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3.第十王子グローブ


 クロム・クローバーがいる領地付近で、とある人物が居た。

 野外のテント群。


「クソ! 三度も失敗をした!!」


 苛立ちを見せる彼は、第十王子グローブ・クローバーであった。


「お、落ち着いてくださいませ、グローブ様」

「落ち着いてなどいられるか! 継承権の高い兄上たちを裏切ってまでこの作戦の指揮を取らせてもらったのだ! なんとしても、あの森を手に入れなければ俺の立場は完全になくなる!」


 クローバー領土内にある万有の森。


 魔鉱石。


 ここでは貴重と言われる魔鉱石という魔力を含む石を採取することができた。


 クローバー王国では、これを輸入に頼っており、自国での採取ができなかった。


 だが、最近になって、その購入額を上げられると脅されたため、なんとしてもこの森を手に入れなければならなくなった。


「やはり、万有の森を手に入れるなど……不可能なのです」

「歴代の英雄ですら、誰も手を出しませんでしたからな……」

「我々だけではとても……」


 だが、それは不可能と言われていた────。

 なぜ長年にも王族クローバー家が手を出してこなかったか……そこには理由があった。


 とても焦った声音で、金髪をかきむしりながらグローブが奥歯をかみしめる。


「あんな森に……なぜあのような蛮族共が住み着いているのだ……!」


 クローバー王国内で、最強と言われる蛮族がいた。

 森を知り尽くし、森の戦いにおいて最強を誇る────伝説ともいえる戦士たちであった。


 次期王になる男だ、と高圧的な交渉をしようとしたグローブにより、初動から大きく失敗し、武力による干渉では双方に死者を出しながら大敗を喫した。


 もはや、グローブに残されている手はなかった。


「グローブ様、撤退を……」

「うるさい黙れ! これには、俺の王位継承権がかかっているのだ! 貴様らも俺の臣下だというのなら、それを忘れるな‼」

 

 グローブは続ける。


「いいか! 何が何でも、不可能と言われる万有の森を手に入れるのだ……! そうすれば、王への道は一気に近くなる!」


 この作戦を失敗すれば、王位継承権を剥奪されるだろう。

 その焦りが、グローブを狂わせていた。


 声が響いた。

 若く、軍人とは違う柔らかい声音であった。


「万有の森。欲しいですか、兄上」


 グローブがゆっくりと、大きく目を見開いた。


「クロム、お前……どうしてここにいるんだ?」


 それは少し過去に遡る。

 

 *


 クロムの屋敷。

 クロムの屋敷で、彼は召使いに頼んで情報を集めていた。この世界に関すること、出来事や歴史、そしてクローバー王国の状況について。


「クロム様、以前とはまるで別人です……」

「あ、あぁ。前はもっと優しくてお淑やかだったけど、落馬してからなんだか……言葉にしにくいけど」


 召使いは忠実にクロムの言うことを聞いていた。


 それは金で買われた、と言うこともできる。

 しかし、人間は下世話な方向に物事を捉えたくない生き物である。


 我々は、命と言われる王族宝蔵を渡されるほどクロム様に信頼されている。

 

 命を以て信頼されているのなら、こちらも命を以て応えなければならない。


 その気持ちがクロムへ忠誠を誓わせていた。


「ふむ……そうか。大体分かった」


 パンッ、と本を閉じるクロム。

 

「えっ、この量を一瞬で⁉ 早っ!」

「ん?」

「い、いえ何でもありません!」


 さらに資料が届く。


「クロムはこの領地を任されていたのか。だが、資金難に追われ借金をしていたようだな……」


 はぁ、とクロムがため息を漏らす。


「変わらず資金難か」


 何をやるにしても、お金が今は必要であった。

 これは、クロム・クローバーがこれからを生き抜くための準備ができる唯一の時間であった。


 強いだけではダメなのだ。

 鍛えつつ、資金難を解消しなければならない。


「近隣の情報はあるか」

「こちらに……近くに、第十王子グローブ・クローバー様が居られるようです」

「グローブ? 誰だそ────ごほんっ、すまないが、グローブ兄上について教えてもらっても良いか。記憶が少しあやふやで」

 

(((誰だそいつって言いかけた……‼)))


 召使いも咳払いをし、グローブの説明を始める。


「第十王子、グローブ・クローバー様。金髪の美男子にして、性格はせっかちなものの武勇ともに安定感があり十番目の王位継承権をお持ちの方です」

「ほう」

「今は攻略不可能と言われた万有の森で作戦指揮を執っています」

「万有の森か。それは先ほど資料に目を通した。確かに、すべてクローバー軍が負けているな。それの攻略とは、グローブ兄上も大変なことだ」


 興味がなさそうに、クロムがため息を漏らした。


「どうせ失敗────……待て。作戦状況は分かるか?」

「こちらに」

「魔力の話を教えてくれた時もそうだが、お前は優秀だな。名前を聞いておこう」

「召使いレイラと申します」

「レイラか、覚えた。作戦状況を確認させてもらう」


 クロムがそれを一通り読み終えてから、深く悩み込んだ。


 十分近くの沈黙ののち、ようやく声を発した。


「これは……いけるな」


 それだけ言うと、立ち上がる。


「頼んでいた剣はあるか、レイラ」

「はい」


 クロムが剣を手に取り、歩きだす。


「ちょ、ちょっとお待ちください‼ クロム様‼」

「ん? なんだ」

「そのお体でどこで行かれるのですか!? もしも起きていらっしゃることがバレたら……‼」


 クロムは平然とした顔で言う。


「バレることはない。街中で顔を見られても、幽霊だとでも言っておくといい。私は()()()()()のだから。なぁ召使いたちよ」


「「「────ッ!!」」」


 その通りである。

 クロムはまだ、起き上がっていない。

 

 落馬したまま、気を失っているのだ。

 そうなるように、なってしまった。

 

「ふふっ、冗談だ。私も細心の注意を払う故、バレることはない」


 クロムが背を向けて歩きだす。


「レイラ、準備はいいか?」

「はい、クロム様」


 *


「ま、まだお前は眠っているはずじゃ……! クロム!」

「事情がありましてね。起きていることはまだ秘密にしているのです」


 クロムが近くにいた臣下へ釘を刺す。


「私がここにいることを話すこと一切を禁ずる。もし話せば、グローブ兄上が破滅すると心得よ」


 緊張が走り、鋭く言われて臣下が背筋を伸ばした。


「なんのつもりだ……!」


 満面の笑みで、クロムが言う。


「取引をしに参りました、兄上」

「と、取引だと……? お前のような軟弱者で力のない十四王子がか……!」

「ええ、私は権力もなければ後ろ盾もない」


 素直にグローブの言い分を肯定した。


「だが、この場において万有の森を手に入れる方法を知っている」

「なっ────ッ!!」

「どうですか、兄上。興味が湧きませんか」


 グローブがこぶしを握り締める。


 信じる信じないにしろ、今この危機的状況をグローブは脱したいと思っていた。


 生き残るために自分の王位継承権を守るか。自分より下の王子に借りを作るか。


 どちらのプライドを優先するか。その答えは簡単だった。


「……条件は」

「そうですね」


 クロムが物色するように歩き回る。その足腰は、もはや病人を想起させない姿であった。


「では、兄上の王族宝蔵キング・トレジャーを全て下さい」


 沈黙が走る。それは、呆れてではない。


 全員の顔が、呆れではないことを証明している。


「「「はっ……はぁぁぁっ⁉」」」


 クロムがキョトンとする。


「不可能と言われた万有の森を攻略するのです。それくらいは当然でしょう」


「そ、そんなこと受け入れられるわけがない! あれは我が命に等しい宝だ!」

「それなら話は終わりです。失礼します」

「なっ!」


 簡単に踵を返すクロムへグローブが引き留めた。


「まっ、待て! 良いのか……お前が起きたことを父上に報告しても良いのだぞ。理由は知らんが、バレたくないのだろう」

「……」


 足を止めたクロムは静かに、視線をグローブへ向けた。


「兄上。あなたは勘違いをしていらっしゃる。私はそれがバレたところで、何もないのですよ」

「え……?」

「お節介な話ですが、私をここで見逃せば兄上は王位継承権と父上の信頼を失う。それは、破滅を意味する」


 破滅、という言葉でグローブが数歩下がる。


「ですが、私が万有の森を解決することができれば、それはすべて兄上の物になる」

「は……は?」


 理解が全く追いついていないグローブへ、優しくクロムが説明した。

 それは本来、威厳ある兄であるグローブと弟のクロム。その二人の立場が逆転しているような錯覚さえ起こさせた。


「私は眠っているのです。眠っている人間が、どうやって万有の森を解決するというのですか?」

「……は! そういうことか……!」

「ええ、そうです」


 万有の森を攻略すれば、これはグローブの功績である、と疑いようのない事実となる。

 もしもクロムが居た、などという妄言があったとて、クロムは眠っているのだから、そんなものは嘘だと吐き捨てられる。


 協力者の証拠を、完全に消し去ることができるのだ。


「ま、まさかお前……そこまで計算して……!!」

「さぁ、どうでしょう」


 笑顔で両手を叩く。


「グローブ兄上、あなたの選択肢は二つだ」


 そうして、スッと笑顔が消えた。


 左手を出す。


「このまま、万有の森を攻略できず、王都に帰り王位継承権と父上を失うか」


 それでも、王族宝蔵があれば暮らしには永遠に困らない。追放や何かあった時のための、王族宝蔵である。


 右手を出す。


「それとも、王族宝蔵を手放して万有の森を攻略するか」


 グローブはここで確信する。クロム・クローバーはすべて計算をしている。


 これまで嘲笑し、侮っていた落ちこぼれ王子、弟クロム・クローバーはその才能を隠していたのだと。


「くっ……!」


 命ともいえる財宝を捨てて、この功を手に入れるか。

 それほどの価値が、今回の作戦にはあるのか。


 王位継承権を……父親の信頼を……。


 命と、比べるのか……。


「どちらの手を取りますか、第十王位継承権グローブ・クローバー……兄上」


震えながら、グローブは手を伸ばした。



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