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122.お兄ちゃん、劇団を背負う

「お前……」

「エリアス・ウィスタリア……」


 思いがけない闖入者に、アミールとシュキが同時に声を漏らした。

 そんな二人に向け、エリアスはゆっくりと口を開く。


「先ほどから、お二人のやり取りは見ていました。部外者ではありますが、客観的な視点から一つ提案があるのですが」

「なんだよ。エリアス」


 問い掛けるアミールに対して、シュキは冷静だ。

 エリアスは碧の国の第一王子であり、成績の面でもトップクラス、学園でも一目置かれる存在だ。

 さすがに、彼に真っ向から物申すほど、シュキも豪胆ではないらしい。

 もっとも、立場で言えば、アミールも王子は王子なわけなのだが……。

 なんというか、彼は気品とかまったくないからなぁ。

 

「ひどく単純な話です。今後の講堂の優先使用権そのものを聖女試験の勝者が得られるという形にすれば良いのでは?」

「いや、だが……」


 エリアスの言葉に、ピクリと反応したのはシュキの方だった。

 彼女は、顔を上げると、強い決意の籠もった視線をこちらへと向ける。


「私は、それで構わないです」


 彼女の肯定の言葉に、周囲を取り巻く演劇部のメンバーたちも首を縦に振る。

 どうやら彼女達、相当自信があるらしい。


「さて、ということですが、アミールはどうですか?」


 どこか挑発的なエリアスの笑顔に、アミールはわずかに憎々しげな表情を浮かべつつ頷いた。


「わぁったよ。ここはお前の顔を立ててやる」

「ふふっ、あなたならそう言ってくれると思ってましたよ」


 そうして、エリアスの主導の元、試験までの間の取り決めが行われた。

 公平さを重視し、聖女試験が行われるまでの2カ月間は、それぞれが講堂を1日交替で使用するということで話が纏まり、僕はホッと胸を撫で下ろした。

 それにしても、エリアスの手腕は見事なものだ。

 昔は、他人と目を見て会話する事さえ苦手だったというのに、今では、ともすれば殴り合いにでもなってしまいそうな2人を見事に誘導してみせたのだから、その成長が伺える。

 碧の国の王族は、外交に積極的に赴くことで有名だが、エリアスも将来の国王として、不足ない力を身に付けつつあるのかもしれない。


「ふぅ、とりあえず今日は時間を食っちまったからな。明日はまず、俺達が講堂を使う。お前らは建物に近づくなよ」

「言われなくても、敵情視察なんてするつもりは毛頭ない。こちらはこちらで、自分たちの舞台を作るだけだから。さあ、みんな、帰るよ」


 アルビオン学園演劇部の面々が、講堂を出ようと踵を返す。


「え、えーと……」

「ルーナ、行くよ!! 協力すると決めた以上、あなたにも全力を尽くしてもらわなくちゃ」

「わ、わかった……!!」


 ちらちらと僕の方を見ていたルーナは、最後に軽く手を振ると、シュキの方へとついて行った。


「ちっ、妙な事になっちまったな……」


 シュキ達の背中が見えなくなったところで、アミールが独り言ちる。


「迷惑でしたか?」

「いや、落としどころとしては悪くねぇ。俺も熱くなっちまってたからな。正直助かった」


 相手がこの場を去ったことで、ようやく冷静になったらしいアミールは、それでも少しムスッとした表情で腕を組んだ。


「えーと、その、アミール様……」

「なんだ、お嬢様?」

「いえ、その、試験を手伝ってくれるのです……よね?」

「ああ。今朝試験の内容を知った時は驚いたぜ。まさか、舞台が試験になるなんてよ。しかも、審査には碧の国からあの有名な舞台演出家"レイラ・ゴルトシュタイン"を呼ぶらしいし、こりゃ乗っからないわけにはいかないと思ってな。それで、いてもたってもいられず、講堂の使用許可を取ったはいいが……まあ、後は知っての通りだ」

「そ、そうなんですのね……」


 審査については、今回は専門家を呼ぶという話は聞かされていたが、そんなに有名な人だったのか。

 

「何にせよ。お嬢様の方から来てくれて助かったぜ。ちょうど受け入れ態勢も整ったところだったし、絶好のタイミングだ。この試験、絶対にお嬢様を勝たせてやるさ」


 さっきまでの不機嫌さはどこへやら、ふふん、と得意げに笑うアミール。

 シュキの方も随分自信がある様子だったが、アミールもそれに負けないくらい自信があるようだ。


「わかりました。では、改めて、皆様に協力をお願いいたしますわ」


 ゲームでのセレーネの動きとは随分変わってしまうが、正直、お金を出してプロを雇うというのは、どうにもズルをしているようにも感じるし、ここは素直にアミールたちの言葉を受け入れる方が得策だろう。

 丁寧に貴族風の礼をすると、アミール劇団の皆も笑顔で頷いてくれた。

 しかし、アミール一人ならいざ知らず、この人たちの今後も僕は背負うことになってしまったわけだよな。

 破滅回避を抜きにしても、これは、負けるわけにはいかなくなってしまった。


「ところで、アミール様。演劇の脚本などはありますの?」

「ああ、学園に入学してからこっち、ずっとお嬢様とやる舞台の構想を練ってたからな。脚本はすでにできてる」


 おおっ!!

 試験までは2カ月しかない。

 そんな中で、脚本ができているというのは相当大きいぞ。


「どんなお話ですの?」

「知りたいか?」

「ええ、もちろんですわ」


 自分が主演を務めることになる舞台だ。

 お話の内容というのは、なによりも気になる。


「ちょうどよい機会だ。お前らもよく聞いておけ」


 劇団員たちにもそう前置きすると、アミールは舞台のシナリオを語り始めたのだった。

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