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1. 目覚める王子


 大賢者、アスター・マルフィグルス。


 それはめらめらと燃える炎の中にいる、私の生が終わる瞬間であった。


 突如として王都に現れた、壊滅的な力を持つ魔神と戦った。

 そうして負けを悟った魔神の自爆から、私は人々を守り抜いたのだ。


 私から後ろの人間は誰一人だって死なせなかった。守り抜いた。

 だが、私の命は尽きようとしている。

 

 あの自爆は致命的だった……。

 

 薄っすらとした視界の中で、顔をあげた。

 

 だが守れたのなら良い。

 守りきった人々を……見知らぬ家族たちを見る。

 

 死ぬと分かっていても、彼らを守れるのなら私は、この命をかけて同じことをしただろう。


 一つだけ、神に願うことがある。

 それはできなかったことだ。


 死んだことに対してではない。

 

 ただ私にも、家族が欲しかった。

 そんな……まぁ、どこにでもある、小さな事だ。

 

 *


 ゆっくりを目が覚めると、私は自分の体に驚く。

 遠征途中の魔物討伐で、馬から落ちた私は……いや、記憶を取り戻す前の私は昏睡状態にあったらしい。

 気がつくと、前世の大賢者アスター・マルフィグルスの記憶が鮮明に蘇っていた。


 王位継承第十四位にして、落ちこぼれ王子クロム・クローバーとして。


 王子に転生したのは神のイタズラか、ただの不運か。


 ……前世の記憶が強く出ているな。そのせいでクロムの記憶はほとんどなくなってしまった。

 頭を打ったせいもありそうだな。

 

 薄汚れた自分の衣装を見つめる。

 部屋の掃除もいい加減で、装飾品には一切のこだわりが見られない。


 どうやら、非常に粗末な扱いを受けていたようだ。


 私が意識を失った事故が偶然であったにせよ、意図的であったにせよ、これが幸運だったと言えるだろう。


 この体に転生し、記憶を取り戻したのだから。

 

 やせ細った肢体に、へこんだ胸。喉仏が見え、引っ張れるほどの皮もない。

 

 固形物を食べることもままならない。


 血の循環も非常に悪く、体を動かすのにも時間がかかる。少し歩いただけで咳が出てしまうほどだ。

 

 これでは野ウサギにすらやられてしまいそうだ。


 私でなければ……の話だがな。


 体を鍛えてから活動を始めるのも遅くはない。

 私が私として生きるために、強くなる必要がある。

 

 大賢者としての知識を存分に活かさせてもらおう。


 新しい人生を。

 王子クロム・クローバーとして。

 

 まずは体作りからだ。



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