236.お兄ちゃん、紅の王子に告白される
「レオン……ハルト様……」
目の前に立つ暁の騎士。
仮面を外したそこにあったのは、僕も良く知る紅の王子の顔だった。
レオンハルトが暁の騎士……。
確かにレオンハルトは、これまで聖女試験の際には一切顔を見せなかった。
過去の記憶をいくら呼び起こしても、暁の騎士がレオンハルトであるということの矛盾を見つけることができない。
というか、そもそもとして、こうやってすでにその姿を晒してくれているのだ。
いくら否定材料を見つけようとしても、その事実の前には何の意味もない。
でも、彼がレオンハルトだったとするならば……。
音でもしそうなくらいはっきりと頬が熱を帯びた。
暁の騎士の目的は、僕とレオンハルトを結婚させるために、ルーナを聖女にすること。
そして、暁に騎士の正体はレオンハルトだった。
つまりそれは、レオンハルト自身が、僕との結婚を望んでいるということで……。
「セレーネ」
「は、はい……」
「今まで隠していて、すまなかった」
「は、はい……」
「聞いて欲しいことがある」
ダメだ。
この流れはダメだ。
もう僕には予想ができてしまっている。
それは、僕の元男としての尊厳を踏みにじるものだ。
でも、なんだ。この気持ちは……。
「セレーネ・ファンネル。俺は、心からお前の事を愛している」
"愛してる"。
その言葉を聞いた瞬間、膝から崩れ落ちそうになった。
もし、ベンチに腰掛けていなかったら、本当にそうなっていても不思議じゃない。
それくらい僕は彼の言葉に、動揺しまくっていた。
レオンハルトが、僕の事を愛している。
正直、まったく考えなかったわけじゃない。
いや、心の奥底では、それを期待してさえいたのかもしれない。
いつも、彼は僕に優しかった。
そして、いつだって僕を護ってくれた。
邪教徒に襲われそうになった時、助けてくれた彼の姿に、これまで感じたことがないような胸の高鳴りを感じたことは事実だ。
それでも、それはただ命の危険から救ってくれた恩人への感謝の気持ちだと自分に言い聞かせていた。
だけど……。
「本来なら、剣戦で優勝した時に伝えるつもりだったことだ。ここまで先延ばしにしてしまったのは、己の弱さゆえ。だが、最後の聖女試験の際に来て、ようやく伝える決心が着いた」
真っすぐな彼の視線が、僕の胸を射抜く。
頭がおかしくなってしまうくらいに身体中が熱を帯びている。
心臓が刻むリズムすら、死んでしまうんじゃないかというほどのスピードだ。
「え、え、いつから……」
「いつからも何もない。俺はずっと、お前の事が好きだった。明確にお前に恋心を抱いたのは、もうずっと昔……魔力を持たないと知った俺を、お前が励ましてくれた時だ」
「あっ……」
それは、僕は前世の記憶を取り戻して、はじめてレオンハルトに会った時のことだ。
まさか、そんな昔から彼が僕の事を好きだったなんて……。
「お前は、俺に道を示してくれた。だからこそ、剣戦で優勝できるほどに、俺は自分の力を信じ抜くことができた。お前には感謝してもしたりない」
「そんな。私は、別に……」
「俺はこれからもお前が示してくれた"覇道"を貫く。そして、その横には、必ずお前にいて欲しい。そう、思っている」
王としてのふるまいの中に、年相応の男の子としての恥ずかしさもわずかばかり滲むレオンハルト。
だが、そんな青さすら、僕にとってはどうしようもないほどに、愛おしく見えた。
愛おしい……愛おしい……僕も、レオンハルトのことが……。
「だから、俺はルーナを利用してしまった。己の欲のために、彼女の善意を踏みにじった。王としてあるまじき行いだ。お前には失望させてしまったかもしれない。だが、それでも……」
ゆっくりと僕へと近づいたレオンハルトの手が、僕の牡丹色の髪に触れた。
「お前との未来だけは、譲ることができなかった」
未来を見通すかのように、青く澄んだ瞳が僕を真正面か見据えている。
どこかふわふわとした思考の中、僕の脳裏にも彼と共にある未来がありありと想像できた。
王位に就いたレオンハルトと寄り添うように立つ王妃となった僕。
その傍らにはアニエスの姿もある。
父王達に見守られながら、幸せな時を過ごす僕とレオンハルト。
それは、あまりにも甘美な夢に思えた。
僕は、こんなにもレオンハルトのことを……。
「セレーネ」
低く、静かに、だが、はっきりと、彼はこう言った。
「お前の人生を、俺にくれ。そうすれば、俺は、生涯お前だけの騎士王であり続けることを誓おう」
誓いを立てるように胸に手をかざしたレオンハルト。
その真摯な姿は、僕にとって、あまりにも刺激が強かった。
様々な感情が心の隅々までも駆け回っていくようだ。
ただ一つ言えるのは、彼の告白は、僕にとって"嬉しい"ことだった。
いくら誤魔化そうとしても、もう誤魔化しきれはしない。
僕もレオンハルトの事を、心から──
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