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【ネトコン13受賞!2/6書籍発売】私は悪役令嬢らしいので、ラスボスを愛でる係になることにしました  作者: 新 星緒


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6・1 ヒロイン対悪役令嬢?

「本当にショックだわ。昔は素敵な王子様だと思っていたのよ」

 となりを歩くルシールがため息をつく。


 仕事を終えて退勤途中。王宮の廊下には同じようなひとたちがたくさんいるから、声は控えめ。でも心底がっかりしているのがよくわかる口調と表情だわ。


 この話題も何度目かなのだけどね。

 きっと、先ほどオラスの姿を遠目に見たせいね。


「私にとっては、素敵にはほど遠いひとよ」と、いつもどおりに答える。

「ロクサーヌは苦労しているわね」


 そのとおりよ。

 だけど、それをわかってくれる友達が今はいるのは嬉しい。


 ひと月前の事件で、オラスが私を犯人に向かって突き飛ばしたことは、ひっそりと噂になっている。

 ほとんどの人が、王太子が主張する『たまたま、そうなってしまっただけ』という嘘を信じているものの、そうでない人も多少は存在する。


 主に魔法省に。


 複数の魔術師が監視映像を見ていたし、省内では、雑用係をしている私が評判とはかなり違うと思われているためね。

 私は不純な動機でシルヴァン様に近づいただけなのに、予想外の効果があったわ。


「あ……!」

 ルシールが小さく声をあげて、足を止める。


 正面を見据えている彼女の視線をたどると、パッティ男爵令嬢ピアが両腕に抱えきれないほどの大荷物を持って、ふらふらと歩いていた。


「なにをしているのかしら」と、首をかしげるルシール。

「もしかしたら、新事業の準備かもしれないわ」


 小説によれば今ピアは、お友達(・・・)の王太子オラスに、孤児院の子供向けの学校を開くことを提案している時期のはず。そこから仲がますます深まるのよね。


「どうする? ロクサーヌ。彼女とはあまり関わりあいたくないのよね?」

「随分前に話したことなのに、覚えていてくれたの?」

「友達の悩みだもの、当然よ」と、ルシールがはにかむ。

「悩みってほどではないわ。できれば穏便に、オラスを彼女に引き取ってもらいたいし」

「賛成よ。どうにかならないのかしら」


 ほんと、私もそう思うわ。

 ただ、彼女は悪い令嬢じゃない。貴族としては珍しい、気風も度胸もある溌溂系なのよね。

 オラスと親しくなったのも、けっして下心ゆえではないし。


 そんな彼女に、二面性のあるオラスを押し付けるのは、ほんの少しだけ良心が痛む。

 でも恋に落ちるのは(小説では)事実だし、きっとなんとかなるのよ。オラスも本気で好きな子に対しては、まっとうな人間になるのかもしれないし。


 ルシールは気遣ってくれたけれど、彼女をあからさまに避けるのもいかがなものかと思うので、そのまま廊下を進んだ。

 足取りがおぼつかないピアに、すぐに追いついてしまう。


 彼女をよけて通り抜けようとしたのだけど――

 大荷物のせいでよろめいた彼女がたたらを踏んで、私に真横から激突してきた。


「キャッ――!!」

 ピアが短い悲鳴をあげる。

 けれど、痛い目にあったのは私だった。彼女と荷物の下敷きになってしまった。


「ロクサーヌ!」

 ルシールがすかさず、やたら重い荷物をどけて、手を差し伸べてくれる。

「怪我はない?」

「ないわ。ありがとう」と、私は立ち上がったものの、ピアは足首を押さえたままうずくまっている。


 そんな彼女にルシールが、憤怒の表情で

「あなたね、自分で運びきれないものを持って、こんなところをふらふらしていたら危ないってわからなかったの!?」と、叱りつけた。


「ごめんなさい」と、申し訳なさそうに謝るピア。

「ルシール、私なら大丈夫だから――」

「いいえ。問題はそれだけではありません」ルシールは珍しいことに私の言葉を遮ると、さらにピアをにらみつけた。


「もし高位貴族を怪我させたなら、あなたの立場が悪くなるのよ? ご家族にも影響が出る。よく考えて」


 確かに、ルシールの言うとおりかもしれない。

 小説では、彼女が王宮で王太子の信頼を得たり、成功をおさめていくのを気に入らない一派がいる。


「そこまで考えが及びませんでした。本当にすみません」と、ピアが素直に謝る。

「わかったなら、いいわ」と、ルシールは言って私を見た。「出過ぎた真似をして、ごめんなさいね。ロクサーヌ」

「謝ることはないわ」彼女に微笑んでから、ピアを見る。「あなた、足を痛めたのかしら? 立てる?」


 ピアは困ったように頭を左右に振った。


「それなら誰かを呼んでくるから、待っていらして」

『ありがとうございます』と頭を下げるピアを残して、ルシールと私はその場を去った。


 ルシールはひたすら、関わってしまったことを謝っていたけれど、私はそれほど気にしていなかった。


 彼女も子爵家――しかも落ちぶれている――の人間として、肩身の狭い思いをしているからこそ、ついお説教をしてしまったのだと思う。


 それに今回の件で、私は明らかに被害者だもの。悪役令嬢の振る舞いはしていないから、なんの問題もない――。


 そう考えていたのだけれど。

 翌日の午後には、私が王太子が大切にしている友人を突き飛ばして転ばせ、あげくに激しく叱責したという間違った噂が王宮を席巻していた。


 ピアが嘘をついたのか、あの場に居合わせた通行人がホラを吹いたのか。

 良い状況とはいえないけれど、どちらでも私は構わなかった。


 どうやら彼女に関わると、私の行動がどんなものであれ悪意があったことにされてしまうらしい。そのことがわかったから、結果的には良かったと思う。


 これから先は徹底的にピアを避ければいいのだもの。


 それに私は推し活に忙しいから、彼女なんかに煩わされている時間はないわ。




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