表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ネトコン13受賞!2/6書籍発売】私は悪役令嬢らしいので、ラスボスを愛でる係になることにしました  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/57

5・3 人質にされましたわ

「さがれ! 魔法を使えば、即彼女を殺す!」


 元魔術師が叫ぶと、シルヴァン様とアロイスは胸の高さにあげていた手をおろして、後ろへさがった。

 廊下に並ぶ扉のあちこちが開いて、魔術師や事務官が顔を出す。


「全員動くな! 部屋に戻れ!」

 矛盾したことを要求する元魔術師。計画の失敗に、冷静さを失っているみたい。周囲を睥睨していて、私への注意はおろそか。

 

 ねえ、愚かなあなた。

 長年厳しい王太子妃教育を受けてきた令嬢を、甘く見ないほうがいいわよ?


 靴のヒールが鋭角に入るよう、元魔術師の足の甲めがけて振り落とす。

「っぐっ!」

 続けて右の肘で男の腹に一発。

「っぎゃっ!」

 首のいましめが緩んだ隙に抜け出して素早く男に相対すると、右腕を取り体をひねってその下に入る。勢いをつけて背負うように、男を投げ飛ばす。


 ビタン!と激しい音が廊下に響いた。

 床に大の字になった男は、なにが起こったのかわからない顔をしている。


「護身術くらい完璧にマスターしておりますわ」

 そう声をかけたけど、耳に届いたかどうか。まさか女性に力で負かされるとは思っていなかったのでしょうね。


『護身術』として習ってきた体術だけど、前世の記憶がある今はそれが柔道だとわかる。さきほどの技は一本背負いね。

 元魔術師が小柄でよかったわ。 


「ロクサーヌ! ケガはないかい!」

 駆けつけてきたアロイスが、私を男から遠ざける。

 シルヴァン様は私に見向きもせずに、元魔術師になにかの術を施している。

 ほんの少しばかり、さみしい。


 野次馬たち、騎士団長と部下たちもやって来て、辺りは騒然としてきた。

「ロクサーヌ、君は医師の診察を受けて」と、アロイスが心配そうな顔をする。

「必要ありませんわ」

「だが、首を締められただろ? それに血まみれだ」


 その言葉に自分を見下ろすと、たしかに首周りにべっとりと血がついていた。元魔術師のだろうけど、気味が悪い。


「オラス、付き添いなさい」と、シルヴァン様が普段の外面用よりほんの少しだけ強張ったお顔を、この場から離れようとしていた甥に向けた。「自分の婚約者でしょう」

「今は叔父上の部下ではありませんか」と、不満そうなオラス。

「私とアロイスは、彼の監視を続けないといけません。魔力は封じましたが、危険な魔装置をまだ所持している可能性が――」


 喋るアロイス様の後ろで、床に横たわっている元魔術師が腕を動かした。なにかを投げるような動作。

 その手から、小さな玉が放たれる。シルヴァン様に向かって。


「シルヴァン様!!」

 彼に飛びつき、床に押し倒す。

 目の前で玉は爆発四散し――

  

◇◇


「バカなのか、お前は」

 私たちの他には誰もいない寝室で、最上級に不機嫌な顔をしたシルヴァン様が、吐き捨てるように言った。


 ベッドで寝ている私は、枕元に尊大な態度ですわっている彼を見上げている。あおりで見ても、彼は美しい。大好き。だからこそ――

「だってシルヴァン様がお怪我をしたら、嫌ですもの」

 そう言い返すとシルヴァン様は、薄汚いものでも見るような顔になって、ため息をついた。


 元魔術師が投げたのは、魔法で作った小型爆弾だったらしい。シルヴァン様の席に設置予定だったものと同種で、人ひとりを木っ端みじんにする威力があったとか。


 私の目の前で爆発したけれど、シルヴァン様が瞬時にシールドを張ったおかげで助かったみたい。


 ただ、勢いがついていた私はシールドに激突して、気を失ったそうだ。なんてマヌケなのかしら。恥ずかしい。

 そんな私は王宮の一室で、手厚い看護のもと寝かされていた。

 今は、目覚めの知らせをきいたシルヴァン様が、様子を見に来てくれたところ。


 きっと外面の良さを保つために、仕方なく来たのね。部屋に入ってからずっと、怒っているもの。

 役に立って好感度をあげたかったのだけど、失敗してしまった。

 人質にとられるわ、呆れさせてしまうわでは。


 ……がんばったのだけどな。


「オラスがお前を突き飛ばしたことは、記録に残した」

「……というと?」

「不注意で人質にとられたと誤解されるのは、面白くないだろう?」と、苦虫を嚙み潰したような顔のシルヴァン様。「本人ははずみで手がぶつかったと主張しているし、国王も世間も信じるだろうがな」

「シルヴァン様。私なんかのためにお気遣いしてくださったのですか?」

 ぷいと顔をそらすシルヴァン様。

「……違う。国王もオラスも嫌いだからだ」


 でもさっきは、私が誤解されるのは――と言ったわよね?

 もしかしてシルヴァン様はツンデレ属性もあるのかしら。


「そうですか」

 と、答えたけれど、多少は私のことを考えてくれたことが嬉しくて、胸の奥がポカポカする。

 好感度を得られなかったのは残念だけど、これだけで十分だわ。


「ところで元魔術師はどうなりましたか」

 小説では投獄以上の情報はなかった気がするのだけど。


「牢獄の中で自死した」

「まあ」

「王太子を巻き込んでは、極刑を免れ得ない。だからだろうな。動機も何もわからずじまいで、ただの逆恨みだろうと結論づいた」

「良かったですね」

 冤罪の件がバレなくて。

「お前も。予知夢が真実だと立証できて命拾いしたな」


「ええ。これからもシルヴァン様のおそばにいられて、嬉しいですわ。たくさんお役に立ちますから、おそばにいさせてくださいね」

 

 ツンデレなシルヴァン様は、答える代わりにフンっと鼻を鳴らした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ