198.お兄ちゃん、ご褒美をあげる
「まさか、こんな伏兵がいたとは……」
エリアスの傍らで、頭を撫でられているシャムシール。
利口な彼は、エリアスとの連携プレーで、見事に僕に雪玉をぶつけて見せた。
いやはや、これは一本取られたわ。
「というわけで、ご褒美をいただく権利は僕のもの、というわけでいいですね」
優しくシャムシールを撫でながら、ニッコリと微笑むエリアス。
「いや、待て!! そりゃ、ずるだろ!!」
そんな彼にツッコミを入れたのはアミールだ。
「シャムシールを使うなんて、そりゃルール違反だ!」
「はて、そんなルールがあったでしょうか?」
わざとらしく首を捻るエリアス。
「そもそも僕とシャムシールは一心同体ですので」
「詭弁だろ、そりゃ!! お嬢様はそれでいいのか?」
うーん。まあ、詭弁とは言うが、本当に一心同体と言っても良いくらい、この1人と1匹は一緒にいるからなぁ。
それに、他の魔法バンバン使ってる連中と比べれば、愛猫と一緒に戦うなんて、かわいいもんだし。
というか、なんか僕にお願い事する感じで話が進んでるけど、ルーナにお願いしたっていいんだからね。そういうルールだからね。
「さて、では、お願い事ですが、そうですね。今度の聖燭祭で僕と──」
と、エリアスが何かを僕に伝えようとしたその時だった。
「あ、シャムシール?」
エリアスの傍らからおもむろに立ち上がったシャムシールが、テクテクと僕の方へと歩いてきた。
そして、そのまま僕に抱き着くようにして飛び掛かる。
再び押し倒されそうになるが、僕はなんとか踏みとどまった。
「ど、どうしましたの……?」
突然の行動に驚いていると、シャムシールは僕の顔を見上げ、目を細めながら、のどをゴロゴロと鳴らした。
あ、もしかして……。
「よしよし」
そのまま左手で抱き上げつつ頭を撫でてあげると、彼は満足そうに「にゃ~」と猫なで声を上げた。
いや、なんちゅう幸せそうな顔だよ……。かわよ。
「おっと、こりゃ、シャムシールにご褒美を先取りされちまったみたいだな!」
アミールがにんまりと笑顔を浮かべながら言う。
エリアスはというと、一瞬放心していたようにも見えたが、すぐに穏やかな表情で息を吐いた。
「仕方ありませんね。僕とシャムシールは一心同体。彼の幸福は、僕の幸福でもあります。セレーネ様、存分に撫でてやって下さい」
言われずとも!
僕はシャムシールのモフモフの冬毛を堪能して最高だし、シャムシールは僕に撫でられて気持ちよさそう。
まさにWin-Winの関係というやつだな。
そんなこんなで、ひとしきり雪遊びを堪能した僕達は、心地よい疲労感と共に午前の時間を終えたのだった。
そして──
「セレーネ様、今日はお休みで構わなかったのですよ」
ルカード様と共に教会へとやってきた僕は、たった1人"舞い"の練習を開始していた。
「いえ、せっかく時間があるのですし、少しでも練習をしておきたいと思いまして」
午後になると道の除雪も進んで、ここまで来るのもそれほど苦でも無かったしね。
あれだけ雪遊びをした後だったので多少疲れはあるが、それ以上に、この機会に少しでもルーナに追いついておきたいという思いが強かった。
なにせルーナは"舞い"に関しても習熟度が段違いだ。課金でもしてるのかというほどに成長が早い。
同じ練習量では、ヒロイン補正を持つルーナと並び立つには至らない。
お休みになった今日こそ、その差を詰めるにはちょうど良い機会だった。
魔導人形のお手本を見ながら、ひたすらに身体を動かす。
苦手な部分を中心に練習を進めて行くうちに、かなりスムーズにはなってきたように思う。
いつしか、周りの状況すらも感じられないほどに集中していた僕は、気づいていなかった。
自分が、いつの間にか相当疲労していたということに。
「あっ……!?」
ようやく完璧になってきたと思ってきたターン。
しかし、踏ん張った瞬間にガクリと膝が崩れた。
そのまま外側に引っ張られるようにして、僕は床へと倒れ込む。
あ、やば……。
多少の怪我は覚悟しつつ、僕はどこか他人事にように痛みが訪れるのを待っていた。
だが、一向にそれはやってこない。
それどころか、何かガッシリとしたものが、僕の倒れ込みそうになる身体を支えてくれていた。
「ルカード様……」
自然と見上げる形になった視線の先。
そこには、普段通り柔らかく微笑むルカード様が顔があった。
「大丈夫ですか? セレーネ様」
「はい……。ありがとうございます」
ゆっくりと柔らかい所作で、僕を立たせてくれたルカード様に、どこか反射的に会釈をする僕。
いやしかし、いきなりこけたというのに、よく間に合ったな。
"舞い"に集中するあまり、すっかり周囲が見えなくなってしまっていたが、ルカード様はずっと僕に付き合ってくれてたんだよな。
それも、僕が床に倒れ込むよりも早く手を差し伸べてくれるくらい、ジッと僕の姿を見つめて……。
「ルカード様って、本当に……」
「ん、何ですか?」
「いえ……」
なんていうか……底抜けに"良い人"なんだよなぁ。
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