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5.クロムの欠片


「クロム様」

「なんだ、レイラ」


 持ってきた簡単な装備で、戦闘の準備をする。


「クロム様は危険を冒さないものかと思っておりました」


 手袋をはめ、握る感触を確かめた。


「失礼ながら、クロム様が軍を使えば、万有の森を手に入れることができたはず……しかし、それを為さらなかった」

 

 レイラへ振り向いた。

 表情を変えないまま、レイラが続ける。

 

「大勢の血を流してしまうから、と考えたからではありませんか?」


 あのグローブは軍を使っても、万有の森を取ることはできなかった。

 絶望的な戦力差がありながらも、レイラはそれを、私なら勝つと確信している。


「ですが私は……分かりません。なぜクロム様お一人で万有の森を攻略するのですか。それは絶対に不可能かと思われます」


 不可能か。

 私はレイラの問いに答える。


「単純なことだ。私ならば、誰も死なせずに万有の森を手に入れられる」

「ッ────⁉」


 それは、決して楽な道ではない。

 双方が納得しながらも、遺恨を残さずにしようというのだ。


「私は何度も、危ない道を進んでいる。今回もそれと同じだ」

 

 大賢者の時に、人々を庇って死んだ。

 そうして転生したかと思えば落馬して死にかけていて......なんとか生き残っても体はボロボロ。

 誰が味方か敵かも分からない状態で、命の王族宝蔵を売り払って、召使の信用を得た。

 

 ここまでで三度だ。

 下手をすれば三度、命を失っていた。

 

 その果てに、私は立っている。

 

「進む覚悟がなければ、今を手に入れられなかった」

「……っ!!」


 今度はグローブの宝を捨てて、このチャンスを手に入れた。


 私が失敗すれば、あえなく私とグローブは破滅だ。


 命を懸けるのには十分な値札だ。


 剣を手に取る。


「レイラ、私には見たい世界がある」


 語ったところで、夢物語でしかない。

 前世でも叶えることはできなかった。


 それは、誰よりも純粋で真っ直ぐな願いであった。


「私は、皆が幸せに暮らせる……平和な世界だ」


 その先にこそ、家族と呼べるものがあるのではないのだろうか。


「ふふっ、子どもの戯言だがな」


 そうして、私は歩みを進めた。

 

 会場は森を使った闘技場で、私と対戦するダダパイという人物は……覆面をしており鎖で拘束されていた。

 人の姿をしている。だが、その容貌と口調が強く否定した。


 ダダパイ。


「ぐぎが……ぐぎゃ!」


 なるほど、人語は話せないようだな。

 戦闘に特化した、戦闘だけが生きる糧のような……族長、お前の最終兵器という訳だな。


 死をも喰らう狂犬とは、よくいったものだ。


 ガチャンッ! とダダパイを拘束していた鎖が外れる。


 族長が強く杖を叩いた。


「やれ、ダダパイ」


 ダダパイ、100人分以上の力を持つという狂犬。

 私とこの世界にいる100人分の強さがどのくらいのものか。

 

 ぜひ、ぜひ見せて欲しい。

 

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