258.お兄ちゃん、森に入る
小休止を挟んで、いよいよ森の入口へとたどり着いた僕達。
鳥居のようなものが築かれたその前で、僕らは立ち止まっていた。
「この森の中に白の泉がある」
「いよいよですわね」
「ああ。だが、この中に入れるのは、聖女候補の2人。そして、試験官である自分だけだ」
「えっ?」
いや、待って、なにそれ聞いてない。
「お、お待ちください! コリック先生。護衛をつけても良いという話では……」
「ここまではな。だが、この森は教会の管理する神聖な森だ。許可のある聖職者しかこの場所に立ち入ることはできない」
「そんな……」
ということはつまり、せっかくついてきてくれたレオンハルトやアニエスともここで別れなければならないということ。
ただの試験であれば、白の泉で聖水を汲むだけだから問題はないだろう。
だが、コリック先生に怪しげな点がある以上、彼らと離れることには不安しかない。
エリアスになんとか助け舟を出してもらおうと振り返ろうとした僕だが、その前で慣れ親しんだ白い外套がふわりと揺れた。
「ルカード様?」
「私も教会関係者です。そして、今日のために、本部からは同行の許可をいただいております」
さ、さすが、ルカード様!!
他のメンバーはともかく、聖職者であるルカード様は、僕らの試験に最後まで同行する権利がある。
「手回しが良いな」
「最後まで試験を見届けると、約束したものですから」
そう言いつつ、いつもの柔らかな笑顔を僕へと向けてくれるルカード様。
その安心感たるや……。
時計を確認しつつ、森の方へと向き直るコリック先生。
逆に僕は、みんなの方へと一度身体を向けた。
「みなさん。申し訳ありませんが、少し待っていて下さいませ」
「セレーネ。俺も行くぞ」
「いいえ、レオンハルト様。お気持ちは嬉しいのですが」
これが試験の一環である以上、教会が設定したルールを破ってしまうわけにはいかない。
ルカード様もみんなの方に顔を向けると、彼らを安心させるように微笑んだ。
「白の泉は森のそう深くないところにあると聞き及んでいます。あまり長くはかからないかと」
「ルカード様もそうおっしゃっていますし、皆さんも、安心して下さいませ」
「セレーネ様」
と、エリアスがさりげなく僕の手に何かを握らせた。
「何かあった時は、これを地面に」
「わかりましたわ」
ほんの手に平に包めるほどの小袋を受け取った僕は、コクリと頷く。
「時間が無い。行くぞ」
「はい、お待たせして申し訳ありません」
そそくさと森の中へと踏み出すコリック先生。
僕とルーナ、そして、ルカード様は、揃ってその背を追うように、森の暗がりへと足を踏み入れたのだった。
「うわぁ、森の中って、ひんやりしてるんですね」
ルーナが自分の肩を抱くようにスリスリと手を上下させている。
日の当たりっぱなしだった草原と違い、鬱蒼とした森の中の空気は少し冷たい。
同時に、静けさの漂うこの空間には、どこか神聖な空気感が満ち満ちているようだった。
前世でも、早朝に神社などを訪れた時に、どこか清廉な雰囲気を感じることがあったが、それよりももっと濃い神気のようなものが感じられる。
そして、それは、森の奥に進むほどに強くなっていた。
「凄いですわ。白の魔力がこんなに満ちているなんて……」
前世にこんな場所があったら、きっとパワースポットなんて呼ばれて持て囃されていたに違いない。
おそらく、聖女様の放つ白の魔力が大地に浸透し、その余剰分が集まってくるのがこの場所なのだろう。
風水で言うところの龍穴のような役割がここにはあるのかもしれない。
「あれ、なんだか少し、もやもやっと……」
「ええ……」
森の中の上、テーブルマウンテンの上にあるこの場所は、標高が高い。
濃い霧が徐々に僕らの周囲を包み込みつつあった。
「え、え、これ大丈夫なんですか!?」
ルーナの戸惑いの声が森の中に響く。
それも当然で、まるで僕らが進むのを拒むかのように、霧はさらにその濃さを増している。
「ルーナちゃん、落ち着いて。手を繋いでおきましょう!」
「は、はい!!」
ガシリと手を繋ぐ僕とルーナ。そして、反対の手をルカード様とも繋ぐ。
それとほぼ同時に、二人の姿が僕の前から掻き消えた。
いや、違う。霧で近距離にいるはずのルーナの姿さえ見えなくなってしまったのだ。
なんて濃い霧だ。
こんな濃さの霧が、こんなタイミングで自然発生するものなのだろうか。
疑問に思うと同時に、今度は突風が僕らを襲った。
あまりの勢いに、ルーナと繋いでいた手がほどける。
「ルーナちゃん!!」
名前を呼ぶも、ルーナの反応はない。
だが、周りを探そうにも、風と霧のせいで、とても捜索などできはしない。
どうすることもできず、とにかくもう一方の手だけは離すまいと、必死にその場で風に抗っていると、やがて、嘘のようにその突風が止んだ。
同時に、霧が徐々に晴れて来る。
「ふぅ……。大丈夫でしたか? ルカードさ──」
唯一繋いでいた左手。
その手の先に視線を向けた僕は思わず固まっていた。
「コ、コリック先生……」
ルカード様と繋いでいたはずの左手。
だが、その持ち主は、あろうことか二人きりになってはいけないと言われていた、無愛想な試験官だった。
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