084.お兄ちゃん、褐色王子の実家を訪れる
「ちょ、アミール様……!!」
出会い頭にいきなり抱き着いてきたアミール。
今日は、彼も民族衣装に身を包んでおり、胸の辺りが大きく露出している。
っていうか、上着を脱げば、ほぼ裸だ。
褐色の肌は、レオンハルトほどとは言わないが男性的な逞しさがあり、僕としてはちょいと居心地が悪い。
なんとか身を捻って抜け出すと、僕は、はぁと嘆息した。
「いきなり抱き着いてくるのは、さすがにどうなのでしょうか……」
「悪い悪い。あまりに嬉しかったもんでな」
口ではそう言いつつも、悪びれもせずに頭を掻くアミール。
そんなアミールと僕の間に、突然ミアが立ち塞がった。
その瞳には、アミールに対するあからさまな警戒心がにじみ出ている。
「な、何なんですの!? あなたは……!!」
「えーと……なんだ、このちんちくりん?」
「私の妹のミアですわ」
「妹?」
アミールは、物色するように不躾な視線をミアへと送る。
「似てないな」
「血は繋がっていません」
「あー、なるほどね」
その言葉だけで、彼女を養子と理解したらしいアミールは、未だ警戒を解かないミアの頭をポンポンと叩いた。
「なっ!?」
「悪かったな、妹ちゃん。だが、安心してくれ。あんたの姉ちゃんと俺は親しい間柄だから」
「なんというか、その言い方はちょっと語弊があるような……」
確かに、お茶会に呼ぶくらいには親しい仲ではあるけど……。
「でも、どうしてアミール様がここに?」
「いや、どうしてって。この辺りは俺の実家みたいなもんだからな」
「へっ?」
実家って。
王子であるアミールの実家って、サフラン王国の宮殿とかじゃないのか。
「あー、多分碧の国の感覚じゃわからんだろうけど、俺の国には、それこそアホほど"王子"なんて存在がいるんだよ」
アミール曰く、サフラン王国は一夫多妻の国であり、王にも多くの妾がいる。
そして、生まれた男児は例外なく王子と呼ばれる。
もちろんその全員が王宮で暮らすというわけではなく、ほとんど平民と変わらないような暮らしをしている王子なんかも多いようだ。
「俺はその中じゃ、かなり王位継承に近いとこにはいるけどな。とはいえ、王宮に住むのも窮屈だし、ガキの時から移民街に住むおじきんところに世話になってる」
なるほど、そんな経緯があったのか。
アミールがレオンハルトやエリアスに比べると、どこか庶民的な雰囲気があったのは、お国柄だけではなかったわけだ。
「夏休みでこっちに帰ってきたはいいが、帰ってきたら帰ってきたで、おじきに扱き使われてなぁ。サボって、美人でもひっかけに行こうかと思ったんだが、まさか、こんな大物が釣れるとは」
「人を魚みたいに言わないで下さいまし」
「あながち間違っちゃいないだろ? お前の歌声には、人魚もびっくりだろうしな」
そんな世辞ともなんともつかない台詞を吐きつつ、彼はにやりと笑った。
「まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。是非、うちの劇場に寄ってってくれよ。良い席用意するぜ」
そんなわけで、アミールの実家だという劇場へと足を踏み入れた僕達。
貴賓席になっているらしい2階へと案内された僕らの眼下には、かなり大掛かりなステージが存在していた。
「凄いですわね。あれは、舞台装置でしょうか?」
「うちの劇場は特別製でね。碧の国でも有名な演出家の先生に監修してもらって、舞台装置も相当凝ってるのさ」
「へぇ……」
と、そんな会話をしていると、幕が上がり、舞台がスタートした。
どうやら、砂漠の王国を取り巻く、王族達の恋愛模様を描いた物語らしい。
演劇だけではなく、ミュージカルテイストで、時には歌い、時には踊る。
空中に浮かんだり、魔法による光の演出なんかもあり、前世の高名な劇団にも引けを取らないほどの大迫力だ。
1時間ほどの公演だったが、最後までほとんど言葉を発することなく、夢中で見てしまった。
「面白かったですわぁ。役者さん達も綺麗な方ばかりでしたし」
「ああ、主演の乳のでかい女優は、俺の4番目の姉ちゃんだ。若作りしてるが、もうすぐ三十路」
「そ、そうなんですの……?」
「ついでに、恋敵役してたきつめの容姿の女優は8番目の姉ちゃん。その侍女役してたのが、3番目の妹な」
どんだけ親類多いんだよ。さすが一夫多妻の国。
「けれど、少し憧れますわぁ。あんな風にステージで歌ったり、踊ったり」
夢想するように、瞳を閉じながらそう言うのは、意外にもルイーザだった。
年頃の乙女としては、劇の内容もさることながら、あんな風にステージで大衆の目を集めるというのも、ちょっとした憧れなんだろうな。
「よしっ、せっかくだ。今日の公演はこれで終わりだし、特別に舞台に上がらせてやるよ」
「えっ、いいんですの!?」
「ああ、その代わり、郷に入っては郷に従ってもらうぜ」
僕らの方を見ながら、アミールはにやりと何か企んでいるような笑みを浮かべるのだった。
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