241.お兄ちゃん、疑念を抱く
ルカード様からのまさかの告白。
それは、愛の告白というには、少し違ったかもしれない。
僕とずっと在りたいという彼の願望。
それは、聖女としての僕に、いつまでも付き従ってくれるということだった。
聖女はその役割を終えるまで、伴侶を持つことが許されない。
恋人でもなく、夫婦でもない。
それでも、彼はずっと僕と一緒にいたいと、そう言ってくれているということだ。
自分の願望に正直に、と彼は言ったが、僕からすれば、それは本当に慎ましやかなことにも思えた。
そんなところまで、ルカード様はルカード様なんだな、と少しだけ僕はおかしくなった。
でも、とふと思う。
仮に僕が聖女になったとして、その役割を終えた頃には、僕はもうおばあさんと言っても良い年齢になっているだろう。
そして傍らには、若い頃から変わることのない銀の髪を揺らし、皺の増えた顔を穏やかに綻ばせるルカード様の姿。
普通の女になった僕と、二人で慎ましやかな生活を送る。
そんな穏やかで優しい未来を想像すると、なんだか悪くないような、そんな気さえ僕にはしていた。
「って、本当に僕は……」
ブンブンと妄想を振り払う。
いい加減、本当に頭が恋愛脳になってきている気がする。
だけど、それも仕方がない。
続けざまに、男の人からこんなにも求められたら、僕だって、こうなってしまうのは当然だろう。
誰に言い訳をするでもなく、頭の中で弁明を繰り返していると、またイメージが広がって来る。
聖女にならなければ、僕はレオンハルトと結婚して王妃となる。
聖女になれば、一生ルカード様が傍にいてくれる。
あれ、もしかして、僕って、どっちに転んでも……。
「セレーネ様」
「はうっ!!?」
突然呼びかけられて振り向く。
そこには、アニエスが立っていた。
「どうかなさいましたか?」
「な、なんでもありませんわ……!!」
なんとか普段の公爵令嬢然とした自分を取り繕いつつ、気持ちを落ち着けるために紅茶を口に含む。
うむ、やはりアニエスの淹れたお茶は格別だな。
カモミールの落ち着く香りを堪能しつつ、少しだけ落ち着いた僕は、ゆっくりとアニエスの方へと視線を向ける。
「それで、どうかなさいましたか?」
「はい、実はルーナ様が──」
「まぁ……!!」
突然、僕の寮までやってきたルーナ。
そして、彼女に大切そうに抱かれた鉢植え。
そこには、ほんのわずかではあるが、しっかりと健康的な芽が顔を覗かせていた。
「ルーナちゃん……!!」
「セレーネ様……!!」
鉢植えを持ったルーナを僕は包み込むように抱きしめる。
ギュッとすると、ルーナもされるがままに僕に体温を伝えてくれた。
「やりましたわね!!」
「はい!! セレーネ様!!」
どうやら、2日という期間を待つまでもなく、ルーナはついに芽出しを成功させた。
これで、試験の続行は確定というわけだ。
なんだか、拍子抜けしてしまうほどに上手くいってしまったな。
というか、もしかして僕とルカード様が交渉したのって、もしかして無駄だった?
いやいや、きっとコリック先生の事だから、最悪のパターンだって想定できたわけで……。
うん、意味はあった。そう思っておこう。
「とりあえずご報告にと思って!! 明後日のチェックまでに、きっともっと育ててみせます!!」
「ええ、楽しみにしていますわよ。私のライバルさん」
そう言うと、ルーナは嬉々とした表情で、踵を返していった。
その後姿を眺めつつ、僕も、ふぅと一息つく。
さて、これでルーナも同じ土俵に立った。
ここからは、純粋に如何に美しく苗を育てられるかが、キーになる。
…………って。
「僕、最近世話してなくね……?」
なんてことだろうか。
ルーナのことやその他諸々にかまけるあまり、ここ2日ほど、すっかり自分の苗が放置気味になっていた。
え、さすがに枯れたりはしてないよな!?
焦る気持ちで部屋に戻る。
そして、苗を確認すると……。
机の上に置いてあった鉢植え。
そこには青々とした葉を茂らせるシーダの苗がしっかりと鎮座していた。
良かった。全然問題なさそうだ。
いや、むしろ……。
「育ち過ぎじゃね……?」
明らかに2日前よりも大きくなり、葉っぱの数も増えている。
その上、びっくりするくらい色艶も良い。
あれ、ろくに水やりすらしていなかったはずなのに、なんでこんなに……?
異様な成長を見せる僕の苗。
その立派に育った葉を眺めながら、僕の胸には、わずかばかりの疑念が広がっていたのだった。
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