秘宝飛法
「ふああああああああああああっ!」
私は歓声をあげていた。
いやだって見てよここの宝物庫!カッコいい武器にカッコいい防具にメカメカしかったり魔法っぽかったりふわーってしてたりエフェクト走る道具とか!でっかいおもちゃ箱の中身ゴージャスにしてひっくり返したような感じなんだよ!
「喜色をあげてると思ったら、宝物庫にいたんだ、珍しいね」
「あっキル!これなにこれなに!?」
背後に転移してきたキルに、私はルービックキューブみたいで何もしてないのにガチャガチャ音鳴らしつつ、入り組んだ内部が組み変わるナニカを見せる。返事は「それは結界に干渉する魔道具だね」だった。凄い、多分ハッカーみたいに結界を書き換えれるんだろう。
あ、一応言っとくけど、別に宝物庫に行くことは禁止されてない。ただ、今までは入ってすぐ見える金銀財宝を見て興味が失せていたのだ。
でも今日は暇だったから、金のインゴットでタワーでも作ろうとして、奥に入ってファンタジーな武器防具道具を見つけた。可愛い系全然ないんだけどキルが選別してるのかな。
いや、私も可愛いよりカッコいいのほうは好きだけど。
「まぁ、見たいなら自由に見ていいし、使ってもいいし、持ち出しても構わないよ。はい、目録」
キルからそれなりに分厚い目録を受け取りつつ、どういうわけか不定期に色が変わる剣を鑑賞する。近くに金魚でも泳いでるんだろうか。
キルキルー。これここで試し撃ちとかしていいやつ?えっ保護してて全部壊れないの?じゃあ思いっきりここで試し撃ちできるなぐへへ。
えーと目録はっと…武器防具道具とかの分野、武器なら武器種で更に分けられ、でその後名前順、ってとこかな?ま行とか魔剣が凄い数あるし。聖剣全然ねーな。ダークサイドだからかなキル。
じゃあまず武器からランダムに…これ!えーっと…リン、酸、カルシウム…?何でこんなこの世界じゃ見つかってないような化学があるの?というかよく翻訳したね。
見た目は完璧に骨だけど…効果は何?対象を強烈に吹っ飛ばす?へー面白そう!惜しむらくはここに吹っ飛ばす対象がいないことだ。
あっいや私いるじゃーん!(混乱)きっとこれ上手くやったら自分で被弾させて速度乗せれる的な感じで空飛べるでしょ。(錯乱)
あそーれぽんっ☆
私は光になった。
「………やぁキル」
「変わった構ってアピールだね」
ははは違うんだよ。友達の肩を後ろからぽんってやって声かけるような感じでやったんだよ私は。
それがまさかこんなに効果があるとは…キルの宝物庫だけあってやっぱすごいわーぶっとんでるわーぶっとんだわー。
リン酸カルシウムによって吹っ飛ばされた私は、宝物庫の扉をぶち破り、無意識に助けを願ったのかキルがいた図書館に、それなりの本棚を壊し本を舞わす感じでめり込んだ。ちなみに体にダメージはない。こんな服でもキルが私を想い作り防御効果とかが付けてあるんだろう。っふ、愛されてるぜ。
キルは読んでいた本を机に置き、組んでいた脚を解きめり込んでいる私を引っこ抜くと、私を膝に乗せて顎を私の肩に置き、抱きつくように拘束してきた。キルの息づかいが耳を犯してくる。これがASMRか。
「で、僕の最愛なるレイは、いったいどんなおいたをしたのかな?」
私は落ちゅいて反論する。ここで大事なのは、決して自分が悪いと認めない事、受け入れない事、謝らない事。さもなくば休めないお仕置きが開始される。今こそTRPGで培った屁理屈を活かす時!
繰り返すぞ。大事なのは、あくまでも私は悪くないと主張することだ。僕は悪くない。だって、僕は悪くないんだからの精神でいけ。心が負けなければ勝てる!
「急にガチャって音がしたと思ったら、よくわかんないけど骨っぽいのが降ってきて当たって吹っ飛ばされちゃった。キルの道具管理が悪かったんじゃない?」
「まぁ魔法で見てたんだけどね」
「ごめんなさい」
私が悪かったです。待って。許して。助けて。やめて。
キルは無言で私を抱えたまま寝転んだ。
ん?寝転んだーーーっていつのまにか寝室になってるじゃん。
寝転んだキルはやっぱり無言で、私のお腹をはだけさせ、優しい手つきで撫でてくる。
私はされるがまま。ここで抵抗してはいけない。というか普通に気持ちいいので抵抗する気が起きない。
「レイ」
これは合図だ。
眼を瞑って横を向くと、唇に何か柔らかいものが触れる感触がする。
キルの息づかいを、唇を、温もりを感じる。
「ふふ、キスが上手くなってきたね」
「そりゃぁ毎日丁寧に教えて練習させてくれるからね」
「なんで武器の扱いミスっただけでベットインなのかこれがわからない」
気怠い上半身を起こしつつ私は呟いた。
ひょっとしてどの選択肢も結局はベットインなのでは?ボブは訝しんだ。
チラッと横を見ると、既にキルの姿はなく、赤い跡を所々に付けた素っ裸の私の姿があった。
鏡か。いつのまにか出現したんだろ。ほんとここの道具って意識あんのかってぐらい都合よく出現するよなぁ。付喪神ですか?
得意げな顔でY字バランスをし始めた鏡の中の私をガン無視しながら(私は体固いのでできない)、置いてあった服を手に取り(白青の縞スト、縞パン、白の猫耳パーカー)キルの元へとドアを開ける。
「おはよーキルー」
開けた先は拷問器具らしきものがいっぱい置いてある部屋だった。そして奥にはビリビリしそうな機械っぽいのを弄ってるキル。
「おやすみーキルー」
ばたん。
………………………。
すー…はー…すー…はー…。
かちゃ。
「…(チラッ)」
木馬。檻。ファラリスの牡牛。山羊。
ぱたん。
すーーーはーーー。
「…寝よ」
寝た。
「レイ、もう晩御飯だよ」
「…んー?んっ…んー」
嫁の声で目を覚ます。軽く寝なおすだけのつもりだったんだけど、どうやら夜まで寝入ってしまったらしい。
何でこんなに疲れてるんですかねぇ。不思議ですねぇ。
「キルぅおこしてー」
寝起きで体を起こす事すらおっくうなので、腕を広げて抱え起こしてもらおうとしてみた。キルはしょうがないにゃぁって感じの苦笑を浮かべつつ、舌を入れる濃厚なキスをしてきた。
…びっくりして起きた。起きたけどそうじゃないよキル…。気持ちよかったし私得でしかないからいいけど…むしろもっとやって欲し(ry
ベットから飛び降りて、んーっと眼を閉じて伸びをする。すると景色が変わって食堂にいる。毎回の事だからもう脳が混乱しなくなってきた。成長ですね。諦観か。人間は慣れる生き物です。
「何食べたい?僕は魚の予定だけど」
「うずらの卵。ロールキャベツ。鱒寿司」
目をこすりながら椅子に座るとやっぱりいつのまにかあった。キルと同棲するようになってから我が儘なご飯しか食べてないな私…。
「レイ。明日の予定なんだけど」
「んー?」
「注文していたモノを受け取りに行くんだけど、付いてくる?」
「んっ!?いくいく!」
次回予告。レイちゃん、世界を知る。




