とりっぷすわっぷ
「そういやキルが魔王て明言したっけいやしてねぇなまいっか」
って昨日なった。
「ふぁっ!」
いつものようにいちゃいちゃ(過小表現)してから力尽きて寝たんだけど、今夜はふと真夜中に起きた。
さっきまで見ていた夢…体の疼き…これは…。
っふ、『お迎え』が、来たようだな。つまりトイレいきたい。
ちらっと顔を横向け隣を見てみると、キルの端正な寝顔があった。…この娘息ちゃんとしてる?全然胸上下しないんだけど…。
というかキルって寝るんだ。初めて知った。キルの寝顔って超激レアだなぁ(ソシャゲ脳)。いっつも私が先にダウンさせられるからなぁー。
さて、トイレいくなら早く行かないと。ここで余計なこと考えてても仕方がない。
服は没収されてるから、ぬくぬくしたお布団から抜け出すのは難易度高いけど、漏らすほどじゃあない。プレイ中はともかく、そうじゃない時に漏らしたら私のプライドが定価10円になっちゃう。
そろーりと布団から抜け出して、トイレ行って戻って、またそろーりと布団に戻るだけ。多分キル起こさずにいけるでしょ。
よしっ。じゃあまず布団からそろー───
「どこにいくの?」
───ようとした瞬間、私の体が引っ張られ視界が回転したと認識した時には、私はキルに馬乗りにされていた。
キルは無表情だった。ただ、その瞳だけは爛々と紅く揺らめいている。体勢は、馬乗りかつ、前のめりで、私の顔を挟むようにベットに手を付き、私に正面を向かせ視線を合わせることを強要していた。
これって床ドンって奴ですか。きゃっ///。
…ってえええやばいふざけてる場合じゃないやばいこれ。知ってるよ私これ選択ミスったら監禁エンドっての入る奴でしょ。監禁は言い過ぎにしても一週間ぐらいはずっとお仕置き部屋容れられる奴でしょ。いや絶対監禁されるわ甘い事考えんな私。
えーとこの場合何言うのが正解なんだ素直にトイレでいいのかないやまず安心させるのが先か!
選択が決まった私は、ゆっくりと、刺激しないようにキルの頬に手を添えた。
「大丈夫。私はどこにもいかないよ」
ゆっくりと優しく、慈しむように頬を触りながらそう言う。
キルは───きっと私と同じで、今まで恋愛なんてしたことがなかったんだと思う。
私を依存させる強い独占欲も、どこにもいかせようとせまい執着心も、力があって、他人に頼ることがなかったキルが、他人の恋愛、普通の恋愛を知らなかったが故にどうにか無理やりでも私を手に入れようとした結果だろう。
確かに、キルは一人でも余裕でも生きていけるだろう。
ただ、やっぱり根本的には人は独りには耐えられないものなのだ。
…はー。何シリアスやってんだろ私。しっかりしろーこれはギャグ方面なんだぞ。中途半端にあんま固めてない設定でシリアスしちゃダメだって。
気が付けば、キルの瞳はいつも通りになっており、私がキルの頬を撫でている反対側の手で、こちらも私の頬を撫でていた。落ち着いたらしい。あっ控え目にだけど私の手に頬擦り付けてる。ラブリー。
「流石のキルでも、寝起きは本心でるー?」
私がさっきのことを一切気にしていないように、笑顔で問いかけると、彼女は無表情だった顔を、いつものように微笑みながら頬を撫でていた手を唇に移動させてきた。
「寝入っては無かったし、レイが起きた時には僕も起きてたよ。…ただ、ちょっと不安になっただけ」
「そっか。大丈夫、キルが不安に思ってる事なんて、起きないから」
「そうだと信じているよ」
私も、キルの事が大好きだからね。
「ところでもーそろそろトイレいっていい?」
「…良いことを思い付いたよ」
「どう考えても良いことじゃないね!?」
「………」
「………」
私とキルは、超至近距離で向かい合っていた。というか、超至近距離もなにも、鼻先は接触していた。
無表情なキルの赤い瞳には、これまた無表情な私の顔が映っていた。
キルも、私も。お互い何かするわけでもなく、ただ、視線を切らすことなく、無言で、無表情で、不動で、見つめあっている。
「…っ、はい、お疲れー。付き合ってくれてありがとねー」
「可愛い恋人のためなら、別に何でも構わないよ。えっちしないふれあいも、僕は好きだしね」
まぁ、私がやりたいっていったからしてただけなんですけどねー。何て言うか、扉絵?あれで百合カプが見つめあうのをいつか見たのを覚えてて、唐突にしたくなったんだよね。
いつもと違い、私に微笑みを向けない、無表情なキルは、冷徹っぽくて、孤高の感じがあって、かっこよくかわいかったです。まる。
現像された写真は…。うん。父親が写真を財布とかに入れて大切に持ち歩く理由が解る。すっごい良い。
「あとテンプレっていったら…キルキルー。私たちの意識入れ替えれない?なんなら見た目だけ双方入れ替えるとか」
「できるよ。意識のほうは、自我崩壊することもあるし、見た目の変換にしておこうか」
なにそれこわ。
ぺたん、と女の子座りしているキルはその姿勢のまま、人差し指を立て、聞き取れない言葉を喋り始めた。ハテナッサルプロモセルポティトゥ、とかなんかそんな感じ。イメージはマ○オRPGでの会話。弟のオウケィしか聞き取れないよ
私がいつものように余計なというか脱線したことを考えていると、急に意識が跳んだ。が、すぐに戻ってきた。意識をはっきりさせるため眼をパチパチとしたりする、と…あれ?私の視点こんな高かったっけ?
っはとして自分を見下ろすと、見慣れた黒い服が見えた。気づけばフード被ってる。
フード、いいよね。被ってると、安心するというか、人間はこうあるべきだ、となるというか…。
何で私はフードバブみを感じてるんだ。
「んー。結構視界の高さ変わるね。見下ろしたら相変わらずの光景だけど」
キルはいつもより10cm程低い視界と私の絶壁が気になるご様子だった。つられて私も見下ろしてみるが、いつもより?ちょっと?お腹が?見にくい?気が?する?
…まぁいーよいーよ。私もキルもひんぬーな事そんな気にしていないもんね。っは!所詮は脂肪よ!
というか今気づいたけど、見た目の変換なのに身長も変わってるのかこれ。しゅごい。
今変換したら主語いってなった。主語いって何?
「で、レイの言うテンプレでの入れ替わりって、この後どうするんだい?」
「え?そりゃぁもう!………」
「計画性って言葉知ってるかな?」
あー聞こえない聞こえない~。
というか声も変わってるのか。私の声でキルの罵りを受けると、興ふ、ん…す………閃いた!
「レイ、大好きにゃん♪」
広間に響き渡る、キルの声。
暗転する、私の視界。
囁かれる、私の声。
「ひとつ。僕はレイが望むなら、いつだって愛の言葉を言ってあげよう。
ふたつ。僕も小動物は好きだよ。愛くるしいし、君に演じてもらっても可愛いしね。
みっつ。三日は覚悟してね?」
やだもう。キルってば情熱的なんだがら。(震え声)




