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【ネトコン13受賞!2/6書籍発売】私は悪役令嬢らしいので、ラスボスを愛でる係になることにしました  作者: 新 星緒


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6・2 花園での逢瀬(の気持ち)

 澄み渡った空気に包まれた花園。色とりどりの花が咲き乱れ、かぐわしい香りに包まれている。

 王宮で一番ロマンチックな場所だから、普段は散歩中の貴族や、逢引きをする男女が行き交っている。


 だけど今は早朝。さすがに人の姿は見当たらない。


 ということは、実質ふたりきりのデートでは?

 なんて素敵なのかしら。

 となりに佇むシルヴァン様をちらりと見る。

 彼によって強制的に時間外出勤させられたけど、構わないわ。だって、デートなのだから!


「ニタニタするな。気味が悪い」

 私を一気に現実に帰す声がした。もちろんシルヴァン様。最上級に不機嫌な顔をして、私をにらんでいる。


「言われたとおりに、さっさと摘め」

 シルヴァン様と私の姿と声は、他の人に見聞きできない魔法がかかっている。だからシルヴァン様は安心して、素の姿をさらけ出しているみたい。


 私にとってはご褒美でしかないシチュエーションなのだけど、気づいていないのかしら。


「ええと。まずは百合ですね」

 ときめく気持ちを静めつつメモを見て確認すると、百合の花に手を伸ばした。花のすぐ下の部分に指を添えて摘み取り、左腕にかけているカゴにいれる。


 今回の私の仕事は、朝露に濡れている植物の花を摘むこと。百合、薔薇、マリーゴールド、ラベンダー、クチナシ、アガパンサス、ツユクサの七種類。これらを、たくさん。 


 私が黙々と作業をするのを、シルヴァン様は黙って見ている。


「この花々で、なにをするのですか。摘んでいるところすら見られたくないということは、よくないものに使うのではないか、と思うのですけど」

 でも問いかけたものの、返事が来るとは思っていない。シルヴァン様はいつも、私に詳細を教えてくれないもの。


「惚れ薬」

 まあ。 

 簡潔とはいえ、予想外なことに返事がきたわ。

 思わず手を止めてシルヴァン様を見る。それに惚れ薬って……


「まさか、飲ませたいお相手がいらっしゃるのですか?」

 小説にはそんなエピソードはなかったけれど。


「作ってみたいだけだ。実験はするが」と、シルヴァン様。

「私を被験者にしないでくださいね。シルヴァン様以外を好きになりたくありませんもの」

「……実験体は決まっている」

 シルヴァン様はそう言って、とある侯爵令嬢の名前をあげた。彼に熱を上げていることで有名な方だ。


「彼女に惚れ薬なんて、必要ないですわよね? シルヴァン様に首ったけではありませんか」

「違う。他の男に惚れさせる。犬でも馬でもいい」

「え、犬……?」


 どういうこと?

 シルヴァン様は不愉快そうに顔をしかめている。彼女がなにかしでかした、ということなのかしら。


 ふう、とシルヴァン様が面倒そうにため息をついた。

「ピア・パッティ」

 オラスが夢中のヒロインね。

「彼女がどうかしましたか?」

「お前が彼女に暴力をふるったという噂を流したのは、あの令嬢だ。雑用係をクビにするのが目的だったらしい。調査結果に間違いがないのは確かだが、証拠はない」

「まさか私の仇を討ってくれるのですか!」

「そんな訳があるか」


 一瞬膨らんだ期待を、シルヴァン様は言下に否定した。

 

「俺を手に入れようとして卑怯なことをする女は、いずれエスカレートしてもっと面倒なことを引き起こす。今の内に排除しなければならない」

「なるほど」


 わからなくはないわね。

 でもそのために、他の人間に惚れさせようとか、なんなら相手は動物でもいいだなんて――

「シルヴァン様って、やることが結構過激ですわよね」

 彼は答えず、代わりに鼻を鳴らした。


「そういえば、いつだったか部屋に閉じ込められた私を助けに来てくれたとき、扉を派手に吹き飛ばしましたけど、あれって本当に――」

 緊急性が高いと思ったから?

 シルヴァン様の本性を知ってしまうと、そうではない気がするのよね。


「苛ついていたからな。発散できてちょうどよかった」

 しれッと答えるシルヴァン様。


「ふふっ。最高ですわ!」

 さすがラスボス。『慈愛の天使』の面影はどこにもない。

「シルヴァン様のそういうところ、大好きです!」

「……度を越したら、お前にも惚れ薬を飲ませるからな」 


 ということは、まだ許容範囲なのね。 

 とっくに越えているのかと思っていたわ。

 嬉しくなりながら、花摘みを再開する。


 シルヴァン様は仏頂面で監視役に徹している。そんな彼に、 

「これって、女性が摘んだものしか使えないということなんですね?」と尋ねる。

 でなければ、シルヴァン様がわざわざ勤務時間外に私を呼び出すはずがない。


「……まあな」と、面倒そうに答えるシルヴァン様。「『穢れなき乙女』が条件なんだ」

「まあ。私のことを乙女と思ってくださるのですか。嬉しいですわ」

 シルヴァン様が私をにらんだ。


「ほかに利用できる女がいないからだ。――そういえばお前、穢れていないだろうな」

「失礼な発言ですわ。私はオラスと違って、婚約者を裏切るようなマネはしたことがありませんのよ」

「それならいい」

「シルヴァン様は? お穢れですか?」


 小説には、初恋を引きずっているというエピソード以外に、恋愛への言及はなかった。

 でもシルヴァン様はいいお年。世間には隠していても、そういうことをしている可能性は十分ある。

 とても気になる。だけど……。


 自分で尋ねておきながら、胸の奥がもやもやしてきた。


「やっぱり返答はいらないです。聞きたくありませんもの」

 少しだけ動いて、シルヴァン様の顔が見えないようにする。

「惚れ薬が完成したら、言い値で買いますわ!」

「そんな恐ろしいことを誰がするか」

 

 話題がそれたようで、ほっとする。

 私、おかしいわ。

 小説を読んでいたときには、こんな嫉妬じみた感情を抱いたことなんてなかったのに……。


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