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172.お兄ちゃん、目を覚ます

 ガタゴトガタゴト。


 何の音だ? うるさいなぁ……。

 

 ガタゴトガタゴト。


 なんか身体も痛いし、寝苦しいんだけど……。


 ガタゴトガタゴト。


 もう、いい加減に──


「して下さいまし……って、痛っ」


 目を開いた僕は、反射的に身体を持ち上げようとして、身動ぎするように倒れ込んだ。

 身体が……まともに動かない……。

 視線を彷徨わせる。

 ここは……馬車の中?


「もう目を覚ましたのか」


 聞き覚えのある声に、なんとか顔を上げると、そこで僕を見下ろしていたのはシェール騎士爵だった。

 そうだ。僕、この人に……。


「シェール騎士爵……あなたは一体……?」

「聖女であれば、我々の存在を聞いたことくらいはあるだろう」


 言葉と共に、騎士爵の身体から再び黒い瘴気が漏れる。


「もしかして、あなたは……」

「そうだ。我々は"黒の王に選ばれし者"。お前らが言うところの邪教徒というやつだ」

「邪教徒……」


 その存在は、ずっと以前から聞かされていた。

 遥か昔に存在した黒の国アーテル。

 かつてかの国を支配していた黒の王を崇拝する者たちがいるのだと。

 そして、その者たちが、白の魔力を持つ聖女の命を狙っているということも。


「あ、ああ……」


 なんてことだ。

 緊張感が欠如していた。

 破滅エンドを回避することばかりに頭が行っていて、その他の要因で自分の命が危険に晒されるなんて考えてもいなかった。

 自分の置かれている状況のヤバさに思い至った瞬間、急に寒気を感じた。

 今までは、ずっとアニエスがいてくれた。

 だから、どんなことがあっても安心できた。

 でも、今、彼女はいない。

 それだけで、こんなにも自分が恐怖心を感じるなんて……。


「へへっ、震えてる姿も可愛いなぁ……」


 恐怖に身を震わせていると、シェール騎士爵の脇から、もう一人男が顔を出した。

 この顔は見たことがある。

 そうだ。確か、宿場町でカードゲームをした若い男。


「あなたも、邪教徒だったんですの……?」

「あー、それは正確じゃないな。僕は"邪教徒になった"のさ」

「えっ……」

「人生の不公平さに気づいちゃったんだよ。あの王子様とかずるいよね。何でも持ってるじゃん。それなのに僕には何もない」


 かつかつと近づいてきた男は、僕の前でしゃがみこんだ。

 どこかまともじゃない目つき。そして、騎士爵と同様に、その身体からは黒い瘴気を立ち昇らせている。


「だからさ。黒の王様が作ってくれる誰もが平等な新しい国っていうのに興味が湧いてね。こっちにつくことにしたんだ」

「下らんことを話さなくていい」


 シェール騎士爵は、鼻を鳴らすと、再び這いつくばったままの僕へと視線を向ける。


「俺達には、崇高な目的がある。そのためにはお前が必要だ。命までは取らんから安心しろ。もっとも……」


 アニエスの頭を踏みつけた時のような嗜虐的な視線を向けると、騎士爵はニヤリと笑った。


「命を取られた方が、まだマシと思えるような事になるやもしれんがな」


 そうして、気が狂ったように笑い出す2人。

 そんな2人の身体から、また、瘴気が漏れだした。

 宿場町でカードをしたあの若者は、少なくとも、あそこまでおかしな人ではなかった。

 シェール騎士爵も、アニエスが家にいた頃は、厳しくはあるが、まともな人物だったという。

 だとすれば、やはり、2人はあの黒い瘴気に操られている可能性が高い。

 それを祓うことができれば、あるいは……。

 震える身体をなんとか落ち着け、僕は口を開く。

 かつて、僕の白の魔力は、魔物化したもぐぴーを浄化してみせた。

 それならば、彼らもあるいは……。


「ラー♪」


 歌に乗せて、白の魔力を発現しようとしたその瞬間だった。


「うっ……!?」


 廊下で紅の魔力を発現しようとした時と同じ……いや、それ以上の虚脱感を感じ、僕は再び地面へと突っ伏した。

 なんとか意識を失うことだけは免れたが、先ほど以上に、身体がまともに動かない。


「白の魔力を使おうとしても無駄だ。その腕輪がお前の魔力を全て吸い取ってしまうからな」

「うで……わ……?」


 視線の先にあった腕輪。その中心に装飾された黒い宝石が、鈍く輝いた。

 この腕輪はメランからお礼に、と無理矢理つけられたものだ。

 つまり、彼も邪教徒の一味だったということ……?

 シェール騎士爵が"使者"と言っていたのは、メランのことだったのか。

 

「自ら使おうとしなくても、少しずつお前の魔力はこの腕輪に吸われていく。下手に大きな魔法を使おうとすれば、一気に魔力を奪われて死に至るやもしれん。そんな事はしてくれるなよ」

「あ……ああ……」


 もう言葉すら、まともに発することができない。

 絶望。

 本当に、僕はもう……。


「な、何だ……?」


 その時、若い男が訝し気な視線を馬車の後方へと向けた。

 ひらりとめくれ上がった幌。

 そこからわずかに見えたのは……。


「アニ……エス……」


 クレッセントに騎乗し、颯爽と駆けてくる私のメイド騎士の姿だった。

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