4.万有の森
第十王子のグローブ・クローバーが手を取ったのは、後者……王族宝蔵を手放すことであった。
そうしてクロムが出発したのち、グローブ陣営では少し騒ぎがあった。
「な、なんだと……?」
報告を聞いたグローブがガタッと立ち上がった。
そして叫ぶ。
「は、はぁぁぁっ!? 王族宝蔵をすべて持ち出しただと!?」
「はい……それを持って万有の森へ潜ったようでして……」
「俺の命と同義なのだぞ……! あれはクロムが持っているようなお小遣いではないのだ!!」
バンッとテーブルを強く叩いた。
その反応が外に漏れ、ざわつき出す。
「な、何を考えているんだあいつは!!」
「取り返しに行かれますか」
「馬鹿者が! それこそ死にに行くようなものだ!」
怒鳴りながら、またもグローブが物に当たる。
「クソ!! なんだなんだあいつは……! 全く思考が読めない……!」
*
「これは、なんじゃ」
「見て分かる通り、宝だ」
万有の森。クロムは蛮族に囲まれていた。
私が周囲を見渡すと、木々の上から値踏みするような視線を向けられている。
敵意は丸出し。
森を生活拠点とする彼らには地形の有利があり、戦闘になれば今の私ではひとたまりもない。
話しているのは、年老いた族長である。
族長が鋭く目を細めた。
「何を考えておる。こんなもので我らが買えると、金で解決しようなどと、なめておるのか?」
「勘違いをするな。そのつもりならば初めの時点でやっている」
「なに……?」
悠長な声音で、起こったであろう出来事を話す。
「グローブ王子は大方、『俺は次期王だ! ひれ伏せ!』とでも言ったのだろう。それが失敗して、今度は武力による制圧をしようなんて……お前らの怒りは当然だ」
「分かっておるではないか」
グローブの性格は先ほどの取引で、大体は把握した。
乱暴でせっかち、そして傲慢さが全面に出ている。
「これはそのお詫びだ。双方に被害が出たとはいえ、悪いのはこちらだ」
先ほどまで騒いでいた蛮族が、少し大人しくなる。
「すごい……!」
「あの量は我々ですら持っていないぞ……!!」
「あんなものを、クローバー王国の奴らは持っているのか……」
どうやら、気に入ってくれたようだ。
宝は人種問わず価値が高いらしい。
「……そういうことならば、謝罪を受け入れよう」
宝を持っていくように族長が指示を出す。
こいつ……そういうことか。
ふふっ、面白いな。族長は宝の目利きがしっかりしているようだ。
こいつ今、王族宝蔵だと理解して受け取ったな。
「だが、我らはこのような宝で森を────……」
「取引をしよう」
「は……?」
困惑する族長へ続ける。
「ここに、先ほどの宝と同じモノがある」
王族宝蔵を全て渡すほど、私は馬鹿ではない。
まずは反応を見て、宝に関する彼らの対応を見たかった。
みんなは喜んでいるのに、その中で唯一、平然を装う奴がいた。
下手に感情を隠そうとするから、誰よりも目立って分かり易いなぁ族長よ。
笑みを我慢する。
お前は、ここにいる誰よりも眼を輝かせていたぞ。
「入れ替わり儀式だ」
「……っ」
「お前らの一族にある入れ替わりの儀では、当代の族長と戦って勝てば長になることができる」
おいおい、まるで『なぜ、それを知っている────』みたいな顔ではないか。
先ほどの、何食わぬ顔で王族宝蔵を持っていったのはどうした。
「もしも私が敗れれば、残りはお前、個人にやろう」
小さな声で族長から「そんな数百年前の風習を……よく調べたものだ」と言われた。
薄っすらと笑いながら、続けた。
「今、私たちは同じ土俵に立っている。そうだろう?」
「貴様……頭のネジが外れているのか。負けることを考えていないのか!」
負けること、か。
いや、私が負けないなんてことは言わない。
負ける時は負けるものだ。
「負けたら負けたで、良いではないか。お前は王子の命に等しい王族宝蔵を手に入れる」
「はんっ、貴様らの損害は計り知れぬな」
バンッ、と族長が杖で大きな音を鳴らした。
「良いじゃろう、取れる宝は取っておこう。入れ替わりの儀式を受けてやる」
やけにすんなりと受け入れたな……もう少しごねるものかと思っていたぞ。
余裕から見ても何かあるな、これは。
「ただし、条件がある! 儂は高齢故に戦えん。代わりにダダパイを戦わせる!」
「ダダパイ?」
「死をも喰らう狂犬という意味じゃ」
ほう、これまた物騒な名前だ。
「だ、ダダパイを⁉」
「あいつを解放するのか?」
「あんな化け物を……」
視線をそちらにやると、怯え方からしてあまり良い評判ではなさそうだ。
ニヤリ、と族長が笑う。
まるで勝ちを確信しているような笑い方だ。
「ダダパイは我らが飼っている輩の中で最も強く、特に制御ができない戦闘特化の化け物じゃ」
脅すように、族長が続けた。
「ある日、脱走して熟練の戦士を5人ほど殺しての……それ以来封印しておった」
熟練の戦士1人につき
クローバー王国の一般兵20人に匹敵する。
それを5人……ざっと実力だけ見ても、100人分の力はあるということだ。
最終兵器と言っても過言ではないようだ。
逆に、それくらい全力で来てくれる方が安心するというものだ。
「貴様、死ぬぞ」
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