスコートをしていないのですね」

 と、なぜか当たり前のことを言って、善良そうに困った表情を作った。


「あとで注意しておきます」

「いえ、構いませんわ。公務を肩代わりしない婚約者など、必要がないのでしょう」


 オラスの尻拭いをやめて、三ヵ月。

 私の代わりに側近たちが仕事をさせられているけれど、彼らの不満はたまりにたまって、爆発寸前みたい。オラスが私に「なんとかしろ」と度々迫って来る。


 でももちろん、無視。

 側近たちは、私がオラスの仕事ほぼすべてをこなしていた事実を、隠蔽していたのだから当然よね。オラス共々、ぜひ苦労してもらいたいわ。


 ラスボスは悲し気な眼差しをする。

「甥にもあなたにも幸せになっていただきたいのですが。難しいことなのでしょうか。胸が痛みます」


 やめて、鳥肌が立つことを言わないで。――と言いたいけどそうもいかないので、

「ありがたいお言葉ですわ」と、答える。

「ですが、あなたを私の雑用係にと決めた兄は慧眼でしたね」


 んん? どういうことかしら?

 シルヴァン様が大嫌いな兄を褒めるなんて、おかしい。


 だけどラスボス様は慈愛の天使の表情で、

「あなたにそれだけの能力があると見抜いたのですからね」と続けた。


 視界の端で、気まずげに俯いているふたりの令嬢がいる。きっと先ほど私の陰口をたたいていた人たちだわ。


 もしかしてシルヴァン様は、私を侮言から守ろうとしてくれたの?

 国王の判断に難癖をつけるのか、と。


 どうしよう。すごく嬉しいわ。

 少しは私に関心を寄せてくれてると、期待してもいいのかしら。


 さりげなく令嬢たちに背を向けて、小声でシルヴァン様に、

「お気遣い、嬉しいですわ」と伝える。


 すると彼は天使の表情を保ちながら、聞き取れるギリギリの声量で

「違う。あれはお前を使いつづけている俺への侮辱でもあるからだ。殴られたら殴り返すものだろう?」と答えた。


「シルヴァン様って、沸点が低いですわよね。そこも好きですけど」

 ふたりで声をひそめあって話を続ける。

 なんだか共犯という感じがして、とても楽しいわ。

 ずっとこうしていられたら、幸せなのに。

 それなのに――


「ロクサーヌ!」


 苛立たしげに私の名前を呼ぶ声とともに、オラスが現れた。

「一曲踊るぞ」と有無を言わさず私の手を取る。「父上に命じられた。大使が誤解しているから、お前と踊ってこい、と。ありがたく思えよ」


『別にあなたとなんか踊りたくないわ』

 その言葉が喉元まで出かかったけれど、なんとか呑み込んだ。

 オラスは無理やり私を引っ張って、広間の中央に向かう。


 短い幸せだったわ。

 私は振り返ると、シルヴァン様に一礼をした。

 一応上司と部下だもの。人目がある限り、そこはきちんとしなければならない。


 シルヴァン様も完璧な笑顔を浮かべて、軽くうなずいてくれたのだった。

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