表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ネトコン13受賞!2/6書籍発売】私は悪役令嬢らしいので、ラスボスを愛でる係になることにしました  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/57

5・幕 筆頭魔術師はおかんむり

(シルヴァンのお話です)


 カリカリとペンが紙の上を走る音がする。

 もう日付も変わろうかという時刻。魔法省に残っているのは、俺たちだけ。他の音は聞こえない。


 と、ペンが止まった。

「できたぞ」と、アロイスが嬉しそうな声をあげる。

 立ったまま腰を曲げて書き物をしていた彼は、大きく伸びをした。

 作業台の上の、たった今書きあげられたばかりの設計図を見る。


「完璧だろ?」と、微笑む彼に、

「ええ、ありがとうございます」と返す。


 元魔術師が、仕掛けそこなった自動爆発型魔装置。それをふたりで分解・解析をしていた。


「よくこんな恐ろしい兵器を考えるよ」と、アロイスが残念そうにため息をつく。「ひらめきは天才的なのに。なにがあの人を狂わしたんだか」

『なにが』と問われれば、その答えは俺だろう。が、憂いの表情を浮かべて

「残念です」

 と、相槌を打つ。


「まさか女性に手をあげるような人間にまで、堕ちるとはな」

 話を続けるアロイスに、設計図と作業台に置かれた実物を見比べながら、

「そうですね」と答える。

「しかし」彼の声に笑いが混じる。「ロクサーヌには驚いた。強さもだが、君を守ろうとするなんて」

「……」


 あのときのことが、まざまざと脳裏によみがえる。

 ベルジュはオラスに突き飛ばされても、元魔術師に羽交い絞めにされても、反撃を見事に決めても、表情を変えることがなかった。『氷の令嬢』の面目躍如、心がないかのような無表情を貫いていたのだ。


 それなのに、俺の名を叫びながら飛び込んできたときの顔といったら。

 醜悪このうえなかった。

 あれはどんな感情によるものだったのか。

 恐怖のような、必死さのような。それとも泣き出す寸前のような。


 元魔術師の動きには気づいていたが、ベルジュのあの剣幕に気を取られて防御するのが僅かに遅れた。

 あいつが余計なことをしたせいで、危うく死にかけたのだ。

 迷惑極まりない。


「彼女が魔法省に来てから、評判とはだいぶ違う令嬢だと感じてはいたが――」

 アロイスはそこで言葉を切った。

 だが続けたい言葉はわかる。なぜそのふたつに差があるのか、今日の一件でよくわかったことだろう。

 嘘つきがいたということを。

「……彼女は変わり者だけれど、有能ですよ」


 そう。ベルジュは有用だ。

 予知夢は真実だった。今後、彼女が言う俺の破滅を回避するために、役立ってくれることだろう。

 あの様子なら、国王が送り込んだ密偵ということもなさそうだ。

 

 飛び込んできたときの彼女には、まったく躊躇がなかった。

 本気で俺に好意があるらしい。


 愚かだが、利用はできる。


「いい子だよな、ロクサーヌ」アロイスが、ため息をつく。「ずっとウチで働いてほしいよ」

「……アロイス」


 設計図を作業台に置いて、彼を見る。


「うん? 間違っているところがあったか?」

「違います。彼女は王太子の婚約者です。ベルジュ公爵令嬢と呼ぶべきではありませんか」

「え、でも」と、アロイスは首をかしげた。「彼女が『ぜひロクサーヌとお呼びくださいませ』って言ったんだぞ? 君は言われてないのか?」


 ……確かに言われたことはある。

 だが、あんな変態じみた令嬢を、名前なぞで呼びたくなかった。


「それでも節度を守るべきでしょう」

「そうか? まあ、気にするな。君は真面目すぎる」


 アロイスは笑うが、そういうことじゃない。

 

「さ、筆頭魔術師様の承認を得られたのなら、僕は帰るよ。どんなに遅くなっても、息子の顔を見るのが日課だからな」


 愚鈍な男に苛立ちが募る。

 だが俺は『慈愛の天使』だ。それ以上の注意は諦めるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ