244.お兄ちゃん、砂漠の王子に告白される
目の前に跪き、花束を僕へと突き出すアミール。
うわぁ、ピンク色でなんだか可愛らしい花だなぁ……じゃなくて。
え、え、何これ……。
あまりにも急なこと過ぎて、頭が全然ついてこない。
今、僕、告白されてるの……?
っていうか、あの音楽とダンスは何だったの。
あれか、俗に言う、フラッシュモブってやつか。
いや、それにしたって、いきなりが過ぎる。
跪くアミールは頭をもたげている。
え、これどうしたらいいの。
花束受け取っちゃっていいの。
チラリとアミール劇団の面々へと視線を向ける。
さっきまで踊り狂っていた彼らは、なんだか期待を込めた瞳で、こちらを注視している。
いや、この空気感よ。
もう、これ、受け取らないと収集つかないじゃん。
「あ、ありがとう……ございます……」
とりあえず、空いてる方の腕でアミールの花束を受け取ると、劇団の面々がまるで猛虎軍が優勝したかのようにハイタッチし出した。
え、え、これ、ちょっとまずくね。
「ちょ、ちょっと、アミール様……」
戸惑いの声を上げる僕。
ようやく頭を上げたアミールの顔には、ニヤリとした笑顔が浮かんでいたのだった。
「どうだった。なかなか面白い演出だったろ」
謎のフラッシュモブが終わって、近くのベンチに腰掛けた僕とアミール。
いたずらっぽい表情でそう言う彼の姿を見て、僕は嘆息していた。
「はぁ……。全くいきなりの事で、本当に何が起こったのかと思いましたわ」
「いきなりだからいいんだろ」
「というか、劇団員をいいように使いすぎでは……」
「いいんだよ。あいつらも喜んでやってんだから」
確かに、なんだかみんな妙に気合入ってたけどさ。
「んで、そいつを受け取ってくれたってことは、俺と付き合ってくれるってことでいいんだよな?」
「え、いや、それは……」
「お前が受け取ったそれはな、"砂漠の薔薇"っていう俺の国では野郎が意中の女に告白する時に渡す花だ。わざわざ取り寄せたんだぜ」
「そ、そうなんですのね。……っていうか、本気ですの?」
「んだよ。今さらだな」
彼は、いかにも飄々とした調子で言った。
「俺はずっとお前が好きだ。"女としても"な」
「あっ……」
それは、いつかの演劇指導の時に、彼が言っていた言葉だった。
僕の事を歌姫としてだけではなく、女としても好きだ、と。
「あれは、即興劇じゃ……」
「そう思えただろ? それだけ、俺の演技が抜群だってことだな」
悪びれもせず、そう言う彼は、ふと真剣な表情を見せる。
「今度は演技じゃなく、きちんと言うぜ。俺はお前を"女として"好きだ。だから、俺と付き合え。"セレーネ"」
もしかしたら、彼の口から自分の名前を聞くのは、初めてのことだったかもしれない。
不覚にも一瞬胸がトゥンクとしてしまったが、ダメダメ!! 僕には、もう二人も……。
「んだよ。もっと喜べよ。この俺が付き合ってやる、って言ってるんだぜ」
「え、いや、でも……」
「はぁ、いつもお前はめんどくせぇな」
「ちょ、アミール様……!?」
グイっと僕の身体を引き寄せるアミール。
褐色の肌が僕のすぐ目の前にある。
レオンハルトほど鍛えられているわけではないが、しっかりとした男っぽい鎖骨が目前にあって、僕は思わず瞳を閉じた。
だが、アミールは僕がそうすることがまるでわかっていたかのように、耳もとで呟く。
「好きだぜ。セレーネ」
自分の作った劇団で演技指導までしているアミールの本気の囁き声。
目を閉じた事で、逆に鋭敏になっていた聴覚が否応なしにその声を脳へと届ける。
心を強く持て、と自分を鼓舞するものの、甘く蕩けるようなこの感覚には抗えない。
ふにゃふにゃと力の抜けゆく身体をアミールが支えた。
「ふっ、すっかり俺の虜じゃねぇの」
「ち、ちがっ──」
弁解しようとする僕の口をアミールが人差し指を立てて塞ぐ。
「身を任せてみろよ。きっと悪くないと思うぜ」
ああ、ダメだ。
このオラオラな感じ……なんか抵抗できない。
そうだよ。僕は元々陰キャだったから、強く来られると弱いんだよ。
だから、そんな強い視線で見つめないで……お願いだから……。
蛇ににらまれた蛙の如く、ろくに身動ぎすることすらできずにいると、アミールは首をわずかに傾げた。
そして、そのままゆっくりとその顔が近づいて……。
「って、ここで調子に乗ると、いつも横やりが入るんだよ」
明らかにキスをしようとしていたアミールは、動きを止めると、僕の身体すらも離して、やれやれと手を掲げた。
支えを失った身体が、わずかに前に突っ伏す。
「だから、今日はここまでだ」
「えっ……」
なんだか、お預けを食らったワンコのように目をしばたたかせてしまう僕。
い、いや、決して、アミールからのキスを期待していたというわけではなくてですね……。
「これ以上が欲しけりゃ、今度はお前の方から来な。そしたら、次はもっと夢心地にさせてやる」
それだけ言うと、アミールは今までの事が嘘だったかのように、左手を振りながら、僕の前から立ち去って行ったのだった。
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